タワマン不動産STの裏話から新会社Progmatと期待高まるODXまで、セキュリティ・トークンを深掘りした2日間【イベントレポート】

10月2日と3日、CoinDesk JAPANは今年7月から展開している年間特集「セキュリティ・トークン最前線」のオンラインイベント「セキュリティ・トークン最前線 2DAYS SPECIAL〜キーマンが語る・注目プロジェクトの舞台裏〜」を開催した。

不動産をはじめとする現実資産(RWA:Real World Asset)や株式・債券などの有価証券をブロックチェーン技術でトークン化したセキュリティ・トークン(デジタル証券)の市場規模は、今後ますます拡大すると期待され、グローバルでは2030年までにトークン化されたRWAは16兆ドル(約2400兆円、1ドル150円換算)にのぼるとの試算もある。

金融商品の新たな可能性を切り拓くと期待されているセキュリティ・トークン。オンラインイベントには2日間で約400人が参加。注目の事例の裏話やセキュリティ・トークンをめぐるユーザー意識、新たにスタートしたばかりの新会社Progmat、年内のセキュリティ・トークンの取り扱いが期待されている「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」、さらには金融庁の取り組みまで、その可能性を反映した幅広い議論が展開された。

Day1:国内最大300億円のタワマンで不動産ST発行:舞台裏から見る未来像とは?

10月2日に行われた「Day1:国内最大300億円のタワマンで不動産ST発行:舞台裏から見る未来像とは?」には、スピーカーとして、中尾彰宏氏(ケネディクス株式会社 執行役員 デジタル・セキュリタイゼーション部長)、沼⽥薫氏(野村證券株式会社 執⾏役員 デジタル・カンパニー担当兼営業部⾨マーケティング担当)、谷山智彦氏(株式会社野村総合研究所 未来創発センター デジタルアセット研究室長が登壇。まず、2日間のイベントのベースとして、野村総合研究所の谷山氏が「セキュリティ・トークン概論」として、セキュリティ・トークンの基礎知識、特徴、推移などを紹介した。

新たなデジタル証券化の世界に無数のプレイヤーが多様な役割で参入

セキュリティ・トークン(以下ST)の特徴として「不動産STは従来の不動産商品と『補完関係』」「手触り感のある投資体験を一体的に提供可能になる」をあげ、市場規模の推移として「トークン化された資本は、2030年までに全世界のGDPの約10%を占めるという予測もある」と述べ、現状の国内市場には「新たなデジタル証券化の世界に、無数のプレイヤーが、多様な役割で参入しつつある」と指摘。「日本は不動産市場が世界有数の規模に発展しており、STに関する規制も世界に先駆けて進展してきた」と現状をまとめた。

タワマンSTに個人投資家から堅調な投資需要

続いて、ケネディクスの中尾氏が鑑定評価額300億円のタワーマンション「リバーシティ21 イーストタワーズII」をST化した事例を紹介。不動産STには「投資対象が明確な単一不動産投資」「鑑定評価額に基づく安定感ある価格形成」「証券口座を介した利便性の高い投資」という特徴があるとし、今回の134億円という募集額も、個人投資家から「堅調な投資需要を獲得」できたと振り返った。

同社は2021年8月に日本初となる不動産STを実施して以来、これまでに8件の不動産STを展開。リバーシティ21のST化について「タワーマンションは馴染みのあるアセットだが、全戸賃貸物件は珍しく、商品化は簡単ではない」「同物件は2017年から運用を手がけているが、当初、稼働は7割程度。物件の競争力は低下しつつあったが、着実にリニューアルを行って稼働率をあげ、ST化につなげた」と振り返った。

また同社の取り組みについて、「ハンターではなく、ファーマー的に物件を育てている」「今回は自慢の、虎の子案件をマーケットに出した」と述べた。

一方、今後の戦略について、「不動産STは不動産と金融商品のいいとこ取り」で、新しい金融商品としては、予想を上回る成長を見せているが、課題として「流通市場におけるST売買の利便性・透明性の改善」「ST事業者多様化によるST組成・販売の効率化向上」「投資家におけるST認知度・理解度の拡大」をあげ、「現状、今回の物件は野村證券に口座がないと売買できない」と述べ、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)のセカンダリーマーケットへの期待を語った。さらに「STならでは新しい投資機会を継続的に作る」ことに注力し、STについての「個人投資家向け情報提供プラットフォーム」を整えていくと語った。

