グリーン経済を解き放つ:ブロックチェーンは気候フレンドリーな投資機会を変革する【コラム】

気候変動対策の必要性が一段と緊急性を帯びていくなか、サステナブルな成長とレジリエンス(回復力)を強化するイノベーティブなソリューションの探求はかつてないほど重要になっている。

ブロックチェーンテクノロジーは、グリーン経済における変革的なシフトを牽引し、複数のセクターを超えて気候にやさしい投資やイノベーションを促す先駆的なパワーとして台頭している。

ブロックチェーンは本質的に、分散型のデジタル台帳として機能し、広範なコンピューターネットワークにおいて、比類なき安全性と透明性を持って取引を詳細に記録する。この革命的なテクノロジーは、政府、民間企業、多国籍企業、そしてコミュニティが気候変動がもたらす多面的なリスクに適応し、リスクを軽減する方法を再定義する可能性を秘めている。

ブロックチェーンは画期的で価値あるツールだが、複雑で、相互に絡み合ったさまざまなソリューションの1つに過ぎない。気候変動に対処するためには、政府、企業、個人が力を合わせ、それぞれが多様なイノベーション、堅固な情報共有ネットワーク、サステナブルなインフラの力を活用する必要がある。

ブロックチェーンテクノロジーが気候変動との戦いにおいて特別な可能性を持つ理由は主に以下の3つだ。

  1. 自主的カーボンクレジット市場を強化し、何十億ドルをグリーン投資に向ける。
  2. 気候現象に対するパラメトリック保険の広範な普及を促す
  3. 国際的な関係者を調整するために必要なオープンデータインフラの開発を加速させる

パラメトリック保険:一定規模を上回る地震や特定の風速に達したハリケーンなど、損害と因果関係のある指標が契約時に設定した条件を満たした場合に、事前に定められた一定額の保険金を支払う保険。

ブロックチェーンの巨大な可能性を解き放つことで、私たちは今、よりグリーンな経済に向けた世界的なムーブメントに変革を起こせるかもしれない岐路に立っている。

オープンなデータインフラ

気候変動に対処するうえでの大きな課題は、高品質で信頼できるデータへのアクセスが不足していることだ。正確な気候データは、政策決定者から投資家まで判断を下す人たちがサステナビリティを促す思慮深い選択をするために欠かせない。ブロックチェーンテクノロジーは、オープンなデータインフラの基盤となり、気候データの安全かつ透明性のある共有を可能にする。

ブロックチェーンテクノロジーを活用し、気候データの共有と収益化に向け、高い透明性と信頼性を持ったプラットフォームを提供する分散型気候情報エコシステムがいくつも登場している。スマートコントラクトとトークンによるインセンティブを使うことで、データ提供者は貢献に対して公平な報酬を受けることができ、同時にデータの完全性とアクセシビリティを確保できる。

オープンなデータインフラによって、企業は信頼できる気候データにアクセスでき、新たな気候フレンドリーな投資機会を見極めたり、気候変動に関わるリスクを評価できる。

企業や組織はオープンなデータインフラを活用して、透明性があり、正確な気候リスクの評価と情報公開を実現できる。さらに規制当局や投資家たちが気候変動に関連したレポートや情報公開の改善を要求することに応じて、企業はブロックチェーンベースのプラットフォームを活用して、サステナビリティや責任あるリスクマネジメントに対する自社のコミットメントを示すことができる。

安全かつ高い透明性があり、アクセス可能なデータエコシステムを提供することで、ブロックチェーンテクノロジーは気候変動に対するアクションを長年阻害してきた情報格差を解消し、急速に変化する世界がもたらす課題とチャンスに効果的に対処できるよう、企業にパワーを与える。

自主的カーボンクレジット市場のスケーリング

自主的カーボンクレジット市場(VCM)は、二酸化炭素削減・除去プロジェクトの重要な資金調達メカニズムとして登場している。しかし現在のマーケットプレースには、不明瞭な価格設定や検証プロセスといった制約があり、業界全体の成長と可能性が阻害されている。ブロックチェーンテクノロジーは、透明性と効率性を高めることでカーボンクレジット市場を合理化、スケーリングし、企業や投資家にとってより魅力的なものにすることができる。

ブロックチェーン基盤のプラットフォームは、カーボンクレジットのトラッキングとマネジメントを自動化し、二重計上リスクを軽減、クレジットを検証可能でユニークなものにする。透明性が高まることで、価格設定はより正確になり、最もインパクトの大きなプロジェクトへの資本の流れを促し、気候フレンドリーな投資機会をより多く生み出すことができる。

