暗号資産をめぐるG20の懸念は重要ではない

9月6日付のThe Hindu紙の報道によると今週末、インドでG20サミットが開催され、暗号資産(仮想通貨)に対する世界的な規制強化の必要性について、グループとしての合意がなされるようだ。

なぜこれが重要なのか

世界の主要規制当局が暗号資産規制のための協調的なフレームワーク構築に取り組んでいる点で大きな出来事だ。これは、暗号資産の3つの重要な特徴が認められたことを意味する。

  • グローバルである:インド・バンガロールのビットコインは、アメリカ・シアトルのビットコインとまったく同じ。
  • 検出されることなく国境を越えられる:キャピタルフローへの影響は、当然ながらこれを監視したいという欲求を引き起こす。そこで協調が推進される。
  • ビットコインはなくならない:ビットコインを禁止する選択肢はもはやない。そうなると当局の観点からは、コントロールが次善策となる。

その一方で、この取り組みの裏側にいる当事者たちは、見かけ上の結束の根底にある亀裂や、世界政治の忠誠心の移り変わりを浮き彫りにしている。そのため、この騒ぎと取り組みは、実体を伴うものというよりもノイズに近い。

G20

G20の発表や合意は重要だが、拘束力はない。G20には規制権限がなく、その正当性はメンバーの地位によって生まれる。そして状況は変化している。

まず、G20は世界の20の経済大国を代表するグループだと思い込んでいる人が多いが、そうではない。ほとんどのメンバーは上位20カ国に入っているが、すべてではない。

例えば、スペインはGDPで世界15位の経済大国だが、加盟国ではない。EUを通じた代表権を持っており、これは個別に加盟しているフランスやドイツも同様だ。かつ「常任招待国」になっている。オランダ(17位)も加盟国ではない。スイス(20位)も加盟していないが、経済規模で言えば、加盟しているアルゼンチンよりもGDPは大きい。南アフリカ(39位)は加盟しているが、GDPのより大きなナイジェリアとエジプトは加盟していない。

どうやら、メンバーリストは2008年にドイツとアメリカの代表によって決定されたようだ。彼らは「支援」を求める状況に応じて、当初のG8以外の国々を加えた。それ以来、経済的な比重は変わってもメンバーは変わっていない。

9月7日、アフリカ連合が2024年に正式に加わり、理論的には55カ国に発言権が与えられることが発表された。このような重要な経済地域が1カ国(南アフリカ)だけで代表されることは合理的ではないが、アフリカ連合が必ずしもまとまっているわけではないので、加盟がどれほど有益かはわからない。

内部での議論については、すべての加盟国が代表を送り込み、ぎっしりと詰まった議題に対応するようだが、中国の習近平国家主席は、遠出する必要はないにもかかわらず欠席を表明している。習主席は、先ごろ南アフリカで開催された「BRICS」サミットには、複数の大陸を越えて出席した。プーチン大統領もまた、明白な理由から出席しない。

対外的には、G20を「大国の多国間主義」と呼ぶ人もいる。先週、ニューヨーク・タイムズは、最近のG20の取り組みの多くが無益であることを強調している。例えば、2021年のローマ・サミットでは、地球温暖化を抑制するための協定が結ばれ、特に海外の石炭発電所への融資を打ち切るという誓約がなされた。この誓約の「植民地的」響き(「海外」とはどういう意味だろう?)を隠すかのように、国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年の石炭火力発電量は過去最高を記録し、今年もその記録は更新されそうだ。

声明に意味はあるか?

そこで、7月に発表された金融安定理事会(FSB)の最新の政策提言を支持する確固とした声明がG20から発表されたと仮定しよう。その可能性は非常に高い。勧告には実際には興味深いことは何も書かれていないからだ。

「当局は適切な権限を持つべき」、規制を適用すべき、互いに協力すべき、暗号資産サービス提供業者に慎重なリスク管理を求めるべきといった言葉が散見されるだけで、それ以外はあまり書かれていない。つまり、どれももっともらしく聞こえるが、関心を持つ観察者である私にとっては、何もないことで騒いでいるように見える。

確かに、勧告は(アメリカなど)多くの国が現在実施している規制よりも厳しい規制を促している。これが命令と捉えられたと仮定してみよう。

中国は従うだろうか? アルゼンチンはどうだろうか? すべてのアフリカ連合加盟国は? EUは、苦労して勝ち得たMiCAのフレームワークを、(インドの)まったく異なる政治・経済システムに導かれる方向性に合わせるだろうか? そしてG20(今はG21か)以外のバルバドスは気にするだろうか? ツバルは?

理論上は、G20の一員の座を維持したければ、あるいは席を占めている国との友好関係を維持したければ、どの国もそうするだろう。しかし、ある国が追い出されるべきかどうかは誰が決めるのだろう?

今は代替手段もある。BRICSの加盟国は倍増した。他の同様の取り組みも活発だ。

インドからブラジルへ

さらに、G20の焦点は変わろうとしており、それに伴い、つかみどころのないグローバルな協調を求める圧力も高まっている。インドのG20議長国任期は残り3カ月を切った。

12月にはブラジルが議長国に就任するが、これまでのところ、ブラジルの体制は暗号資産市場をより支持している。同国にはすでに暗号資産の規制フレームワークがあり、暗号資産取引所は中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実験に参加し、銀行は暗号資産プラットフォームと接続し、暗号資産現物ETF(上場投資信託)は2年以上前から証券取引所で取引され、同国最大の公的銀行は暗号資産での納税を認めている。多くの点でブラジルはインドとは異なり、G20の焦点を別の方向に向ける可能性が高い。

そのため、どのような協定が結ばれようとも、その制限的な性質について、私たちはおそらく多くの懸念を目の当たりにすることになるものの、あまり重要ではないだろう。

これには良い面もある。状況や優先順位を明確にするだけでも議論は重要だ。そして現在、暗号資産を禁止しようとしても無駄であるという世界的と言っても良いコンセンサスが得られている。従って、暗号資産規制についてはG20の好きにさせればいい。

多くの人が望むよりも厳しい開示ルールを推奨するとしても、エコシステムを脅かすものではない。むしろ、暗号資産とその市場をさらに正当化するための措置を講じて、この分野での影響力が限定的であることを潜在的に認めているだけだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Sanjiv Shukla / Shutterstock.com
|原文:The G20’s Crypto Hand-Wringing Is Not Significant