不動産STのファン

野村證券は同STの販売を担当。沼田氏は「100億円を超える大きな案件で、これまで不動産STの販売は対面のみだったが、インターネット販売も取り入れた」「対面販売では、売り手が物件の魅力、STのメリットを十分に理解することが不可欠」と述べた。

また不動産STの投資家は個人投資家が件数ベースで9割以上を占めており、またインターネット販売での購入者は、従来の対面販売での購入者よりも平均年齢が10歳くらい若い印象があると指摘。今回が5件目の不動産STとなったが、リピーターも生まれ、野村證券が手がけて「5件の不動産STのうち、4件を購入している人もいる」「不動産STのファンが生まれてきている」と述べた。

後半では「野村グループのデジタル・アセット・ビジネス」を紹介。2016年以降、デジタル・アセット領域にチャレンジしており、ST基盤の開発・提供を行う「BOOSTRY」を設立したほか、スイスにデジタル・アセット子会社としてLaser Digital(レーザー・デジタル)を設立、日本法人も設立したと述べた。

セキュリティ・トークン(ST)については、さまざまな投資家に対して「何がよいかを探る意味で、いろいろな組み合わせを試してきた」と語り、さらなる発展に向けて「特色あるプロダクトの継続的な開発」「セカンダリー対応」「デジタル通貨への対応(DVP決済)」を進めていくと語った。

「志ある資金」の受け皿

谷山氏は、同案件について「不動産STの可能性を切り開いた」とし、今後不動産STは規模はもちろん、さまざまな可能性が広がるだろうと述べ、「デジタル・アセット・ファイナンスの可能性と課題」として、野村総合研究所が行った「デジタルアセットに関する調査」の結果を紹介。

「デジタルアセット関心層は約38%、クリプト関心層とトークン関心層にわかれている」「トークン関心層は、利回りが低くても良く知っているものへの興味や、地域貢献意欲が見られる」「個別資産の情報を慎重に判断し、インパクト(社会的リターン)を重視して投資する傾向がある」など興味深い結果に触れた。

デジタル・アセットは「志ある資金」の受け皿となり、「都市再生や地方創生に資する新たな資金供給を増やすことができる」「社会的リターンの目線が入ることで、ファイナンス市場が大きく広がる」「単なるデジタル化だけではなく、金融サービスとしてのDX推進」などの可能性が広がっていると述べた。

ユニークな調査結果を受けて、ケネディクスの中尾氏は「STは新しいマーケットを作り得るポテンシャルがある。新しい投資機会を個人投資家に提供していきたい」、野村證券の沼田氏は「不動産STが先行しているが、STにはいろいろな可能性があり、他の仕組みでも作って行きたい」と述べた。

Day2:オープン戦略が創るSTの未来:社債、動産、オルタナ資産への広がり

翌3日の「Day2:オープン戦略が創るSTの未来:社債、動産、オルタナ資産への広がり」には、齊藤達哉氏(Progmat, Inc. 代表取締役 Founder and CEO)、板屋篤氏(株式会社大和証券グループ本社・大和証券株式会社 常務執行役員)、太田原和房氏(金融庁 企画市場局参事官)が登壇。

まずは前日2日にスタートしたばかりの新会社Progmatの齊藤氏が「世界のRWAと日本のST市場」に触れ、「世界のRWA市場は、2030年に16兆ドル超の市場規模になるとの予測がある」とインパクトの大きな数字をあげ、さらに日本市場については「STの運用残高・発行残高総額は1279億円超」と紹介。2021年夏に1案件目となる不動産STが登場して以来、J-REIT(リート)と同じようなスピードで順調に成長を続けていると述べた。

トップクラスに立つProgmat

Progmatの現状については、海外の事業者と比べたときも「公式データはないが、相対的にトップクラスの立ち位置」にあるとし、これまでに約818億円のSTを手がけ、今年度中に1000億円を超えると述べた。

さらに「業界の発展こそがProgmatの発展につながる」となるとして、STの市場拡大シナリオと阻害要因を整理。不動産STについては、販売の仕組み、営業体制などによる「販売可能数の実質的な上限」、受益証券発行信託というまだまだ「難しい仕組み」、原簿管理の仕組み・体制はまだデジタル化が進んでいないこと、セカンダリーマーケットがまだ存在していないことなどを阻害要因にあげた。社債STについても、同様に阻害要因をあげ、それぞれ解決に向けた取り組みの必要性を指摘した。

