Web3はビットコイン価格には興味がない:韓国ブロックチェーン・ウィークを振り返る

「Web3で何をするのか? トークンテクノロジーは?」

先日、ソウルで開催された暗号資産(仮想通貨)カンファレンス「韓国ブロックチェーン・ウィーク(Korea Blockchain Week:KBW)」では、アクション満載の48時間のなかで「暗号資産」と「ブロックチェーン」という言葉は控えめに使われ、より新しいアイデア、さらには業界を定義するより新しい用語が好んで使われていた。

弱気相場でも盛り上がり

満員の会場と、Web3関連の多くのパネルディスカッションに参加した推定1万人からの希望に満ちた歓声は、この業界がその若い歴史の中で最も深い弱気相場のひとつにあることを疑わせるほどだった。ほとんどの人は、ビットコイン(BTC)の価格が低迷していることなど気にも留めていなかった。

暗号資産らしい派手なスタイルの会場は、昨年のKBWよりはるかに小さかった。関心の高まりではなく、狭い会場のおかげで満員の印象を与えていた。しかし、ホテルのレストランの値段(冷えたエビ1尾に約3300円相当の3万ウォン)は、強気相場時の暗号資産企業CFOでも躊躇するかもしれない。

さらに、Web3が本当に意味するものについて、統一された定義はないようだった。さまざまなイベントブースでは、ある者はこれを新しいインターネットと呼び、ある者はトークンベースのプロトコルが社会文化全体と結びついたNFTに進化したと捉え、またある者はWeb3を「未来である」と宣言するTシャツを誇らしげに着ていた。

KBWではホールやガーデンで講演やパネルディスカッションが開かれた(Shaurya Malwa)

会場周辺のカフェでは、暗号資産のハゲタカ資本家たちが、まだ残っている資金を投資するために魅力的な新製品を探していた。起業家たちは疑うことを知らない新規ユーザーを探し、新規ユーザーはより高い価格を探し、価格は現在の市場の小康状態を終わらせるきっかけを探していた。

変化のきっかけとなるものの不在が続いているため、豊かな暗号資産プロジェクトと投資家が今直面している現実、つまり事業収益(トークン価格だけでなく)を牽引する真の個人ユーザーの絶望的な不足が生まれた。

サイドイベントでは、営業担当者たちが自社のツールや分析ソフトウェアをお互いに売り込んでいた。ただ、これらの製品に実際にお金を払えとは誰にも言わない。

「弱気相場は、特に持続可能なビジネスモデルを持たないプロジェクトにとっては、一種のリアリティチェックの役割を果たす」と暗号資産ウォレットを手がけるセイフパル(SafePal)の創業者ベロニカ・フォング(Veronica Fong)氏は語った。

「流動性が枯渇してきているため、起業家たちは必然的に資金調達に苦労しており、リテール需要が衰えているため、B2B的なアプローチで互いにサービスを売り込むことに注力しているプロジェクトもある。しかし、(本物のユースケースとユーティリティが提供されれば)市場環境が回復したときに採用され、利用されるための基盤が強化されるため、これは必ずしも正味のマイナスではない」とフォング氏は付け加えた。

CoinDeskは、暗号資産セクターの認知度を測るため、業界関係者ではない地元の人々に話を聞いた。2人のタクシー運転手はビットコインを聞いたことがあるが、投資はしていなかった。数人の若いホテル従業員は、テラ(Terra)の暗号資産LUNAについて知っていたが、エレベーターの中にいた年配の紳士はニヤニヤしながら、暗号資産業界を「取るに足らないもの」と呼んだ。

起業家たちのコメント

暗号資産業界の著名人らがKBWのステージに登壇し、業界の現状と今後の方向性について語った。最もホットなトピックは、プライバシー、レイヤー2ブロックチェーンによるスケーラビリティ、アジアなどの市場におけるブロックチェーンゲーム、アメリカなどの重要な市場で進行中の規制上の問題、そして一般大衆が評価し理解できる使いやすいアプリケーションの作成に集約された。