ブロックチェーンテクノロジーはさらに、カーボンオフセットの購入や取引も一段とスピーディーかつ透明性の高いものにし、ブローカーや仲介業者の必要性を排除することもできる。さらにスマートコントラクトは買い手と売り手を直接つなぎ、取引コストの低減と市場効率性の向上に貢献する。

トークン化されたカーボンクレジットは、市場を公平なものに保つことに欠かせない監視、報告、検証システムを支える。さらにトークンは、変更があった場合には自動でアップデートされ、その価値は基盤となっているプロジェクトのパフォーマンスを正確に反映しているという、これまで困難だった課題を克服する。

このレベルの透明性と自動化は、サステナブルな投資ゴールを実現するために有効なツールとしてのカーボンオフセット市場に対する企業の信頼を構築するために欠かせないものだ。ブロックチェーンテクノロジーを活用することで、自主的カーボンクレジット市場はより効率的で信頼できる市場となり、企業は気候変動に対して意義のあるアクションを行い、カーボンオフセットを広範なESG戦略に組み込めるようになる。

パラメトリック保険

洪水やハリケーンなど、異常気象の頻度と深刻さは、伝統的保険モデルの限界を露呈した。パラメトリック保険は伝統的なものではないが、おそらく他の保険形態より効率的で透明性も高く、スケーラブルだろう。ブロックチェーンテクノロジーはパラメトリック保険の普及と拡大に重要な役割を果たすことができ、保険会社と保険加入者の双方にメリットをもたらす。

ブロックチェーンベースのプラットフォームは、スマートコントラクトを使ってパラメトリック保険の処理と支払いを自動化でき、時間のかかる保険請求の審査の必要性を減らし、保険金の支払いをよりスピーディーにできる。

データの管理、検証のために透明性があり安全なシステムを提供することで、ブロックチェーンテクノロジーはより安全なリスクモデルの開発と価格設定を可能にし、パラメトリック保険の広範な普及を促す。

チェーンリンク(Chainlink)などの分散型オラクルネットワークは、スマートコントラクトに改ざんできないようなデータを提供することで、このプロセスにおいて重要な役割を果たし、事前に決定された保険金の支払いのトリガーを正確で信頼できる情報に基づいたものにする。

正確なリアルタイムデータにアクセスできることで、企業は事業、バランスシート、サプライチェーン全体で気候変動のリスクにどれほどさらされているかを今以上に把握できる。これは企業がリスクマネジメント戦略や気候変動に関する計画について十分な決定をする際に必要不可欠となるかもしれない。

分散型オラクルネットワークが安全性を担保した、信頼できる実世界のデータという基盤の上に成り立つパラメトリック保険は、財政的なレジリエンスの構築と異常気象の悪影響を緩和するための価値あるツールとなるだろう。企業はパラメトリック保険のおかげで、不確実な気候状況の中を生き残り、成功に向けて十分に備えることができるようになる。

ブロックチェーンを超えて

ブロックチェーンテクノロジーは、一段と温暖化が進む地球で、さまざまな業界においてサステナブルな成長とイノベーションを牽引する大きな可能性を秘めている。オープンなデータインフラのための基盤を提供し、自主的カーボンクレジット市場を効率化し、パラメトリック保険の普及を支えることで、ブロックチェーンはグリーン経済への移行における変革的なパワーとなり得る。

しかし同時に、ブロックチェーンは気候変動に対するアクションを加速させるために必要な数多くのツールの1つに過ぎないことを認識することが重要だ。持続的な変化を生み出すためには、堅固な情報共有ネットワーク、グリーンなインフラ、そして利害関係者間の協調が欠かせない。

ブロックチェーンテクノロジーとともに、他の多くのイノベーティブなソリューションに取り組むことが、気候変動という切迫した問題に対処する効果的な方法を模索するときに、きわめて重要になる。これらのテクノロジーのパワーを解き放つことで、よりサステナブルでレジリエント、すべての人にとって豊かな未来を育むことができる。

ブロックチェーンテクノロジーや、その他の最先端ソリューションの可能性を活かす企業は、サステナブルな成長という新しい時代の最先端に立つことができるだろう。

オーショー・ジャ(Osho Jha)氏:気候データの分散型ネットワークdClimateの共同創業者兼CEO。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Daniel Kuhn/CoinDesk
|原文:Unleashing the Green Economy: How Blockchain Can Transform Climate-Friendly Investment Opportunities