ビットコインETFは最高のマーケティング戦略

アメリカ最大規模の金融機関は、ビットコインのメッセージを売り込んでいるにもかかわらず、それに気づいてすらいない。現代のマーケティングは、目を引く広告や気の利いたスローガンに限定されるものではない。コンセプトがどのように提示され、どのようなストーリーが紡がれ、意思決定にどのような影響を及ぼすかが重要だ。

現在、ビットコイン(BTC)は単なる「魔法のインターネットマネー」やコードの羅列ではない。実際に、金融についての考え方を全面的に変えつつある。

一見するとそう見えないかもしれないが、ブラックロック(BlackRock)、フィデリティ・インベストメンツ(Fidelity Investments)、ヴァンエック(VanEck)といった金融界の重鎮たちによるビットコイン現物ETF(上場投資信託)申請にまつわる最近の盛り上がりは、単なる雑音ではない。ビットコインのストーリーを微妙に書き換える、戦略的なマーケティングの動きだ。

ブラックロックのラリー・フィンク(Larry Fink)CEOが、数年前のビットコインに対する姿勢から180度転換したことは注目に値するのではないだろうか? 最近のインタビューでは、ビットコインは金融の革命を促進する道を歩んでいると語っている。

申請が許可されるか、却下されるかにかかわらず、なぜこのETF騒動がビットコインにとってトータルではプラスとなるのか、その理由を掘り下げてみよう。

10億ドル規模のビットコイン・チアリーダーたち

私やあなたが「ビットコインETF」と聞いても、ピンと来ないかもしれない。しかし、金融界のお偉方が集まる部屋では、この言葉には非常に重みがある。なぜか? 上場投資信託とビットコインを結びつけることは、ビットコインが従来型金融の扉を叩いていると穏やかに主張することだからだ。

ETFを申請するたびに、大手金融機関の幹部たちは、ビットコインの「口コミ」マーケティングを行う申し込みをしているようなものだ。この働きかけは、プレスリリース、会議、インタビューにとどまらず、世間の目を超えて、私的な(そしてより影響力のある)界隈にまで及んでいる。

特に一連のETF申請のニュースは、ビットコインに信頼性を与え、経験豊富な金融関係者の目から見た資産クラスとしての正当性を強化するという点で重要だ。長年にわたって否定され、不評を買ってきた負け犬が、ついに権力者の耳目を集めるようになった。米証券取引委員会(SEC)さえも空気を読んで、ビットコインをデジタル資産の「特別な」クラスとして扱っている。

かつては目立たない異端児であったビットコインが、今や最も尊敬される投資手段のひとつと肩を並べるようになり、ウォール街は間違いなく、注目し始めている。

勢いに拍車をかける

Googleの検索数やオンチェーンデータが反映するようなトレンドの力について考えてみよう。

話題のトピックが食卓での議論を左右する世界では、データアナリストが社会の好奇心を正確に把握している。金融界の大手が関わりを強めるに伴って、彼らはビットコインの事実上のマーケティングパートナーとなっている。ブラックロックだけでも8兆5000億ドル(約1230兆円)の資産を運用しており、ビットコイン現物ETFの承認獲得に向けた広報活動に使う資源には事欠かない。

その影響はほぼ即時的なものだ。ETFとビットコインを結びつけるメインストリーム・メディアでの会話の勢いに乗って、強力なムードシフトが起こりつつある。統計にも表れている。ビットコイン価格は、ブラックロックがETFを申請してから数週間で13カ月ぶりの高値に上昇した。

なぜこれが重要なのか? ビットコイン価格は、スクリーン上で踊っている数字以上のものだ。需要と供給、そして市場心理の複雑なお膳立てによって決定されるものであり、今や1兆ドル規模の土俵に乗り出そうとしているビットコインは、当然のことながら世界的な話題の中心的存在にふさわしい。ETF申請に関する議論が盛り上がれば盛り上がるほど、ビットコインはますます馴染み深いものになる。

どんな話題も良い話題

ことわざにもあるように「どんな話題も良い話題」だ。ビットコインETF申請に関しては、まさにその通りかもしれない。大小を問わず、メディアは人々の話題になるストーリーを手にすることが大好きだ。だが、少し大局を見てみよう。もっと大きな視点で考えてみよう。世界経済はかなり厳しい状況にある。法定通貨はインフレに屈服しつつあるが、ビットコインは嵐の中でもしっかりと立っている。

現在、ラリー・フィンク氏のような金融界の重鎮が世界の舞台でビットコインを話題にすることで、大衆はようやく耳を傾けるようになった。ブラックロックがビットコインETFを申請した直後、フィンクCEOは次のように語った。

「インフレに対するヘッジ、国の厄介な問題に対するヘッジ、あるいは通貨の切り下げに対するヘッジとしてゴールドに投資するのではなく、明確にしておくと、ビットコインは国際的資産であり、特定の通貨に基づいていないため、代替手段として利用できる資産となり得る」

翻訳すると、ビットコインは世界共通のコモディティであり、世界最大の金融手段を手助けできる優れた交換手段。自分で言うのもなんだが、甘い売り文句だ。

経済の不透明感に対するヘッジとしてのビットコインのストーリーは、徐々に再び形になりつつある。このことは、世界最大規模のマーケットメーカーたちにも明らかになりつつあり、その結果、彼らは暗号資産の土俵に参入するための玄関口としてETFを利用しようとしている。

規制ダイナミクスの変化

ビットコインETFに対するカナダやヨーロッパの反応が鈍いことを指摘する批評家もいる。しかし、アメリカで完全に規制された現物市場のビットコインETFが登場すれば、異なる展開になることは想像に難くない。SECが暗号資産を厳しく取り締まっていることは周知の事実だが、鋭敏な観察者であれば今頃、ある共通点に気づいているだろう。

規制当局の怒りの矛先は、ほとんどの場合、アルトコインに向けられている。ステーブルコインも監視の目にさらされている。一方でビットコインは相変わらず、規制対象システムへの統合を承認される可能性が最も高い暗号資産であり続けている。

すでに、ビットコインETFの申請承認を待ち望む、数千億ドル相当の資産を持つ健全な金融巨大企業が存在している。アメリカの市場の引力を過小評価することはできず、大物プレーヤーが関与する可能性はこの影響力を増幅させる。

これは明らかなストーリーのシフトであり、ビットコインは単なるデジタルゴールドではなく、グローバル金融ゲームにおける対等なプレイヤーだ。アメリカで規制が急速に進展するなか、このストーリーは、一般大衆(および機関投資家レベル)のセンチメントを、利用可能な交換手段としてのビットコインに有利に傾けるうえで極めて重要な役割を果たす可能性がある。

ビットコインETFの申請をめぐる議論は、暗号資産を含むような金融規制の拡大に関わるだけでなく、ビットコインのストーリーを一変させる戦略的なマーケティングの動きでもある。ビットコインが単なるニッチで珍しいものはなく、定義としては本物の「お金」であることを世界に再認識させている。

ティム・ハルドーソン(Tim Haldorsson)氏:暗号資産グロースエージェンシー、ルナ・ストラテジー(Lunar Strategy)のCEOである。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin ETF Applications Are Bitcoin’s Best Marketing Strategy