天才を装ったバンクマン-フリード氏、あまりの愚かさが明らかに

サム・バンクマン-フリード氏とその一味について、ずっと頭から離れない疑問がある。彼らは何を目指していたのだろう?

彼らの不正行為の驚くべき規模から考えても、バンクマン-フリード氏や共犯者たちは、自分たちの自由や尊厳を保ったまま、不正行為の追求からどうやって逃げようとと考えていたのだろうか?

先週新たに加えられたバンクマン-フリード氏に対する告訴は、彼がアメリカの政治家たちにすり寄って、自らの行為の責任を逃れようとしていたという憶測を裏付けるものだ。そのような戦略は、監視の目を逃れられるようなものではなかったが、彼がメディアに対して見せていた姿が上辺だけだったことが明らかになった今、彼の目標や戦略のほとんども似たようなものだったことが判明してきている。

このことは2021年にヒーローのポジションに登り詰め、2022年には評判が地に落ちた暗号資産界の神童たちについての、厄介だが重要な核心を見せている。バンクマン-フリード氏は天才のように振る舞っていたし、メディアもそう称えていた。同じことは、Terra(テラ)の詐欺師ドー・クォン(Do Kwon)氏や「ビットコインは永遠に上昇し続けるだけ」と言っていたスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)のスー・チュー(Su Zhu)氏にもあてはまる。

だが彼らは芝居して、天才のフリをしていただけだった。プロフィールや人脈、芝居がかった自己表現を使って「賢い人がどんな感じかをバカな人が考えた人物像」とでも言えるものを作り出した。そしてそれが、多額のお金を集めることに役立った。

しかし今やバンクマン-フリード氏やその仲間たちが、単に不運ではなかったことは明らかだ。彼らは驚くほどバカだった。

深刻な容疑の数々

米司法省による先週の起訴状は、投資詐欺、銀行詐欺、オンライン詐欺、選挙不正行為など、非常に深刻な新しい罪をバンクマン-フリード氏のすでに数多くの犯罪リストに加えた。米テレビ局CNBCの取材に応じた関係者によれば、バンクマン-フリード氏は今回の新たな容疑によって、さらに40年の懲役刑を課される可能性がある。

バンクマン-フリード氏に対する訴状には、FTXのリスク管理やカストディ業務について、バンクマン-フリード氏が行ったさまざまな公での虚偽発言が詳細に記録されており、投資詐欺とオンライン詐欺という2つの容疑を裏付けるものになっている。

バンクマン-フリード氏は間違いなく「中途半端にやっても意味がない」と考えて詐欺を行っていたようだ。FTXのために使うことを目的に、FTX顧客の資産を密かに盗んでいたのに、アメリカ上院で「一般的な方針として、FTXは自社プラットフォーム全体において、顧客資産と自社資産を分けている」と証言していた。その用途には、議員の3分の1に対する献金も含まれる。

新しい告訴状では、FTXの事業内容やアメリカの規制を受けた銀行で開設していた法定通貨口座の目的について、バンクマン-フリード氏が虚偽発言をしていたことも指摘されている。これは普通なら、テックスタートアップではなく、メキシコの麻薬カルテルや国際的テロリスト集団に問われるような容疑だ。

数千万ドル単位の違法献金

新しい容疑の中で最も重大なものは、バンクマン-フリード氏による「実際の資金源を曖昧にし、連邦選挙法を回避するために、他者の名前で民主党および共和党の議員に対して送られた数千万ドル単位の違法献金で政治システムをあふれさせたことを含めた、違法に政治に影響を与えようとするキャンペーン」に関するものだ。

わかりにくいかもしれないが、これは大問題。アメリカの政治家、検事、裁判官たちは当然、アメリカの民主主義を違法にむしばもうとする試みを快く思っていない。告訴状には、FTXの資金(実際にはFTXユーザーの資金)を、2人のFTX幹部を含めた個人からの献金と偽って、政治キャンペーンに寄付した詳細が記されている。

