「Threads」はリブラとメタの二の舞い

Web2最大のプラットフォームの創業者でありCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、暗号資産(仮想通貨)の世界での開発にもっと時間を費やしていたいと願っていることは、もうずいぶん前から周知の事実だ。そしてサッカーバーグ氏は今度は、メタ(Meta)が手がけるツイッターのような新しいソーシャルメディアアプリ「Threads」で、またそれに取り組んでいる。Threadsは、分散化の魅力を活用したアプリだ。

3度目の正直?

私たちは、失敗に終わったステーブルコイン「リブラ(Libra)」で、ザッカーバーグ氏の暗号資産に対する羨望の気持ちを目の当たりにした。ザッカーバーグ氏がブロックチェーンを基盤にしたメタバースにインスピレーションを受け、フェイスブックの名称を「メタ」に変更するという(いまだに唖然とさせられる)決断を下したときにもその気持ちが明らかとなった。

ザッカーバーグ氏は、明らかに失敗する運命にあった大がかりな方向転換にすべてを賭け、現在ではそれは、間違いなく失敗に終わっている。

ザッカーバーグ氏の暗号資産関連の3回目の挑戦は、はるかに野心的ではないことだけが理由だとしても、最初の2回よりもうまくいくかもしれない。フェイスクブックの成功のほとんどと同じように、Threadsは既存プロダクトのコピーだ。

まだインテグレートされていないが、インスタグラムのアダム・モセーリ(Adam Mosseri)CEOによれば、Threadsは最終的にオープンソースのマストドン(Mastodon)と同じActivityPubプロトコルを使用することになる。ActivityPubは、W3Cというきわめてメインストリームな組織が手がけるプロトコル規格であり、とりわけデジタルアクティビストたちが長年、ソーシャルメディアサービスに対して求めてきた「データ・ポータビリティ」を提供する。

Threadsのバックエンドデザインに最も直接的な影響を与えたのは、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏が手がける、実験的なツイッターの競合「BlueSky」かもしれない。BlueSkyは、ActivityPubプロトコルに匹敵する独自プロトコル「AT Protocol」を開発中。ドーシー氏自身も、2016年頃のトークン化されたSteemitにまでさかのぼる、暗号資産における分散型ソーシャルメディアの流れに影響を受けたことは間違いない。

また、ドーシー氏を含むビットコイン支持者の間では最近、競合となる分散型ソーシャルメディア「Nostr」が人気を博している。さらに、ブロックチェーンを基盤とし、トークン化されたシステムだが、意義のある普及には至っていない、DeSo(旧BitClout)もある(あった?)。

分散化がすべてではない

しかし、Threadsが「分散型」であるという考え方は、すぐに覆される可能性がある。その理由のひとつは、バックエンドの分散化は、メタの大好きなこと、つまりThreadsのユーザーデータの収集を止められるようには思えないことだ。

App Storeの情報開示によると、Threadsはメタがターゲティング広告ビジネスモデルを実行するために必要なあらゆるユーザーデータを収集する。

Threadsがまだヨーロッパでローンチされていないという事実も示唆に富んでいる。おそらくヨーロッパのプライバシー基準がアメリカのよりもはるかに厳しいからだろう。

この分散型バックエンドとデータ収集のフロントエンドという組み合わせは、メタ(当時のフェイスブック)がリブラで行っていた組み合わせと完全に一致する。フェイスブックは、リブラプロトコルが分散型であると宣伝していた。それ自体が疑わしい主張だったが、実現していれば、ほとんどのユーザーは、Facebook.comと同じくらい熱心にデータを収集するウォレットに送り込まれていただろう。

また、Threadsのユーザーデータが実用上、どの程度「ポータブル」になるのかもはっきりしない。批評家たちは、ActivityPubプロトコルを使用するもうひとつのプラットフォームであるマストドンについて、非常に不便で直感的でなく、あるサーバーから別のサーバーへの移動が特に難しいと評している。

ユーザーがThreadsを簡単に去ることができるような仕組みを構築するかどうかは、メタの手に委ねられているように思えるが、それはメタの経済的利益にとっては得策とはならないだろう。そして上場企業であるメタは、経済的利益に得策とはならないことはしない。

また、Threadsが「クリプトツイッター」と呼ばれるツイッターの一角を構成する、暗号資産の議論や人々の新たな拠点になる可能性はきわめて低いだろう。

ひとつには、暗号資産にはメタに対する敵意がきわめて根強いことが理由にあげられる。その主な原因は、プライバシーに対する長年の無関心にある。インスタグラムからユーザーが流れ込んでくるため、Threadsのユーザー層は「魅力的だが、スマートではない」人たちになるとする分析もある。

イーロン・マスク:偶然の分散化ヒーロー?

イーロン・マスク氏がいなければ、このような展開にはならなかっただろう。マスク氏によるツイッターの壊滅的な買収は、ある指標によれば、ツイッターの企業価値のおよそ300億ドル(約4兆2000億円)失わせ、暗号資産関係者が何年も前から警告してきたことをついに大勢の人々に確信させた。

つまり、単独のコントロールポイントを持つ、ユーザー生成型メディアプラットフォームは、長期的にはユーザーにとって好ましくないということだ。

正直に話すと、私自身もこの悲劇を身を持って経験している。ツイッターを10年以上使ってきて、ここ数年でようやくフォロワーが増え始めてきたが、マスク氏に足をすくわれただけだった。認証システムの非生産的な見直しから、信頼できるメディアへの敵対的な嫌がらせ、特定の外部リンクのブロックまで、悪い決断は絶え間なく続いている。

マスク氏の決断は、ユーザーの流出を顕著にし、先週には閲覧制限でその頂点に達した。その後、閲覧制限は緩和されたようだが、その発表が多くのユーザーにとっては分岐点となった。

まだその数はわからないが、ここ1週間で、先手を打ってツイッターに悲しい別れを告げる声や、代わりとなるどのプラットフォームに移動しようかと議論する声が飛び交っている。

メタは血の匂いを嗅ぎつけ、攻撃の時を選んだようだ。テックメディア「The Verge」によると、匿名のメタ幹部は従業員に対して「『健全に運営されるプラットフォームに関心のあるクリエイターや著名人から話を聞いている』と語った」という。ニューヨーク・タイムズのマイク・アイザック(Mike Issac)記者は、マスク氏による閲覧制限騒動の機に乗じようと、Threadsの立ち上げが早まったとする内部関係者の発言を引用している。

(私を含む)多くの人が、マスク氏の失態は、ツイッターに取り憑かれた人たちが、デジタル中毒の束縛から解き放たれ、自然に触れる絶好の機会を提供するとジョークを言っている。ツイッターの没落が、真にパブリックで分散化されたデジタルインフラの重要性を痛感させてくれるなら、それはさらに大きな恩恵となるだろう。

ソーシャルメディア界の大手であり、破壊的兵器ともなり得るメタは、そのようなビジョンをゴールまで導くのにふさわしい存在とは決して言えないが、そもそもその必要もない。

リブラは失敗に終わりながらも、暗号資産技術を大きく正当化することになった。同じように、Threadsが分散型バックエンドを採用したことは、そのアイデアを大々的に支持するものであり、より広範なActivityPubエコシステムを力強く後押しする。Threadsユーザーの大半が、そんなことはちっとも気にかけないとしても。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Adrian Tusar / Shutterstock.com
|原文:Threads is Libra and Meta All Over Again