ステーブルコインの米サークル、日本での発行を検討開始:CEOインタビュー

米ドルに連動するステーブルコイン「USD Coin(USDC)」を発行する米サークル(Circle)が、アジアで存在感を強めている。6月に来日した同社共同創業者・CEOのジェレミー・アレール氏は、日本での発行についての検討を開始したと話す。

ブロックチェーン上で発行され、クロスボーダー決済・送金を可能にするステーブルコインは、アフリカと南米などのエマージングマーケットや、暗号資産(仮想通貨)取引市場でそのユースケースが増加している。日本では6月に改正資金決済法が施行され、電子決済手段に位置づけられたステーブルコインの発行が可能となった。

USDCの流通量は現在、約280億ドル(約4兆円)。USDCが米ドルに連動するために、サークルはその裏付け資産として約281億ドル相当のファンドを組成。その中身は米ドル(現金)と短期国債が主な資産だ。世界最大の資産運用会社であるブラックロック(BlackRock)はサークルの株主の一社であり、同ファンドの運用を行っている。

アレールCEOにサークルの世界戦略と、日本における今後の取り組みを聞いた。


アメリカの主導権とステーブルコイン規制

──アメリカ市場を見ると、SEC(証券取引委員会)がコインベース(Coinbase)を提訴するなど、暗号資産市場全体が揺れている。規制面では、EUに遅れをとっているようにも思えるが、アメリカ政府はこの先、暗号資産の規制整備をどう進めていくのだろうか。

まず第一に、アメリカの電子マネーに関する規制やマネーロンダリング防止に関する暗号資産企業の必要要件は、非常に長期間実施されている。我々サークルはこの業界で最も厳しい規制を受けている企業の1つだ。つまり、アメリカには明確な規制が存在しないという考え方は正確ではない。

我々はUSD Coin(USDC)を、PayPalやApple Payなどの電子マネーと同じルールの下で規制されたプロダクトとしてスタートさせた。また、ステーブルコインに対する規制機関であるNYDFS(ニューヨーク州金融サービス局)の規制も受けており、きわめて規制に準拠した形で運営してきた。他の国々が明確な規制を導入する以前からだ。

そして今、ステーブルコインの時価総額は大きくなり、ドル連動型ステープルコインは全世界のほぼ全市場に広がっている。アメリカ政府は3年前から世界各国政府が集まる場で、世界中で統一的なステーブルコイン政策を実施する必要があると述べている。

G20でリーダーシップを発揮したのはアメリカ政府であり、G20にステーブルコイン政策に対する勧告を策定するよう働きかけた。そして実際におよそ3年前に実現した。FSB(金融安定理事会)からステーブルコイン規制についての勧告が出された後に、G20諸国は合意。つまり、G20諸国はこの勧告を受けて、国内法を新たに整備しなければならない。

EU、日本、シンガポール、香港、韓国、アラブ首長国連邦(UAE)、イギリスなどが法整備を行った。規制当局にステーブルコインを規制する権限を与えた。世界中でそうした進展が起きている。

もちろん、国によって新しいルールを作るやり方は異なる。日本、イギリス、EUで異なり、アメリカでは新しい規則を作るには議会の決議が必要だ。そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)や財務省、ホワイトハウス、連邦議会の意見を取り入れながら、新たにアメリカのステーブルコイン規則を策定するための膨大な作業が行われている。

実際、議会ではまもなくステーブルコイン法案を前進させるための非常に重要な決議が行われる予定だ。最終決議ではないが、最初の重要な決議だ。つまり、アメリカでは多くの進展が見られる。来年末までには、世界の主要市場すべてでステーブルコインに関する規制が確立されるだろう。

ステーブルコインは公式な電子マネーのようなものになり、利用はさまざまなところに広がる。世界中の市場で規制が導入されれば、より大規模なマスアダプションが実現すると考えている。現在、普及率はまだきわめて小さいが、世界中の何十億という人々に利用される可能性がある。各国で国内法が整備されなければ実現しない。

