2000億円戻る?  ロシア人弁護士、マウントゴックス事件の思わぬ解決策を提案[詳報]
  • モスクワに拠点を置く法律事務所ZPリーガル(ZP Legal)は、2014年のマウントゴックス(Mt Gox)のハッキングによって盗まれたビットコインを受け取ったロシア国籍の人物を特定したと主張している。
  • 地元捜査機関は、すでに閉鎖された取引所BTC-eの運営者とされるアレクサンダー・ヴィニック(Alexander Vinnik)氏を捜査している。
  • ZPリーガルは、BTC-eの被害者の可能性があるとして名乗り出たマウントゴックスの債権者は、ロシア当局が両取引所のつながりを証明する助けになるかもしれないと述べている。
  • マウントゴックスのハッキングによって利益を得た人物は捜査機関と取り引きするために、同取引所の債権者に資産の返還を申し出るかもしれないとZPリーガルは考えている。

すでに閉鎖された仮想通貨取引所マウントゴックスの債権者が、日本の裁判所が彼らのお金の運命を決めるのを待つ一方で、モスクワの法律事務所は異なる解決策を提案している。

ロシア弁護士の思わぬ主張

マウントゴックスの債権者らによると、2019年はじめ、法律事務所「ZPリーガル」は彼らに連絡を取り、2014年にハッキングによって盗まれた85万ビットコイン(BTC)の約4分の1を取り戻すチャンスを提示した。

盗まれたコインは当時4億5000万ドル(約490億円)以上、現在は85億ドル(約9200億円)の価値がある。

ZPリーガルは盗まれたコインのうち、17万〜20万BTC、現在の価格にして17億〜20億ドル(約1800億円〜2160億円)は、盗まれたコインを受け取ったロシア国籍の人物らに法的措置を取ることで取り戻すことが可能と考えている。

報酬として、ZPリーガルは取り戻した金額の50〜75%と1時間当たりのフィーを債権者に請求する。しかしZPリーガルは、コインの回収が成功した場合にのみ報酬を受け取るとしている。

アレクサンダー・ジェレーズニコフ(Alexander Zheleznikov)氏はZPリーガル(ZはジェレーズニコフのZ、PはパートナーのP)のマネージングパートナー。同氏はマウントゴックスから盗まれたコインの一部は、すでに閉鎖された仮想通貨取引所BTC-eに流れ着いた可能性があると考えている。

事実、この長年の主張は、マウントゴックスの元ユーザー、キム・ニルソン(Kim Nilsson)氏によって調査され、米カリフォルニア州北部地方裁判所による命令でも引き合いに出されていた。

この命令により、BTC-eの運営者とされるロシア国籍のアレクサンダー・ヴィニック氏は、ギリシャで2017年7月に逮捕され、現在はマネーロンダリングの罪で裁判を受けるためにアメリカ、ロシア、フランスへの引き渡し要求に直面している。

ジェレーズニコフ氏は、ロシア当局も捜査を行っているヴィニック氏の刑事事件について、マウントゴックスの債権者が被害者として名乗り出て、マウントゴックスとBTC-e、そしてBTC-eの後継で、こちらもすでに閉鎖されたロシアの取引所WEXとの間のつながりを捜査機関が証明することを手助けすることで、捜査が加速すると考えている。

「我々の計画は、マウントゴックスの債権者の代理人となり、彼らがロシアの捜査機関に報告することを手助けすること。それによって、捜査機関はマウントゴックスから盗まれたお金と、BTC-e、WEXの運営の間のつながりをヴィニック氏の事件を利用して証明することができる」とジェレーズニコフ氏は述べた。

「そうしたつながりについての我々の推測が正しければ、(犯人は)最終的には名乗り出て有罪を認め、罪を軽くするために、盗まれたコインの一部の返還を申し出るだろう。彼らがそうしない場合は、彼らは有罪と認定される。そのときは刑事事件に基づいて損害賠償請求の裁判を起こすチャンスがある」

日本の債権者への接触

ジェレーズニコフ氏は、ZPリーガルはマウントゴックスの債権者の代理人となっている弁護士らに接触し、その後、東京にあるロシア大使館に協力を得て、債権者に接触したと語った(ロシア大使館にコメントを求めたが応じなかった)。

マウントゴックス債権者の最大のグループ、マウントゴックス・リーガル(MGL)の創設者で元コーディネーターのアンディー・パグ(Andy Pag)氏は、ZPリーガルがマウントゴックス事件に取り組む日本の弁護士らとつながりを持った直後の2月22日に、ZPリーガルから初めて連絡を受けたと述べた。