告訴状ではさらに、むしろ脚注のように、政治献金不正行為から派生した驚くほど恥知らずの会計不正行為の詳細も明らかにされている。証拠として提出されているメッセージでは、あるFTX幹部が約8000万ドルの暗号資産の売上の日付をごまかすことで、不正献金に使われた個人の銀行口座の利用を隠蔽することを提案している。

CNBCが報じた、公となっている政治献金記録によれば、この幹部はFTXの元エンジニアリング・ディレクター、ニシャッド・シン(Nishad Singh)氏である可能性が高い。

妄想の行き着くところ

これらすべてから推定できるバンクマン-フリード氏による長期的な戦略の見方は2通りある。1つ目は、もう勝つ以外になく、盗んだお金は魔法のように、自らの陰謀を通じて再び生み出されると考えていた可能性だ。このような愚かさは、バンクマン-フリード氏の救いようのないエリート妄想から生じていたのだろう。

彼のマインドがもう少ししっかりしていたとするもう1つの仮説は、バンクマン-フリード氏が単に、十分な違法献金をすることで、政治家を買収でき、罪を回避できると考えていたとするものだ。これはもっと基本的で恥ずかしい愚かさだ。

アメリカの司法システムについて、いかに懐疑的でも、政治的人脈に頼って法的に守ってもらおうと考えることはかなりお粗末な戦略だ。エンロンのケネス・レイCEOは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の個人的な友人だった。詐欺罪で告発された医療スタートアップ、セラノスの元CEOエリザベス・ホームズ氏は、キッシンジャー元国務長官を取締役に迎えていた。それでも2人とも有罪判決を受けている。

バンクマン-フリード氏の「私は決して本を読むことはない」との発言を思い出していた。彼は10歳ほどの頃に破綻したエンロンのことを知っていたのだろうか。そもそも彼は「会計」という言葉を聞いたことがあったのだろうか。

側近の告白

バンクマン-フリード氏の読書をしない、陽気な脳内で組み立てられた計画のバカらしさは、一部の内部関係者には明らかだった。先日のフィナンシャル・タイムズ紙の記事や、今回の新しい告訴状では、アラメダ・リサーチの元CEOキャロライン・エリソン(Caroline Ellison)氏は、すべてが崩壊し、ホッとした様子だったと指摘されている。

「長い間、私に重くのしかかるようになっていたこの日を、ますます不安に思うようになっていた」とエリソン氏は11月6日、あるいはそれ以前にバンクマン-フリード氏に宛てたメッセージに記していた。「今やその日が現実となって、どんな形であれ済んでしまったことは心地良い」と語っていた。

つまり、バンクマン-フリード氏が無知な妄想を抱えていたとしても、彼の周りの人たちはリアルタイムで、不正が行われていると認識していた。エリソン氏はどうやら、恐ろしい結末から逃れられるとは思っていなかったようだ。

自らの行動による避けられない結末に関してバンクマン-フリード氏が気に留めていなかったことから、FTXの経営陣の間で薬物が濫用されていた可能性を十分に検証する必要性が改めて浮かんでくる。以下の通り、エリソン氏はツイッターで薬物の利用を認めていたようだ。

「通常の、薬物を使用しない人間の経験の多くが、いかに愚かなものかをわからせてくれるために、アンフェタミンの定期的な利用ほど有効なものはない」

エリソン氏の分析とは対照的に、アンフェタミンの常用は認知や判断力を阻害するという研究結果が出ている。ある研究では、アンフェタミン常習者が、ヘロイン常習者と同様に「パターン認識記憶のテストにおいて、著しく(中略)ひどい結果を残した」ことが指摘されている。パターン認識とは、投資会社においては重要なスキルのはずだ。

薬物を常用していると、自分が賢く感じられるのかもしれない。ビールを飲んだ後に運転しても安全と錯覚することと同じように。

だが理由はなんであれ、自分は天才だと信じているからと言って、天才になれるわけではない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:lev radin / Shutterstock.com
|原文:Sam Bankman-Fried Cosplayed as a Genius. The Facts Reveal His Incredible Stupidity