今後3年〜5年というスパンで考えると、ステーブルコインは暗号資産市場でのみ使われているものから、世界中の人々やビジネスで使われるものになると信じている。

アレールCEOが注目する市場

──投資会社のバーンスタインは、ステーブルコイン、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、セキュリティトークンがけん引する現実資産(RWA)のトークン化は、今後5年間で5兆ドルになるとレポートで述べた。この1、2年、地理的にはどの市場がステーブルコインのユースケースを牽引すると考えているか。例えば、アフリカを含むグローバルサウスだろうか。

世界中の多くの市場でデジタルドルに対する需要があり、その一部は投資や取引に使われている。エマージングマーケットからの需要はますます高まっている。アフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアでは、人々や企業がドルの安定性を求め、また、インターネットでの取引を簡単に行うための利便性を求めているため、需要が高まっている。

1週間ほど前に、アフリカ最大の暗号資産取引サービスであるイエローカード(Yellow Card)との提携を発表した。イエローカードは現在、アフリカの主要都市でUSDCの啓蒙を進めており、入手方法を伝え、現地通貨からUSDCへの交換機能も提供している。我々は今、デジタルドルへの需要が高まっているすべての市場でパートナーシップを進めている。

──EUや北米、アジア、特にシンガポールや日本をどう捉えているか

アジアの特定の市場では、すでにステーブルコインに対する強い需要とユースケースが存在すると考えている。香港やシンガポールのような金融センターは、すでにドル連動型ステーブルコインの大きなマーケットであり、我々はこれらの地域にクライアントを持っている。

シンガポールでの事業拡大のために、主要決済機関(Major Payment Institution:MPI)の認可を取得したところだ。東南アジアではUSDCの需要が非常に高い。ヨーロッパでの需要も大きくなるだろう。規制が導入されれば、フィンテック企業、金融機関、企業がさまざまなタイプの取引にステーブルコインを利用できる環境が整うからだ。

「デポジットトークン」と「ステーブルコイン」

──米銀最大手のJPモルガン・チェースは今年、「デポジットトークン(Deposit Token)」に関するレポートを公表した。デポジットトークンと、サークルが手がけるステーブルコインは今後、どのように世界で利用されていくと考えているか

我々の焦点は、さまざまな金融機関や世界のさまざまな市場で機能するデジタルドルの利用にある。そして、どのような開発者でも、きわめて簡単に開発して利用できるオープンプロトコルやオープンスタンダードのようなものを構築すること。これがUSDCの開発スタンスであり、オープンなインターネットベースのモデルこそが最もイノベーティブだと考えている。

また、トークンの裏付けとなる資産を貸し出すことができないフルリザーブモデル(発行済みステーブルコインを100%裏付ける資産を準備資産として保有するモデル)も重要だと考えている。トークンの裏付け資産は貸し出すことができない。その方がより安全な基盤になると考えている。

銀行預金をトークン化したものは、特定の銀行とその顧客だけのものであり、インターネット全体にオープンではない。ある銀行の顧客にとっては便利かもしれない。しかし、世界中で広く利用されるものではない。我々は、パブリックブロックチェーンをベースにしたステーブルコインの方が適していると考えている。

銀行は預金を貸出に回すことでリスクを取っている。もちろん、JPモルガンは非常にセキュアな銀行であり、世界でも有数の規模を誇っている。JPモルガンの安全性を批判するつもりはない。だが我々はフルリザーブモデルこそが、インターネット規模の金融システムのベストな基盤となり、最も安全なデジタルキャッシュを実現すると考えている。

サークルの日本市場展開

──日本は現在、世界第3位の経済大国だが、人口減少と高齢化の問題に直面している。30年にわたって経済は停滞し、今は世界の潮流に逆行して金融緩和が継続している。この先3〜5年、サークルにとって日本はどのような位置づけにあるか。重要なマーケットとして捉えているか