Progmatの取り組みについては、すでに伝えられているように、独立会社化によってインフラ層を共創/標準化し、市場参加者の利便性を向上させること、業界を超えたプレイヤーが出資し、中立性/独立性を確保していくこと、市場成熟期における「公共財」化に向け、上場を目指すことなどが語られた。さらにこれまでは1件あたりの規模が大きい不動産STに注力してきたが、今後は社債ST(デジタル社債)にも注力していくと述べた。

規制整備の経緯

日本での約2年あまりでのセキュリティ・トークンの成長に関し、その背景・基盤となった2019年の法改正(2020年施行)による規制整備について、金融庁の太田原氏は、当時はICO(イニシャル・コイン・オファリング)の詐欺的な行為が問題となっていたなか、適用されるべきルールが不明確だったという背景を説明したうえで、金融庁としてはフィンテックをはじめとしたイノベーションの促進と利用者保護のバランスを意識しつつ、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)には、金融商品取引法(金商法)が適用されることを明確化するなど、健全なイノベーションを促進できるよう法改正を行ったと述べた。

齊藤氏も、こうした規制整備のもとで、業界を発展させ、会社を発展させていくために「すべてのことが相互に関連しているため、同時並行で進めていく」と続けた。

ODXとステーブルコインがさらに後押し

大和証券の板屋氏も「2019年からセキュリティ・トークンの事業化をグループとして検討していたが、2020年に金商法が改正され、投資家保護などが明確になったことで取り組みが本格化した」と述べ、STに取り組む意義として、「新たなオルタナティブ投資手法の提供」「アセット保有企業への新たな資金調達手法の提供」「グループシナジーの創出」をあげた。STは不動産、社債をはじめとしてカバーできる領域が広く、関わるプレイヤーも多様なため、グループはもちろん、グループを超えて「どの領域を、どういった企業と協業するかが重要」と指摘、Progmatについては独立会社化で中立性が高まり、パートナーとして選びやすくなったと付け加えた。

不動産STは「従来プロ投資家向けだった不動産投資商品を個人投資家などに広げるもの」と位置づけており、現時点までの成長は予想を上回るもので、さらに年内にSTの取り扱いが予定されている大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)と2024年の登場が予想されているステーブルコインが成長を後押ししていくだろうと述べた。

不動産、社債に続く、STの裏付けとなる対象アセットの拡大については、太陽光発電、風力発電など再生エネルギー関連といった投資家の関心が高い優良アセットからスタートし、航空機リースなど、さまざまなものに広がっていくだろうと続けた。

齊藤氏も「アセット拡張ワーキンググループ」をスタートさせており、信託以外のスキームも含めて検討していると補足。「受益証券発行信託は不動産には最適だったが、動産や為替が関係する海外資産などは商品化に向けたさまざまな工夫と調整が必要」、しかしさまざまなスキームを揃え、「いろいろな会社がSTに取り組みやすくなると、Progmatにプラスになる」と述べた。

金融庁もオープンに

セキュリティ・トークンをはじめ、金融イノベーション推進に向けた取り組みについて、金融庁の太田原氏は、規制の整備に加え、FinTechサポートデスクの設置やFIN/SUM(フィンサム)の開催といったイノベーションを促進する取り組みを行っていることをあげ、金融庁では「さまざまなチームが縦割りにならないよう連携」しており、ブロックチェーンについては、定期的な人事異動が多い官庁では異例だが「FinTechについて同じ者が長く担当する運用とするなど、民間の動きに遅れを取らないようにしている」と述べた。

大和証券の板屋氏も「法整備では、日本はグローバルで見ても対応が早かったため、今、リテールビジネスが展開できている」と指摘。齊藤氏は「海外で事故が続き、カメがウサギに追いついた。日本はデジタルアセットのほとんどが法律でカバーされており、トップランナーを走り続けられるはず」と述べ、さらに「日本に軸足を置きつつ、ガラパゴスにするつもりはない。海外で使えることがブロックチェーンのメリット」と語った。

2日のイベントでは、大きなテーマから個別の具体的なテーマまで、さまざまなことが語られたが、最後に金融庁の太田原氏が「今日はセキュリティ・トークンのオープン戦略がテーマだったが、ぜひオープンの対象に金融庁も入れていただき、気軽に相談してほしい」と語ったことが印象的だった。

|テキスト:btokyo members
|編集:CoinDesk JAPAN