ビットコインが最高値を更新してから2年──新たな波がやってくるのか、魂を失うのか

もっとシンプルだった時代のことを思い出してみよう。

2年前の2021年11月9日、ビットコインマキシマリスト(至上主義者)たちは赤いレーザーアイをしており(ビットコインに強気であることを示すためにSNSのプロフィール写真を赤いレーザービームを発する目に変更することが流行していた)、FTXは4億2000万ドルの資金調達ラウンドを終えたばかり。ドージコイン(DOGE)の大ファンであるイーロン・マスク氏が米人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の司会を務めるかもしれないという噂もあった。

2年前を振り返る

わずか2年前の11月9日、ビットコイン(BTC)は史上最高値をつけた。

ビットコインの「史上最高値」には議論の余地がある。どこを見るかによって、最高値は異なるからだ。コインベース(Coinbase)は6万8569ドル(2021年11月8日午後7時)を最高値とし、CoinMarketCapは6万6953ドルとしている。CoinDeskによれば、6万7000ドルを少し上回るものになる。

私は多くの人と同様に、最高値を6万9000ドルとしている。というのも、わかりやすい数字に四捨五入しても構わないし、このように断片化し流動性の低い市場におけるコンセンサスは、(どの取引所をフォローし、どのデータソースを注視すべきかについてどこで線を引くかに関わる)主観的な問題だからだ。

振り返ってみれば、価格そのものはあまり重要ではない。当時重要だったのは、ビットコインが上昇していたことだ。集団的な信念に後押しされ、上昇していた。多くの人が、ビットコインは止まらない、皆が強く信じさえすれば10万ドルにすぐに到達すると本気で思っていた。だからこそのレーザーアイだった。

この最も歴史的な高騰は、新型コロナウイルスのパンデミックを受けた景気刺激策、退屈、歴史的な低金利に煽られたものだと今では一般的に理解されている。

マクロ経済とビットコインの関係

暗号資産(仮想通貨)がマクロ経済の変動に影響を受ける可能性があることは、受け入れることがつらい事実だった。インフレヘッジになると考えられていたビットコインは、リスクカーブの端にある他の多くの資産と同じように取引された。

ノーベル経済学賞受賞者のロバート・シラー(Robert Shiller)氏の言葉を借りれば、2021年11月の最高値までの数カ月間は「根拠なき熱狂」の時期だった。

当時の各国首脳は、暗号資産が広範な金融システムにもたらすリスクを真剣に懸念していた。イングランド銀行の副総裁ジョン・カンリフ(Jon Cunliffe)氏は、数兆ドル規模の暗号資産市場を2008年のサブプライムローン業界になぞらえた。

暗号資産のリアルなユースケースはほとんど存在しなかったが、システムには大量のレバレッジがかかっていた。良くも悪くも、暗号資産は主に投機家のために作られた市場だ。10年以上にわたる技術研究、何十億ドルものベンチャー融資、何万ものスタートアップから生まれた主なイノベーションは「パーペチュアルスワップ」や斬新なインデックスなどの金融商品だ。もちろん、先駆的なゼロ知識テクノロジーを否定するつもりはない。

カンリフ氏は、暗号資産に蓄積された信用リスクを正しく懸念していた。市場が暴落した後、最初に倒産したのがセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やブロックファイ(BlockFi)のような中央集権型レンディング企業であったことが多くを物語っている。そしてFTXの主な失敗は、流動性の低い担保資産に何十億もの融資を積み重ねたことも。しかしカンリフ氏は、暗号資産の暴落がもたらす連鎖的な影響については間違っていた。

年金基金、ヘッジファンド、そして何百万人ものアメリカ人が暗号資産に投資していたが市場自体は孤立したままだった。

ビットコインの今

暗号資産は現在、広範な経済から多少切り離されているように見える。ビットコインが史上最高値を記録したのは、ベンチマークである株式指数のS&P500が10年にわたる強気で推移していたのと同じ時期だったが「IT業界はリセッションにある」と言われた時期に上昇し始めた。

今、ビットコインは年初来で100%以上上昇し、アルトコインも同様に上昇している。

ビットコインに関する興奮の多くは、機関投資家の関心が高まっているという「ストーリー」によって引き起こされている。これは、完全に嘘というわけではない。ブラックロック(BlackRock)、ヴァンエック(VanEck)、フィデリティ(Fidelity)といったウォール街の大手企業は、暗号資産ベースのETF(上場投資信託)を立ち上げる準備を整えている。銀行はブロックチェーン上で開発を行っており、現実資産(RWA)の「トークン化」は金融業界の流行語となっている。

暗号資産の「銀行問題」について、まだ議論している人はほとんどおらず、業界はハマスの資金調達を暗号資産と結びつけようとする危険な政治運動を協力して払拭することに成功した。ニューヨークの地下鉄で通勤するホワイトカラーに暗号資産についてどう思うかと聞けば、おそらく「まあ、なくなることはないだろう」という答えが返ってくるだろう。

今後の見通し

長期的には、暗号資産価格は依然としてマクロ経済的な力によって左右されることに変わりはないだろう。パウエルFRB議長が利上げを行っている間、ビットコインは安値を更新し、横ばいで推移した。2008年の世界金融危機の発端となった貪欲さとマクロ経済政策への反動として登場したこの資産が、来年訪れるかもしれない公式なリセッションの中でどのような動きを見せるかは、まだわからない。

言い換えれば、雪解けの兆しにもかかわらず「暗号資産の冬」はまだ終わっていない可能性がある。何カ月にも及ぶ深い凍結が有象無象を追い出し、その一方で聡明な頭脳が開発を続けているという希望がある。

「キラーアプリ」はまだ見つかっていないが、この業界に熱心なユーザーがいることは明らかだ。しかし、ビットコインETFが始動することを待っているとされる機関投資家の資本とともに、投機家や詐欺師がまた押し寄せてくる可能性が高い。

暗号資産の企業への普及が進むことで、暗号資産が幅広い経済にもたらすリスクについて、最終的にカンリフ氏の考えが正しかったと証明されるかどうかはわからない。

実際のユースケースのような、実際の要因なしに価格が上昇し続けるのであれば、それは投機によってしか説明できない。「FOMO」(機会を逃すことへの恐怖:fear of missing out)に突き動かされた、新たな「さらなる愚か者」の集団だ。

もしビットコイン価格がETFを理由に10万ドルに達したとすれば、ビットコインの魂は失われるかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:2 Years Ago, Bitcoin Hit an All-Time High. Is Another Rally on the Way?