「Threads」がユーザー1億人を獲得できた理由

ツイッターはもう長年、ディスラプションの機が熟している。多くの人が、ツイッターに文句を言ったり、ツイッターがどれほどひどいものになったかに抗議するためにツイッターを去っている。ユーザーに真の力を与える分散型ソーシャルネットワークが、ツイッターに挑むチャンスは数多くあった。そして実際に、かなりの数の試みがなされてきた。しかし、ツイッターに匹敵しそうなものは、これまでひとつも登場してこなかった。

しかしここに来て、イーロン・マスク氏の権力の行き過ぎへの不満が広まったおかげで、ツイッターのライバルがついに登場した。しかも、どこかの暗号資産(仮想通貨)ネイティブのスタートアップが手掛けたものではない。同様に過剰な権力を持つビリオネアが支配するメタ(Meta)が手がけた。それでもThreadsは、1週間足らずで1億人のユーザーを獲得してみせた。

痛いほど明白だが、ここには教訓がある。ソーシャルメディア、少なくとも大規模なソーシャルメディアに関しては、人々は最終的にネットワーク効果と使いやすさを大切にする。それに尽きる。たしかに、データプライバシー、より質の高い議論、(それが正確に何を意味するにしても)「言論の自由」の保護、自らのコンテンツに対するより大きな所有権などがあれば、それは良いことだろう。しかし、そのような懸念事項はまだ、優先事項ではない。

他の競合にはない勢い

話を進める前に、ひとつはっきりさせておこう。Threadsは、必ずしも大成功するとは限らない。プラットフォームはときに、華々しく登場しても、忘れ去られてしまうこともある。クラブハウス(Clubhouse)を覚えているだろうか?

しかしThreadsは、5日間で1億人のユーザーを獲得し、その数字はまだ伸びる可能性がある。ライバルの新興企業には、そうした勢いはない。マストドン(Mastodon)は、月間アクティブユーザーが約200万人とされる。分散型ソーシャルメディア・プロトコルのNostrは、正確な数字を知ることは難しいが、分散型SNS「Damus」によれば、iOS向けアプリのDamusとAndroid向けアプリAmethystのダウンロード数に基づく推定では、50万から100万人程度となっている。

招待制のBlueskyは、4月末時点で約5万人のユーザーを抱えており、それ以降、少なくとも5万8000人が新たにサインアップした。これらの数字は悪くはないが、これは比較的成功しているライバルの話であって、あなたが聞いたこともないようなライバルではない。

Threadsの現在の勢いは基本的に、Threadsが20億人以上の月間アクティブユーザーを誇るインスタグラムと統合されていることに起因する。つまり、ユーザーはすでに存在している。

人々は何年も前から、より小規模で親密なプラットフォームを切望していたが、多くの場合、バイラリティ(クチコミなどで人気が広がること)の可能性に病みつきになっている。私自身、小規模で親密なプラットフォームを開発しようとしたチームの一員として、個人的に経験している。完成品は完璧にはほど遠かったが、ツイッターやフェイスブックの圧倒的な数と競争することが、新規参入者にとってどれほど難しいかを身をもって体験した。

Threadsにはもうひとつ、鍵となる特徴がある。すでにインスタグラムのユーザーであれば、オンボーディング(参加)が簡単だ。まったく新しいアイデンティティを確立する必要はなく、インスタグラムでフォローしている人もThreadsへと移行できる。

Threadsの初期の成功は、ソーシャルメディアのスタートアップにとってだけでなく、「メインストリームへの普及」という捉えどころのない目標を追い求める暗号資産(仮想通貨)にとっても教訓となる。通貨もソーシャルメディアと同じで、十分に多くの人が利用して初めて、本当の意味で機能するものだからだ。

大切な教訓

そこで、いくつかの重要な教訓を紹介しよう。

少なくとも最初のうちは、より大きな組織と協力しなければならないことがあるかもしれない。

言い換えれば、人がいるところに行くということだ。だからこそ、人々は「機関投資家への普及」やビットコインETF(上場投資信託)の可能性に興奮する。確立された顧客基盤を持つ、有名で信頼できるブランドを通じて、人々に暗号資産への入り口を提供することは、現時点では理にかなっている。

一例をあげれば、ポリゴン(Polygon)がインスタグラムと契約を結んだのも、そのためだろう。これは、すべてのプロジェクトに当てはまる解決策ではなく、暗号資産の楽しさや独自性の一部を奪う可能性もあるが、そのような戦略的提携の背景には明らかに論理的根拠がある。

オンボーディングと使いやすさは重要。

しかも、かなり重要だ。これはあまりに自明のようにも思われるが、多くの暗号資産プロダクトがいまだにわかりにくく、使いにくいままであることを考えると、繰り返して言う価値があるだろう。

いくら社会を作り変えるというロードマップを持った先見の明のあるプロダクトがあっても、ユーザーエクスペリエンス(UX)がひどかったり、人々がアカウントを作るために複雑な手順を踏まなければいけないのであれば、意味がない。

それはまた、良くも悪くも、中央集権型暗号資産取引所と、そのための明確な規制の枠組みを確立する政府が必要だろうということも意味する。確かに、こうした中央集権型取引所はDeFi(分散型金融)よりも安全性や哲学的な純粋さでは劣るかもしれないが、よりメインストリームな人々にとっては、慣れ親しんだ入り口を提供してくれるだろう。

人々はデータプライバシーと分散化に関心があるが、それほどではない。

マーク・ザッカーバーグ氏はユーザーデータの保護に関して、ほとんど滑稽なほど評判が悪い。しかし、少なくとも1億人の人々は明らかに、そこに目をつぶる準備ができている。Threadsのプライバシー規約に疑問を呈する人はいるが、おそらく多くの人はわざわざ読んでもいないだろう。そして確かに、多くの人々は中央集権的なソーシャルメディア・プラットフォームがビリオネの気まぐれに左右されるという考えを嫌っていたようだが、そこも受け流すことができたようだ。

だからと言って、データプライバシーが重要ではないと言っているわけではない。もちろん重要だ。分散化にも魅力がある。しかし、そのような高尚な目標だけでは十分ではない。ネットワーク効果や使いやすさがなければ、製品をメインストリームに押し上げることはできない。それが、Threadsの華々しい5日間から学べる主な教訓だ。

エミリー・パーカー(Emily Parker):CoinDeskのグローバル・コンテンツ担当エグゼクティブ・ディレクター。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:rafapress / Shutterstock.com
|原文:Why Threads Got 100 Million Users When Other Twitter Rivals Could Not