分散型ソーシャルメディア時代の到来か?【コラム】

暗号資産を基盤にした予測市場ポリマーケット(Polymarket)では、ユーザーたちはツイッターの新オーナー、イーロン・マスク氏を好意的に見ているようだ。

12月15日に満期を迎える賭けによれば、その日までに「ツイッターがサービス中断を報告する」と考えているのは、投資した人たちのわずか36%となっている。

もちろん予測市場は、間違いを犯さないものではない。しかし、情報に基づいた決断をしたいと考えている人にとっては、興味深いデータポイントを提供してくれる。

失う可能性のあるお金を実際に賭けさせることで、予測市場はユーザーに対して、最も起こりそうな結果だけに賭けるインセンティブを与え、自らの選好やその他のバイアスの影響を抑えることができるのだ。

マスク氏指揮下のツイッターが直面している厳しい逆風のことを考えると、この投票結果は一段と興味深い。報道によれば、ツイッターは従業員の半数を失い、広告主の多くは広告を一時停止したり、広告の規模を縮小。ユーザーも出て行っているようだ。ツイッターはもう終わりという声も聞こえる。

分散型への追い風?

シリコンバレーの既存企業の成長に追いつくのに苦戦してきた分散型ソーシャルメディアプロジェクトにとっては、朗報である。多くのアプリ、とりわけ非ブロックチェーン基盤のプラットフォーム「マストドン(Mastodon)」やいくつかの暗号資産を利用した代替アプリで、利用者が急増している。

ツイッターがどうなるかはまだ分からないが、より多様なソーシャルメディアが並存する状況の方が、最終的にはユーザーにとって利益となるだろう。

ツイッターをモデルに作られたオープンソースのマイクロブログネットワークであるマストドンは、ツイッターの混乱から最も恩恵を受けているようだ。現在29歳のユージン・ロッコ(Eugen Rochko)氏が2017年に立ち上げ、ドイツにあるNPOが主に開発を手がけたマストドンは、ここ数週間で50万人以上のユーザーを獲得した。

多くのユーザーは、マストドンはよりフレンドリーで簡素なツイッターのようだと語る。マストドンは「連邦制」ネットワーク。つまり、サーバーが単独の企業ではなく、多様なユーザーによってホストされているのだ。

マストドンのユーザーは、参加したいサーバーを選び、そのコンピューターを運営する人物が、自分のデータを操作することはないと信頼を寄せることになる。(フェイスブックやツイッターのユーザーが、これら企業を信頼しなければならないのと少し似ている。)

マストドンの手法のメリットは、プログラム運営のコストが拡散され、ユーザーのデータを悪用して収益を得るインセンティブが下がることだ。無秩序な言論の自由や、よりキュレートされたフィードなど、自分の好みに応じて、コンテンツモデレーションの基準がそれぞれに異なるサーバーから選ぶこともできる。

ユーザーがサーバーのオペレーターによってブロックされることはあるが、マストドン内の別のグループへと「ソーシャルグラフ」を移行することが理論的には可能だ。

しかし同時に、複数の新規ユーザーが、マストドンの分散型サーバーシステムは必要以上に混乱させるもので、ツイッターよりも動作が遅く、バグを抱えていると報告している。すべてのサーバーが最新版のマストドンを運営しているわけではないために、認証済みアカウントや他のユーザーを「リツイートする」機能など、特定の機能やツールを使えないユーザーも多くいるようだ。

ブルームバーグのブラド・サボブ(Vlad Savov)記者は、次のように指摘している。

「世界は、はるかにフレキシブルでカスタマイズしやすいリナックスのOSよりも、ウィンドウズやmacOSを好んでいる。私たちは、性能を犠牲にしてまでも、利便性を選ぶのだ。私たちは、何かをやってもらいたがる。そして何よりも、ツイッターなどの無料サービスで、多くのことを当然のもののように考えているのだ」

サボブ氏は間違ってはいないが、正しくもない。マストドンの欠陥とされるものの多くは、実際には主要な強みなのだ。しかし現状は、多くのユーザーが積極的に代替オプションを探し求めているにも関わらず、暗号資産基盤のソーシャルメディアプラットフォームがあまり勢いを獲得していない理由を理解する助けになるかもしれない。

多様な代替オプション

分散型金融の優良プロジェクト、アーベ(Aave)がインキュベーションしたソーシャルメディアプロジェクト、レンズ・プロトコル(Lens Protocol)は、より多くのユーザーを集めているようだ。

アーベのネーダー・ダビット(Nader Dabit)氏は、レンズ・プロトコルでは先週に100万件の取引があったとツイート。ユーザープロフィールや投稿の作成にNFT(ノン・ファンジブル・トークン)を使うソーシャルネットワークにしては、特筆すべき数字である。

イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏も、レンズの新規ユーザーの1人。代替オプションを「熱心に」実験しているとツイートした。

そのような代替オプションには、コインベース元スタッフのダン・ロメロ(Dan Romero)氏が共同創業し、「十分に分散化したソーシャルネットワーク」と自ら謳うファーキャスター(Farcaster)も含まれる。

ロメロ氏は最近のインタビューで、ファーキャスターはオンチェーンで保存する情報を極力する少なくし、「高品質」の「初期採用者」を「惹きつける」ことに多くの努力を費やしたと語っている。

結局のところソーシャルメディアプラットフォームは、ユーザーベースと同じくらいにしかよくなれない。これらのプラットフォームは、ユーザーが他の人がいるところに居たがるために、独占化の方向に進む傾向があるのだ。

トークン報酬でユーザーにインセンティブを与える、フェイスブックに代わるイーサリアム基盤のプラットフォーム、マインズ(Minds)は、多くのより新しい代替ソーシャルメディアよりも複数年も先んじたスタートを切っていた。

マインズは、人々が代替プラットフォームを安全装置のように使う傾向の典型例だ。つまり、主要なチャンネルで何か問題が生じた時に備えて、自分の考えを投稿しておく場所、ということだ。

マインズのホワイトペーパーには、暗号化された同プラットフォームのオープンソースプログラムは、「監視、アルゴリズムの操作、検閲」に耐性を持っていると、特定のユーザーベースを惹きつけそうな言葉使いで書かれている。

それも悪いことではない。マインズでは9月、アメリカからの訪問者数が約36万人にのぼった。

さらに、ウェブ3イノベーションは既存のウェブから隔離されたものでなければならないと言っているのでもない。例えば、メタのフェイスブックやインスタグラムはNFTの活用を検討しており、レディット(Reddit)の「デジタルコレクティブル」は、驚くような成功を収めている。

マスク氏は、暗号資産に関して意見をコロコロ変えているが、データの永続性や持ち運び可能な点、検証可能でオープンなアルゴリズムなど、業界の中核となる価値の多くはそれを目指して努力する価値があると考えている。

それを実現させる現実的な競合を持つことは、マスク氏にそのような変更をより早く採用させることを強いるかもしれない。(ただし、ツイッターの暗号資産部門の責任者テス・リナーソン氏は最近辞任し、暗号資産ウォレットへの取り組みもすでに凍結されたようだ。)

暗号資産ネットワークが、企業が保有する競合の規模に達するまで近いうちに成長する可能性は低い。ユーザーエクスペリエンスは多くの場合バグを抱えており、サービスはゆっくりだ。

しかし、1人のモチベーションを持った人間がやってきて、すべてを壊してしまう可能性があるという点について、安心感を与えてくれるのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:FellowNeko / Shutterstock.com
|原文:Decentralized Social Media – Has the Moment Come?