メイルストロム・ベンチャーズ(Maelstrom Ventures)のオーナーでビットメックス(BitMEX)の創業者アーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏は、マクロに焦点を当てたスピーチでカンファレンスの幕を開けた。ヘイズ氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)によるここ数十年で最も大幅な利上げサイクルは、ビットコインやその他のリスク資産を殺すはずだったと述べた。しかし実際にはそうならず、両者の間に新たな関係が生まれつつあるとした。

イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、バーチャルで参加し、イーサリアムのノードが中央集権的で、そのほとんどがアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のようなサーバー上で稼働しているため、ハッカーやアンチ暗号資産的なアメリカ当局が攻撃しやすい脆弱性があると苦言を呈した。

ブテリン氏は、ノードの問題を解決することが、イーサリアムのインフラ提供業者とノードバリデーター(ネットワークに演算リソースを提供するユーザー)が今後数年間で取り組むべき重要なことの1つと指摘した。

トロンのジャスティン・サン(Justin Sun)氏は、2人のモデル、2人のボディガード、2人のカメラマンを従えてアリーナに登場し、ゆっくりとステージに歩いてほぼ全員の注目を集め、暗号資産とは無関係の宿泊客を当惑させた。

トロンのブース前に立つ創設者ジャスティン・サン氏(Justin Sun X)

アジアの強みと楽観的な雰囲気

サン氏は、オンチェーン指標に言及しながら、韓国のトロンコミュニティが成長していると主張し、地元の開発者は安価でスピーディーなトロンネットワーク向けのゲーム開発に注力していると述べた。

さらにサン氏は、アジアは「今、暗号資産に携わるならいるべき場所」であり、特に香港は政府の政策が有利であること、開発者やユーザーの関心が高いことを挙げた。

韓国の主要ブロックチェーンファンドのひとつであるハッシュド(Hashed)の創業者らは、いくつかの講演を通じて、分散型取引所(DEX)は、ユーザーがトークンを交換し、報酬を得ることを可能にするだけの現在の製品群よりもはるかに洗練されたものになる必要があると述べた。彼らのアイデアには、DEXのオーダーブックの仕組みについて、フロントランニングの懸念なしに取引をより早く完了させるための、より優れたコードを作成することなどだった。

ナマダ・プロトコル(Namada Protocol)の創設者アワ・サン・イン(Awa Sun Yin)氏は、既存のDeFiアプリケーションを新しいネットワークに簡単にプラグインし、ユーザーにプライベートな取引を提供できるようにするプライバシーメインネットを発表した。

NFT関係者の中では、人気の「DeGods」NFTコレクションの作成者である@FrankDeGods氏が、2021年の人気コレクションが90%以上の価格低迷に陥るなか、NFT企業やコミュニティは新規ユーザーを取り込むのではなく、まず現在のユーザーを維持するための対策を講じるべきだと強調した。

NFTのサイドイベントでは、ほとんどの開発者や保有者が、ブロックチェーンを利用したNFTの今後の見通しについて楽観的な様子だった。匿名での取材に応じたある投資家は、将来の世代は、ロレックスの腕時計のような高級品の代わりに、人気のあるNFTコレクションを見せびらかしたいと思うかもしれないと説明した。

また、大手マーケットメーカーであるウィンターミュート(Wintermute)のヨアン・ターピン(Yoann Turpin)氏は、アジアの暗号資産ビジネスや取引会社にとって比較的有利な規制が成長、ひいては収益を促進するはずであり、アメリカの企業はその恩恵を享受するためにアジアにシフトしなければならない可能性があると述べた。

会場のブースに戻ると、各社は参加者を惹きつけるために数々の斬新な方法を試みていた。ある企業はチョコレートを配り、ある企業は鍵をかけた箱の中に帽子を入れてプライバシーを表現し、ある企業は韓国ドラマの俳優をバイトに雇って実際のトークンを配らせていた。

最も長い列ができていたのは?

巨大なNFTの壁画の近くにあるソフトクリームの屋台。参加者の優先順位は順当だったようだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:sayan uranan / Shutterstock.com
|原文:Web3 Doesn’t Care About Bitcoin Prices – And Other Musings From Korea Blockchain Week
|取材協力:Sam Reynolds