Web3は気候変動対策の資金調達に変革をもたらす

気温の上昇に伴い異常気象の頻度が増え続けるなか、Web3は気候変動との世界的な闘いに影響を与える最大の問題のひとつである「気候変動対策の資金ギャップ」に対処することができる。

第15回国連気候変動会議(COP15)の代表団は2009年、2020年までに途上国への気候変動対策資金供与を年間1000億ドル(約14兆円)とする目標を掲げた。それから10年半近くが経過したが、実際の資金調達額は210億ドル〜833億ドル(約2兆9800億円〜11兆8100億円)と推定されており、現在の推計で必要だとされる年間1兆ドル(約140兆円)に遠く及ばない。

資金の大部分は、先進国の政府や機関から提供されたもので、その中には、資源開発や搾取への事実上のサポートをグリーンウォッシュ(=環境を考慮しているとアピールすること)する手段として気候資金提供を利用しているものもいる。その結果、資金提供国によって融資条件が決定され、途上国にとっては他に選択肢となる資金調達方法はほとんどない。

だが、Web3は資金ギャップを埋めることに役立ち、さらには市民活動家が気候変動対策資金の主導権を政府や組織から奪い取ることを可能にするかもしれない。Web3は、何兆ドルもの個人投資家の資金をこの分野に流入させ、新世代の気候変動プロジェクトにインセンティブを与え、発展途上国に代替的な資金調達手段を提供することができる。

個人投資家の資本を取り込む

大きな問題のひとつは、気候変動対策資金が長い間、政府と機関投資家の領域だったことだ。個人投資家は、手つかずの「投資可能な個人資産」が8兆2000億ドル(約1165兆円)もあるにかかわらず、参加が許されていない。

ほとんどの個人投資家は、環境に大きなプラスの影響を与えられることと引き換えに、低いリターンを選ぶことを示す証拠がある。個人投資家も気候変動との戦いに参加し、環境に大きな影響を与えると思われるプロジェクトに資金を投じたいという明確なサインがある。

Web3はそれを実現できる。規制された国や地域では、個人投資家のために特別に作られた新しい金融商品を生み出すことができる。これには、既存の気候変動対策資産のトークン化、グリーンボンドのような大口の金融商品の小口化、特別目的の自律分散型組織(DAO)の創設などが含まれる。Web3はまた、法定通貨に裏付けられたステーブルコインを通じて、低コストで利用しやすい価値移動の方法も提供する。

個人投資家は、ライセンスを受けたWeb3ローンチパッドやローンチプールを通じて、透明性の高いクラウドファンディング・キャンペーンに参加することもできる。キックスターター(Kickstarter)のようなプラットフォームを通じて理論的には以前から可能だったが、Web3プラットフォームは、プロジェクトの評価やエスクローから、カーボンクレジットの発行や投資家へのステーブルコインの払い出しまで、ほとんどの構成要素がブロックチェーン上に置かれた相互に接続されたシステムの一部であるという決定的なメリットがある。

しかし、これらのツールを活用できるように個人投資家をWeb3に取り込むことは、依然として課題だ。

Web3を活用した気候変動対策投資がメインストリームになるには時間と労力がかかるだろうが、すでにWeb3に参加し、より良い世界の実現に向けて活動している個人投資家は数千万人もいる。この層は、新しいプロジェクトや気候資産に投資するための資金を十二分に持っている。

新世代の草の根気候変動プロジェクト

カーボンクレジットや再生可能エネルギークレジットの需要は着実に伸びている。マッキンゼーによれば、2050年までにその需要は100倍に増加する可能性がある。対照的に供給は伸び悩んでいる。理由は、森林再生や自然保護のようなテクノロジー主導ではない気候変動対策プロジェクトは、取り組みを開始し、規模を拡大するために必要な先行投資を集めるのに苦労しているからだ。

アジアでは、機関投資家はスケーラビリティを好み、コーヒーチェーンやフィンテックスタートアップのような消費者向けスタートアップを選んでいる。気候変動対策関連技術は、ベンチャーファンドの分野では健闘しているが、決してうまくいかない可能性もある、リスクの高い長期的な投資と見られている。対照的に、テクノロジー主導ではない気候変動対策プロジェクトは、VCが慣れ親しんでいるようなリターンを提供しない。

Web3は、資金調達プラットフォームとしての価値を証明してきた。ローンチパッド、特別目的DAO、そしてクアドラティック・ファンディングのような仕組みは、Web3プロジェクトを軌道に乗せるために数十億ドルを調達することをサポートしてきた。

同じことが気候変動対策や他のリジェネラティブ・プロジェクトにも利用できる。個人投資家のアクセスが開かれるだけでなく、機関投資家も彼らの期待に見合ったリターンを見出すことができるかもしれない。このような機会が整えば、気候変動対策プロジェクトを開始する金銭的インセンティブが格段に高まるだろう。

危機に瀕した国々に代替的な選択肢を与える

債務危機と気候変動はどちらも存続に関わる問題だ。先進国が自分たち自身が引き起こした問題と闘うために途上国に資金を融資することは、債務者が巨額の債務を返済し、気候変動の影響に対処するために継続的に借金をしなければならないという悪循環を永続させる。これは持続可能な道ではない。

Web3資金調達ソリューションは、希望を与えてくれる。発展途上国は、気候資産を豊富に持つ傾向にある。森林、マングローブ、サンゴ礁、太陽光などの資源は、未活用の大きな価値を秘めている。

各国政府は、環境・天然資源に関わる省庁や機関を通じて、グリーンボンド・プロトコルのようなWeb3資金調達プラットフォームを活用し、オンチェーンでカーボンクレジットや再生可能エネルギークレジットを生み出すプロジェクトに資金を提供することができる。それらのクレジットは、ネットゼロを目指す政府、企業、個人に販売できる。双方に利益をもたらす、持続可能な富の移転の一形態と考えてもらえばいい。

年間1000億ドルどころか、1兆ドルにもおよぶ気候変動対策資金を実現するためには、こうした解決策が必要だ。政府や機関による大げさなジェスチャーは、ニュースを飾るにはいいが、実際の現場ではほとんど意味をなさない。Web3は、個人投資家の資金へのアクセスを解き放ち、新世代の草の根気候変動対策プロジェクトを生み出し、規模を拡大し、危機に瀕した国々がついに気候変動対策資産を活用できるチャンスを与えるキッカケとなり得る。

要するに、私たち(投資家、政府、企業、個人)は、Web3が気候変動対策の資金調達をどのように良い方向に変えることができるかを真剣に考える必要がある。そうしなければ、私たちは自らの破滅を引き起こす張本人であり続けることになる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Web3 Could Revolutionize Climate Finance