破綻が連鎖した暗号資産レンディング業界、いかにして再建しつつあるのか?

融資は通貨と同じくらい古い。歴史を通じて、種子であれ、金(ゴールド)であれ、あらゆる形態の通貨にはレンディング市場があった。そして今、ビットコインは、その分散型で透明性の高い性質により、金融業界において独自の地位を築いている。それ以前に登場した通貨と同様に、ビットコインが真に成功するためには、頑強なレンディング市場も必要だ。

しかし、これまでのところ、ビットコインの信用市場を作ろうとする試みのほとんどは見事に失敗し、壊滅的な影響を生んでいる。

2022年の連鎖的崩壊

ビットコインとデジタル資産のレンディングサービスに対する需要は2020年の好況期に急増し、数百億ドルの顧客資産が中央集権型と分散型、双方のレンディングプラットフォームに流れ込んだ。

緩和的なマクロ経済金融政策と暗号資産(仮想通貨)セクターの爆発的成長も後押しし、このような環境は、悪質な業者が十分な抑制と均衡に直面することなく消費者を欺き、無謀な運営を行うことを許した。

監視の欠如は最終的に、2022年に始まったデジタル資産レンディング業界の崩壊につながり、ブロックファイ(BlockFi)、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、ジェネシス(Genesis)の一部門を含むレンディング業者の倒産が連鎖した。

これらのケースの一部における不正行為の告発は、裁判所が決定する問題だが、数十のデジタル資産レンディング会社が突然ドミノ倒しのように破綻したことは、根本的な欠陥、すなわち、それらの事業構造が本質的に持続不可能であったことを浮き彫りにした。

このような構造には、レンディングリスクの重要な「リングフェンス」が欠けており、レンディング業者は、信用引受プロセスやレンディング活動における集中リスクを顧客が理解するために必要な透明性を提供していなかった。

このような時代遅れの構造は、不十分なリスク管理も相まって、火種を待ち望む枯れ木のようなもので、テラ/ルナ(Terra/Luna)、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capita)、FTXは、まさにマッチ箱そのものだった。

歴史的に、リスクをリングフェンスしないレンディングモデルは、伝統的な銀行における米連邦準備制度理事会(FRB)のような「最後の貸し手」が存在する場合にのみ実現可能だ。

ビットコインにはこのようなバックアップが存在しないため、業界は、政府や国家機関に依存しない新しいモデルを開発する必要がある。

ビットコインにレンディングエコシステムが必要な理由

多くの投資家が、ビットコインやその他のデジタル資産から、利回り提供サービスを通じて素晴らしいリターンを得ている。このようなサービスは、デジタル資産保有者が受動的な収入を得ることを可能にし、これは伝統的な金融において投資家が享受する利益に似ている。

こうした利回りは主に、機関投資家のマーケットメーカーに資産を貸し出した結果である。

ビットコインレンディングは、ビットコインデリバティブ分野(先物やオプション市場)のマーケットメーカーの資本アクセスを容易にしただけでなく、このセクターの成長にも役立っている。

デリバティブは、投資家に事前に取り決めた契約に基づいて売買するオプションを与えるもので、農作物の収穫のリスクをヘッジするために初めて使用された。そしてデリバティブは、ビットコインの価格変動を抑え、取引所を超えて価格をより安定させることに貢献した。

異なる取引所間の価格差を利用することで、マーケットメーカーは長期的に、ビッド・アスク・スプレッドを縮小させることにきわめて高い効果をもたらしてきた。このような効率性は消費者に直接的な利益をもたらし、消費者は売却時にはより多くのドル、購入時にはより多くのビットコインを確実に受け取ることができ、結果的にビットコイン価格の安定にも寄与する。

レンディング市場は、参加者間の決済プロセスを加速させ、その他にも多くのメリットを提供する。具体的には、ビットコインレンディングは利回りを得る機会を提供し、グローバルな取引所におけるビットコイン取引のスプレッドの縮小を保証し、ビットコインのスポット市場価格を安定させ、誠実な投資家が税効率の高い方法でポジションをヘッジするための健全なスポットショート市場を提供し、ビットコインマイナーにとって一段と効率的なヘッジを創出する。