グローバル企業として、我々は世界中の大きな市場で成長したいと考えている。USDCはすでに190カ国で使われている。日本には長い歴史があり、国境を越えた貿易や外貨取引、グローバルな商取引が行われている。ステーブルコインがそうした用途でより多く使われるようになれば、日本はきわめて大きなマーケットになると考えている。

具体的には、施行されたばかりの新しいステーブルコイン規制はきわめて重要な第一歩で、政府とステーブルコイン発行者に優れたフレームワークを提供している。また海外のステーブルコイン利用のフレームワークを定めた初めての取り組みでもある。こうしたことを行っている国は多くはなく、私は政府と金融庁が行った最も重要なことと考えている。

我々は日本の企業、金融仲介業者、デジタル資産取引所、フィンテック企業がUSDCを使えるようになることを願っている。もちろん、新しいルールとUSDCが日本市場でどうすれば利用されるようになるかを注意深く検討している。

また、我々には複数の新製品がある。USDCとユーロコイン、さらにステーブルコインのインフラで知られているが、「サークルWeb3サービス」と名付けた新しいテクノロジープロダクトも導入している。実際、「サークル・プログラマブル・ウォレット」をベータ版として初めて商用化したところだ。これは金融サービスではなく、テクノロジーサービスだ。

「サークルWeb3サービス」は、従来のWeb2開発者、大企業、フィンテック企業、もちろんWeb3開発者がデジタルウォレット・アプリケーションやNFTアプリケーションなど、ステーブルコインのみならず、あらゆる種類のアプリケーションを開発することを支援するものだ。もちろん、日本の顧客にも提供したいと考えており、世界中の開発者がまもなく利用できるようになる。

京都で開催された「IVS Crypto 2023」に参加したばかりだが、日本では、政府、省庁、産業界から、Web3に対して多くの期待が寄せられている。私の考えでは、日本はWeb3テクノロジーにとって、世界で最もダイナミックな市場の1つになり得る。政府の強力なサポートがあることは、企業や開発者が積極的に取り組めることを意味する。

「サークルWeb3サービス」の1つに「サークル・プログラマブル・ウォレット」がある。これは、アプリを開発している企業を支援するもので、ブランド・アプリケーション、ゲーム、決済アプリなど、Web3テクノロジーを使用し、デジタルトークンの保有や取引をサポートし、簡単な決済を実現するアプリの開発を目指している人なら誰でも活用できる。自社のアプリケーションにインテグレートしたり、バンドルするために必要なテクノロジーがすべて揃っている。つまり、アプリケーション開発者が「サークルWeb3サービス」を使えば、Web3テクノロジーを自身のアプリケーションに組み込むことができる。

──日本では改正資金決済法によって、銀行、信託銀行、資金移動業者がステーブルコインを発行することが可能になった。サークルは日本で発行者を目指すのか?

非常に注意深く検討している。例えば、アメリカでは我々はデジタル資産会社および送金会社として規制されている。シンガポールでは現在、送金会社として規制され、デジタル決済トークンの発行や国境を越えた送金も可能だ。ヨーロッパでも、デジタルアセット・サービス・プロバイダー、すなわちeマネートークン発行会社としての認可を進めている。

そして今、私は東京にいる。さまざまな機会を探り、理解しようとしている。日本はサークルにとって非常に魅力的な市場になる可能性があると考えている。

──海外のステーブルコインについては、流通業者が裏付け資産を保有しなければならないが?

求められる要件は十分に理解している。似たような規制が他のさまざまな市場で適用されており、どのような方法が最も適しているかを評価している。日本にはきわめて有力な企業、厳しい規制をクリアした企業など、潜在的なパートナーは数多い。どのようなパートナーシップが可能かは我々にとって非常に興味深い。

──日本でのステーブルコインは円連動型?それとも、ドル連動型になるのか?

