サム・バンクマン-フリード氏はソシオパスなのか

サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)氏の刑事裁判が続くなか、暗号資産(仮想通貨)取引所FTXとヘッジファンドのアラメダ・リサーチ(Alameda Research)の創業者である同氏はソシオパス(社会病質者)と無遠慮に述べる人々の声が高まっている。暗号資産の元ゴールデンボーイ、通称SBFは、顧客から数十億ドル相当の資金を吸い上げ、多くの投資資金に当てたことに関連する複数の詐欺罪で起訴されている。

頻発する素人診断

例えば、有罪判決を受けた詐欺師のマーティン・シュクレリ(Martin Shkreli)氏は「SBFはソシオパスだと思われないように微笑みの練習をしていた」と書いているが、これはマイケル・ルイス氏が最近出版したSBFの伝記『Going Infinite』から得た情報のようだ。

シュクレリ氏は、連邦司法制度に関する自身の経験から、SBFの裁判と刑務所内の状況についてコメントし、注目を集めている。

同氏はSBFの裁判を扱うティファニー・フォン(Tiffany Fong)氏のVlogシリーズの『IS SBF A SOCIOPATH? Caroline Ellison, Love & Remorse(SBFはソシオパスなのか? キャロライン・エリソン、愛と後悔)』というタイトルの回にも出演した。

破綻した融資会社セルシウス(Celsius)の批判的な元ユーザーとして有名になったフォン氏は、まだ自宅拘束されていたSBFと面会した際などにSBFと何度もプライベートな会話を交わしており、SBFが同氏に提供した個人的な文章の一部をリークしている。

もし私が精神科医なら、ゴールドウォータールール(自分が直接診察していない公的人物の精神健康について公開で議論することは非倫理的だと定める米精神医学会の倫理規定)に違反しないように努めるだろう。だが、SBFの不道徳な行動に対する、こうした素人診断がこれほど頻繁に出てくることは注目に値する。それはある程度、妥当な反応だ。

SBFの長年にわたる行動や態度については、悪意や、ますますリスクを冒すような行動によって起こりうる結果に対する無関心を示唆する証拠がすでに公の記録にたくさん残っている。

先日、SBFの元ガールフレンドで同僚のキャロライン・エリソン(Caroline Ellison)氏が、バンクマン-フリード氏は自分に都合がいいときには奇妙な仲間を作ることもいとわなかったと証言した。ちなみにSBFが公開したエリソン氏の日記には、2人の不安定な関係が詳細に記されている。

SBFは不正流用したとされる預金を賄うための資金を探す一方で、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子に接触し、FTXのスタッフに中国の共産党員に賄賂を支払うよう指示したとされる。

不信感は以前から

SBFが悪者だとする報道は、彼がまだ新参者だった(ツイッターのフォロワーが6000人強だった)少なくとも2019年にまでさかのぼる。引退したグラフィックデザイナーで暗号資産トレーダーのデイブ・マストリアーニ(Dave Mastrianni)氏は、アラメダに対するあまり知られていない訴訟の一員で「市場中立」とされるアラメダが価格操作を行い、FTXの顧客の利益に反する取引を行ったと主張していた。

多くの人々がSBFにまつわる矛盾や噂を覆い隠そうとしたようだが、一方できわめて無知と見ていた人もいた。ドラゴンフライ・キャピタル(Dragonfly Capital)の創業者ハセブ・クレシ(Hasseb Qureshi)氏は、FTXに投資する機会を与えられた際に書類を確認した後、SBFに関するあらゆるものから距離を置いており、SBFは「欲を出し過ぎて分相応ではないことをしている」と考えていた。

コインベース(Coinbase)CEOのブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏も、FTXの成長と投資のペースは合理的に理解できないと述べており、他の人たち同様、アラメダがお金を生んでいるに違いないと推測していた。

人々は実態をほとんど知らなかった。SBFは、取引所トークンのFTTという形で、ある意味、お金を作り出していた。FTTは、アラメダが何も知らないFTXユーザーから返済する見込みのない「融資」を受け、機能的に支払不能に陥った事実を隠蔽するために使われた、今では無価値な資産だ。FTTは、ジェネシス・キャピタル(Genesis Capital)のような会社からさらに融資を受けるために担保とされ、司法省は証券詐欺だと主張している。