露呈したシステミックな弱点

2022年の出来事は、個々の商品リスクのリングフェンスを含め、対処が必要ないくつかのシステミックリスクを浮き彫りにした。

ブロックファイ、セルシウス、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)のような企業がどのように破綻したかを大まかに説明すると、暗号資産信用提供企業が、顧客資産を自社の利回り商品のリスクと絡めていたことがよくあった。つまり、企業の「利回り」構想が失敗して倒産に至った場合、ビットコインや他の暗号資産を裏付けとする顧客のローンが危険にさらされることになる。

もう1つの危険は、レンディングのカウンターパーティー、つまり暗号資産の貸し手が顧客の保有資産から利回りをあげるために連携する企業からの集中リスクにある。

約束した利率が維持できなくなると、こうしたプラットフォームはジレンマに直面する。管理可能な限度額まで貸出を制限して顧客利率を引き下げるか、あるいは安心できるリスク閾値を超えたにもかかわらず、歯止めをかけずにレンディングを続けるか。この集中リスクを適切に管理することは、リスク管理の基本だ。

透明性は、このような関係の成功を左右する。例えば、ボイジャーはローンポートフォリオの58%近くをスリー・アローズ・キャピタルに貸していたと報じられている。驚くべきことに、我々の知る限り、スリー・アローズ・キャピタルは、貸し手がカウンターパーティーの財務状況を適切に評価するための基本的な要件である、必要不可欠な財務諸表を貸し手に提供していなかった。

もし最初から全体像がわかっていたなら、顧客はボイジャーの融資にこれほど乗り気だったろうかと疑問に思わずにはいられない。他の企業もジェネシスやアラメダ・リサーチと同様の問題を抱えていた。

将来の成功への青写真

過去1年半のジェットコースターのような時期を経て、暗号資産レンディングプラットフォームは改善を見せている。以下は、いくつかの会社で何が変わりつつあるのかについての情報だ。

2アカウントシステム: 2つの財布を持つことを想像してほしい。1つでは、何もせずにお金を安全に保管する。もう一方では、少し投資をして、その資金が増えることを期待する。今プラットフォームがやっているのはこれだ。プラットフォームは、デジタル資産にほとんど手をつけない「安全な」アカウントを提供している。

そして、より冒険的な「利回り」アカウントもある。ここでは、資産を貸し出してリターンを得る。もちろん、多少のリスクは伴うが、最初から完全に透明性が保たれる。こうすれば、顧客は自分に最も適したものを選ぶことができる。

「利回り」アカウントで利子を生むためには、融資を行わなければならない。これにはリスクが伴うが、教科書的な経済理論に従えば、だからこそ利子が支払われるのだ。この新しいモデルの重要な違いは、資金を融資するメリット(つまり利回りを得ること)と融資のリスクが「利回り」アカウントに「リングフェンス」されていることである。

理論的には、参加していない顧客は「利回り」アカウントの融資による損失リスクに直面することはなく、プラットフォームからも、倒産リスク(例えば、セルシウスやブロックファイで起こったこと)からもリングフェンスされている。

透明性への強力なひと押し:多くのプラットフォームは、顧客が自分の資金で何が起きているのかを知りたがっていることをはっきりと理解し、定期的に見やすいレポートを発表している。これはレンディングの世界を覗く窓のようなものだ。誰が、いくら、何のために借りているのかを知ることができる。

スマートで多様なレンディング:ボイジャーやスリー・アローズの失敗を教訓に、企業は特定のグループへの過剰な融資に慎重になっている。多くのグループに少しずつ融資することで、1つの腐った卵に関わるリスクがパックの卵すべてを台無しにすることはない。

暗号資産レンディングの世界は成長しつつある。各プラットフォームは過去からの衝撃を受け止め、学習し、より良いものを構築している。これは物事が正しい方向に進んでいる兆候であり、より透明性の高い、スマートな選択肢がその動きを先導している。

この変革と教訓を受け入れよう。「西部開拓時代」は楽しかったが、今はどうだろう? 暗号資産レンディングに啓蒙の時代が到来した。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mathieu Stern/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Crypto Lenders Caused Crypto Contagion Last Year. How Is the Industry Rebuilding?