需要を調査しているところだ。法定通貨連動型ステーブルコインは非常に有用だと考えている。世界の主要通貨がステーブルコインとして利用できるようになることを望んでいる。ドルとユーロのステーブルコインはすでに発行されている。特に貿易に多く使われる通貨、外国為替に多く使われる通貨は、潜在的に魅力的だと考えている。円連動型ステーブルコインは新しいチャンスになるだろう。

──日本では、例えば、三菱UFJ信託銀行がこの分野に積極的に取り組んでおり、「プログマ(Progmat)」というプラットフォームを展開している。彼らはステーブルコインの発行に取り組んでいるが、海外のステーブルコインも受け入れようとしている。すでに交渉などを行っているのか?

個別企業との交渉についてはコメントできないが、我々は優れたテクノロジーを保有しており、ステーブルコインに関しては世界最高の技術を持っている。強力なソフトウェア・インフラ企業であり、必ずしもテクノロジーパートナーは必要としていない。だが、他のタイプのパートナーは必要だ。

世界中の決済・送金アプリをステーブルコインがつなげる

──日本ではすでに、PayPayやLINE Payのようなアプリが普及している

日本の決済アプリは本当に素晴らしいと思う。我々はコンシューマー向け決済の会社ではない。我々は決済アプリを持っていない。決済アプリは将来、大きなポジションを占めるようになるだろう。そして、世界中のほとんどの市場で、ほとんどの決済アプリはステーブルコインをサポートする必要があると考えている。

現状、決済アプリにまつわる問題の1つは、閉じたものであること。いわゆる「ウォールド・ガーデン(壁で囲まれた庭)」になっていて、同じアプリ間でのみやり取りすることができる。例えば、アメリカの送金アプリ「ベンモ(Venmo)」を持っていても、PayPayやAli Pay、Cash Appにお金を送ることはできない。

ステーブルコインなら、ウォレット間の相互運用性を高めることができる。つまり、デジタルウォレットなら、違うデジタルウォレットでもステーブルコインを使ってお金をやり取りできるようになるはずだ。電子メールアドレスを持っていれば、異なる電子メールアプリやサービスを使っている人にもメールを送ることができることと同じ。

ステーブルコインは、あらゆるデジタルウォレットの間で価値を移動させるためのオープンプロトコルのようなものだ。USDCやユーロコインはオープンプロトコルであり、誰でもプラグインを開発して利用できる。アプリにUSDCのサポートを追加するためにサークルと交渉する必要はない。

アプリを開発して、USDCのスマートコントラクトに接続すれば、USDCをサポートできる。ウォレット開発者にとって、価値を移動させるオープンネットワークに接続することはとても簡単だ。ステーブルコインは、多くの人たちがその上でアプリを構築できるプラットフォームのようなもので、さまざまな決済アプリが互いに連携できるようになる。

──最後に、今後5年〜10年、サークルはどのような企業になっていくのだろうか

サークルは、金融プラットフォーム企業だと考えている。インターネットテクノロジー企業であり、金融インフラ企業。そして、マーケットインフラとプラットフォームを提供し、多くの人がその上で開発できる環境を提供したいと考えている。一部はより規制された金融市場向けユーティリティのようなものになり、一部はソフトウェアテクノロジーやインターネット・テクノロジー企業に近いものになるだろう。

ブロックチェーンテクノロジー、インターネット、オープンソースソフトウェア、これらすべてが今、通貨システムと組み合わさっており、グローバルな通貨システムをインターネットベースの金融システムにアップグレードしようとしている。そのためには、新しいタイプの企業が必要だ。

我々はリスクを取るレンディング企業にはならない。リスクを取る銀行ではない。我々は最も安全なインフラ、最も安全なユーティリティを提供したいと考えている。

|インタビュー:佐藤茂
|文:増田隆幸
|写真:多田圭佑