SBFを社交上知っていたタルン・チトラ(Tarun Chitra)氏は、FTTはFTXの終わりの始まりであり、自称、効果的な利他主義者サム・バンクマン-フリード氏が悪に走ったターニングポイントだったと語った。

2018年にFTTをマーケットメーカーに大幅なディスカウントで販売した後、SBFはトークンの「インフレ」を高めなければならない立場に置かれ、利益を生む取引所となる可能性があったFTXを「ポンジ・スキーム」にしてしまった。

感情に欠けた男

嘘をつき、人を操り、他人の被害に無関心であることは、ソシオパスに共通する特徴だ。しかし、サム・バンクマン-フリード氏が現在100年以上の懲役刑に直面している犯罪者に途中から変質したのか、それとも生まれつきそうだったのかはわからない。

ルイス氏の本には、無感情症、つまり幸福を感じることができない男の人生が詳細に書かれている。エリソン氏に宛てたラブレターの中で、SBFはこう書いている。「私の共感は偽物、私の感情は偽物、私の顔の反応は偽物だというのは、かなり妥当な主張だ」と。

SBFがオフレコだと主張した悪名高いVOXのインタビューの中で、SBFは慈善的なビリオネアとしての自分の人格は、資金を集めやすくし、ユーザーの信頼を得るための見せかけだったと語った。実際、FTXからの利他主義的活動への資金流入は、SBFが高級不動産スタートアップへの投資や政治的便宜を得るために指示、または承認したとされる資金と比べるとかすんでしまう。

ここでのベストな弁明は、今の資本主義的な成長はのちに最善をもたらすというイデオロギーに毒されたということだ。しかし、どれだけ計算高い功利主義者であっても、嘘をついたり盗んだりすることが、その過程で生じた損害の代償になるとは言い難いだろう。

著名な哲学者であるSBFの母親もまた、「非難」「善悪」についての先入観、そして人が悪い選択をする可能性の程度について、非典型的な見解を持っている。

SBFは人格形成期を、野心家が市場独占のために正しい手順に従わないことを奨励する「チープマネー」と「ブリッツスケーリング」の時代の影響を受けた環境で過ごした。SBFはかつて、8年先輩のセラノス(Theranos)の創業者エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)氏の大きな欠点は「嘘をついたこと」だと主張した。

今、証言台でエリソン氏が「嘘をつくな、盗むな」というような基本方針はSBFのオペレーティングシステムの一部ではないと語っていることは皮肉なことだ。

エリソン氏はさらに今週、証言台で、SBFの下で働いているうちに嘘をつくことに慣れていき、犯罪を「指示」されるようになったと語った。しかし、SBFのその衝動はどこから来たのだろうか?

病気か、状況が生んだ悪か

個人的には、のちの犯罪の文脈に合うように、その人物の人生全体のストーリーを再構成しようとすることはしばしば誤解を招くと考えている。この裁判の不可解な点のひとつは、SBFが本当に病人なのか、それとも彼の人格は状況によって形成されたのかだ。

SBFの弁護団は、失敗した事業が必ずしも詐欺的なものであるとはいえず、その過ちは「飛行機を操縦しながら飛行機を作るようなこと(事前にしっかり計画をするのではなく、その場その場で決断をしていくこと)」として説明できると主張している。

SBFはさらに、彼の元弁護士が、メッセージアプリのシグナル(Signal)の使用や過大な役員報酬など、取引所を破綻させるような決断をしばしば承認したという事実を言い訳するために、彼が極悪人であるというストーリーを組み立てたと主張している。

SBFの最も卑劣な行動の多くは、彼の裁判の対象ですらない。そして、彼の欺瞞に原因があるかどうかは、それがソシオパス的でないことを意味しない。しかし、SBFが唯一無二の無感情者で、唯一無二の悪であるとすることには、SBFのような人々が現れ続ける理由のすべてを消し去ってしまう危険が伴う。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:サム・バンクマン-フリード氏(lev radin / Shutterstock.com)
|原文:Is Sam Bankman-Fried a Sociopath?