[ST最前線]手つかずの不動産市場100兆円、眠れる現預金1000兆円。大和証券は、莫大な可能性を秘めたマーケットをセキュリティ・トークンで切り拓く!

セキュリティ・トークン国内初の流通市場(セカンダリー市場)として大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の私設取引システム「START(スタート)」が12月25日にスタートし、セキュリティ・トークンの売買取引が始まる。大和証券グループ本社は、ODXの株主であり、11月20日に国内初の取扱案件として発表された2件のうちの1件は大和証券が引受会社となっている。

待望の流通市場がセキュリティ・トークン市場のどのような影響を与えるのか、大和証券がセキュリティ・トークンに取り組む意義、さらには、まだまだ大きな開拓余地が残る不動産市場の可能性などを大和証券グループ本社常務執行役員を務める板屋篤氏に聞いた。

流通市場の意義と可能性

──セキュリティ・トークンを取り扱う大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の私設取引システム「START(スタート)」が文字通りスタートする。国内初の取扱案件として発表された2件のうちの1件は、大和証券が引受を行う。待望の流通市場が始まることで、セキュリティ・トークン市場は今後どのように変わっていくのか。

板屋 2021年度に開始されたセキュリティ・トークンの発行市場は、わずか3年で大きく成長した。初年度の発行額は70億円、2年目が150億円、3年目の今年度は上期だけで350億円、すでに決議済みのものを含めると約450億円となる。その成長率は、1年で2倍以上のペースとなっている。

さらに、大阪デジタルエクスチェンジのSTARTの開業により、お客様が既発行のセキュリティ・トークンを売買したい場合の選択肢に、従来の証券会社との相対取引だけでなく、ODXでの売買が加わることになる。市場での取引価格も確認できるようになるので、利便性が向上し、市場の活性化が期待される。今後、さらにセキュリティ・トークンを発行する企業が増えていくのではないか。

──セカンダリー市場の立ち上げは、どのような点が難しかったか。

板屋 市場を作り、各証券会社がそこにつながるというコンセプトはシンプル。だが実際には、各社で異なる対応をしていた事務フローなどを統一するために、参画する各社との協議が必要だった。すべての会社が、どうすればセカンダリー市場が大きくなるかという観点で協力し、調整を行った。目指す方向は同じだが、技術的な細部での調整が必要だった。結果的に、非常に良い市場になったと思っている。

日本国内の不動産市場を見てみると、まだ流動化されていない不動産が多く存在する。日本における投資適格不動産は170兆円とされる。そのなかで証券化されているものは3割にも満たない。つまり、100兆円以上の流動化の余地がある。そこにセキュリティ・トークンが登場した。今、年に数百億円というペースで急激に成長しているが、まだまだ大きな成長の余地がある。

100兆円以上の流動化の余地

──100兆円の余地があると考えると、仮に今年度のセキュリティ・トークン発行が500億円とすると、裏付けとなる不動産は1000億円程度と見込まれる。流動化の余地がある100兆円の0.1%に過ぎない。

板屋 今年度だけですでにセキュリティ・トークンの対象となった不動産は1000億円、これまでの累計では1500億円ぐらいだが、それでも0.15%。すべてが流動化されるわけではないが、市場のポテンシャルとしてはまだまだ大きい。

証券会社がこれまで取り扱ってきた商品は、株式、債券、そしてそれを組み合わせた投資信託やラップサービスなどが中心だったが、近年ではそこにオルタナティブ・アセットが加わりつつある。オルタナティブ・アセットへの投資は拡大の余地が大きく、その代表格ともいえるのが不動産投資だ。

前述したように、投資適格不動産は170兆円という巨大な市場が存在するが、その多くが証券化されていないため、個人のお客様は購入することが難しい状況にある。そうした中で、不動産を裏付け資産としたセキュリティ・トークンが登場した意味は大きい。

例えば、今回、大和証券が引受する物件は資産価値でいうと約70億円であり、これだけの金額を投じられるお客様は限られている。しかし、セキュリティ・トークン化し、小口化することで、個人のお客様にとっても購入しやすい商品になっている。また、不動産からの賃料収入は総合課税だが、セキュリティ・トークンであれば、その収入は配当所得となり、申告分離課税や源泉分離課税も選択が可能だ。

「貯蓄から投資へ」を加速

──「貯蓄から投資へ」というスローガンは以前から叫ばれているが、株式や債券はiDeCoやNISAでかなり馴染みが出てきたとはいえ、まだまだ身近でない印象がある。一方で日本人は不動産好きと言われており、セキュリティ・トークン市場の拡大はそうした背景も影響しているのか。

板屋 個人の金融資産は2000兆円あるとされ、その半分にあたる約1000兆円は現預金として保有されている。政府の「資産所得倍増プラン」にもあるように、個人がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、金融資産所得を拡大することができ、また、その投資が企業の成長投資の原資となることで、企業の成長が促進される。

預金金利は、わずかな上昇が見られるものの、まだ小数点以下のレベル。一方、不動産セキュリティ・トークンの利回りは、4%程度であり、その効果は大きい。

証券会社にとって、株式、債券が引き続き主力商品であることは変わらない。しかし、まだ依然として個人の金融資産2000兆円のうちの1000兆円が現預金のまま存在していることを考えると、オルタナティブ投資のひとつとして、また新たな資産運用手段として、不動産セキュリティ・トークンの持つポテンシャルは大きいと考えている。

株式、債券、それらを組み合わせた投資信託に加え、こうした不動産を裏付けとした金融商品が登場したことで、投資の選択肢はより広がり、「貯蓄から投資へ」が加速していく可能性があると考えている。

選択肢の広がり・多様化

──セキュリティ・トークンの背後に広がる不動産投資市場の大きさを、これまであまり意識していなかったが、可能性は非常に大きい。

板屋 大和証券は2021年度からセキュリティ・トークンの販売を開始し、これまでの販売は非常に好調。これまで、あまり取引されていなかったお客様からも「こういう商品なら購入してみたい」との声をいただいている。また、一度購入された方がリピーターになって、再度購入されるケースも少なくない。

不動産セキュリティ・トークンは、物件が具体的に見えているため、手触り感がある金融商品と言える。不動産を資産として購入するとなると、金額が大きいことはもちろん、部屋に空きが出たら募集をしないといけないなど管理に手間がかかる。そうした手間は一切なくて、安定した収入を得ることができる。

不動産ビジネスを手がけている企業にとっても、従来は、不動産を流動化して個人投資家に広く販売したいと思っても、上場リート(REIT:不動産投資信託)しかなかった。セキュリティ・トークンは、リートと異なり、より簡単に個人向けの流動化商品を組成することができることから、企業にとっても流動化に新たな選択肢が増えることになる。このように、セキュリティ・トークンは、投資家だけでなく、発行体にとっても新たなメリットをもたらしている。

──ODXの「START(スタート)」での取引が始まり、セキュリティ・トークンの認知が広がると、市場はますます拡大する。

板屋 市場の拡大はもちろんだが、投資の選択肢の拡大という観点では、セキュリティ・トークンの対象となる資産は、現状の不動産や社債だけに限らない。例えば、政府は再生可能エネルギーの割合を2030年までに大幅に引き上げることを目標にしている。新たに太陽光発電所や風力発電所、地熱発電所などを作る際には、従来は主に機関投資家がその資金を供給してきたが、まだまだ多くの施設を建設していく必要があり、機関投資家だけで資金を賄うことは難しいと考えている。

さまざまなインフラアセットをセキュリティ・トークン化し、個人のお客様に販売できるようにすれば、資金調達手段が多様化できる。稼働した後、キャッシュフローは安定しているので、個人のお客様にとっても新しい投資対象の1つになると思う。資産運用はもちろん、地球温暖化対策などのSDGsの観点からも人気を集めることができるのではないか。大和証券グループには、再生可能エネルギーおよび水道や空港、通信、港湾などのインフラへの投資を手がける会社や、さまざまな不動産ビジネスを手がける会社があり、そうした会社との連携も目指していきたいと考えている。

ウォレット、パブリック・ブロックチェーンにもチャレンジ

──今回の案件から、大和総研が開発したセキュリティ・トークンウォレット「Crossllet」の利用を開始している。「Crossllet」とはどういうものか。

板屋 セキュリティ・トークンを取り扱うときには、証券会社のシステムと、Progmat(プログマ)やibet for fin、セキュリタイズなど「プラットフォーマー」と呼ばれるブロックチェーン発行・管理基盤をつなぐ必要がある。今後、セキュリティ・トークン市場の規模が拡大し、プラットフォーマーの種類が増えてきたときには、さまざまなプラットフォーマーと接続できる、拡張性、柔軟性の高いウォレットが必要になると考えた。

秘密鍵の管理やブロックチェーンデータの参照など、基本的な部分は他のウォレットと同じような機能だが、より多くのブロックチェーンに簡単に接続できるような設計を意識している。近い将来、ステーブルコインが登場したときにも対応する予定だ。こうしたインフラを整備することが、セキュリティ・トークン市場に参入する証券会社や発行体が増えることにつながるのではないかと考えた。

ウォレットやプラットフォームといったインフラは、各社が競争するというよりも、協力して整備を進めていくことが、市場、そして業界の発展につながると考えている。

──直近ではさらに、ブロックチェーンを活用した金融システム構築に定評のあるGincoとの協業で、パブリック・ブロックチェーンでのセキュリティ・トークン発行の実証実験も発表した。

板屋 現状、セキュリティ・トークンの発行・管理基盤はコンソーシアム型のパーミッションド・ブロックチェーンだが、パブリック・ブロックチェーンを基盤としたセキュリティ・トークンが実現できれば、透明性やインターオペラビリティの観点で有用ではないかと考え、当社の子会社であるFintertechおよびGincoと協働し、実証実験を行うこととした。パブリック・ブロックチェーン上でのセキュリティ・トークンの発行が行われれば、本邦初の取り組みとなる。

今回の実証実験では、スマートコントラクトにより、ソウルバウンド・トークン(SBT)が付与された投資家しかセキュリティ・トークンの売却と取得ができないようにする。こうした取り組みを通じて、パブリック・ブロックチェーンを利用する場合に論点となる「ハッキングによる秘密鍵の流出」の問題を解決しようというものだ。

パブリック・ブロックチェーンとパーミッションド・ブロックチェーンのどちらが優れているかという議論はあるだろうが、投資家にとっても、我々にとっても、選択肢を広げておくことは良いこと。こうした取り組みによって、新たなお客様、プレイヤーを市場に呼び込むことができると考えている。

|文:CoinDesk JAPAN 広告制作チーム
|撮影:小此木愛里