「ZPリーガルの弁護士は2019年2月15日、東京で債権者、そしてまた別にMGLの破産弁護人MHMジャパン(MHM Japan)とミーティングを行った。私は当時MGLのコーディネーターを務めていたので、MHMが私を紹介した」とMHLを3月末に離れたパグ氏は述べた。

パグ氏はさらに以下のように続けた。

「その後、長い空白期間があったが最近また連絡があり、個人が盗難の正当な被害者であることを証明するプロセス、そうした個人に接触するプロセスを考え出す手助けをして欲しいと言われた」

非公開のフォーラムにおける債権者らの議論によると、ZPリーガルはロシアの仮想通貨取引所WEXの匿名の顧客の代理人として、100万ドル(約1億800万円)相当の資金を回収したと主張している。

ジェレーズニコフ氏は、CoinDeskに対して金額についてのコメントすることは拒否したが、WEXに凍結された資産を持っていた2名の人物と連携していたことは認めた。ZPリーガルは独自の調査を開始し、警察も予備捜査を開始、その直後に、ある人物がZPリーガルに接触し、WEXユーザーの損失を補填すると申し出たと同氏は述べた。

ZPリーガルは双方をつないだ。次にジェレーズニコフ氏が聞いたのは、被害者らの「事態は解決した」という言葉だったと同氏はCoinDeskに語った。取り引きに関与した2名の氏名の公表をジェレーズニコフ氏は拒否した。

最大20万ビットコイン=2000億円以上

パグ氏が共有してくれた書類によると、ZPリーガルはマウントゴックスの債権者に対して「法執行機関との密接な連携」によって「最大17万〜20万BTC」を回収できると考えていると伝えた。

同時にZPリーガルは、ハッキングに関与したすべての人物の身元を把握しているわけではないことも認めた。犯人を突き止めることは警察の仕事。ジェレーズニコフ氏はCoinDeskに対して、回収できるコイン数は、ZPリーガルがクライアントにできると想定している債権者の数に基づいた推計と述べた。

ジェレーズニコフ氏は、彼のクライアントはビットコインそのものではなく、法定通貨での現在の換算額を受け取ることが期待できる点を強調した。

「ビットコインの回収は約束できない。裁判所が没収することのできる資産のみが回収される」

パグ氏が債権者と共有した書類の中で、ZPリーガルは損失の計算方法を説明した。

「マウントゴックス閉鎖の日に100BTCを所有していたとしたら、ロシア警察への申告のために、現在の価格に基づいて換算する必要がある。例えば、1BTCが1万ドル(約108万円)だとすると、申告額は100万ドル(約1億800万円)をルーブルに換算したものになる」と書類には記されている。

このアプローチの潜在的問題は、現在ロシアでは他の多くの国と同様に、デジタル資産は法的地位を持たず、評価の明確な手法がないこと。ジェレーズニコフ氏は、ZPリーガルは確立した方法がない状況で取り組みを進めていくことを認めた。

「(警察に我々の推計を認めさせることができるか)確信はない。誰も踏み込んだことのないグレーゾーンに我々は踏み込んでいる。何も約束はできない。我々は一定の法的スキルを持ち、既存の法律が存在している。それらすべてを活用したいと考えている」とジェレーズニコフ氏は語った。

ジェレーズニコフ氏は、この先には「何年も続く法的な争い、警察からの拒絶、法解釈の確定」が待っているであろうことを認めた。

悪名高いクライアントたち

ロシアの仮想通貨分野ではあまり知られていないが、ジェレーズニコフ氏はここ数年、ロシアで話題となった多くの事件で弁護士を務めた見事な実績を持っている。

特に2014年からジェレーズニコフ氏は「テサック(Tesak)」(手斧の意味)というニックネームを持つロシア人ネオナチ活動家、マキシム・マーチンケヴィッチ(Maxim Martsinkevich)氏の弁護を担当している。同氏は、自身とその仲間が麻薬密売人と考えた人たちに暴行を加えた罪でロシアの刑務所で10年の刑期に服している。

ジェレーズニコフ氏はまた、人気のロシア人ジャーナリスト、アントン・クラソヴスキー(Anton Krasovsky)氏、2014年にウクライナ南東部でウクライナ軍と対峙した独立派勢力のスポンサーと考えられている人物コンスタンティン・マロフィーブ(Konstantin Malofeev)氏の弁護も担当した。

マウントゴックスは2014年2月、約85万ビットコイン、当時の価格で4億5000万ドル(約490億円)以上の盗難を発表した。マウントゴックスは取り引きを停止し、破産保護申請を行い、清算手続きを開始した。

証券会社のウィズセク(WizSec)によると、失われたコインのすべてではないが、その大半は2011〜2014年の間にマウントゴックスのホットウォレットから盗まれた。

マウントゴックスは2018年、破産手続きから民事再生手続きに移行。民事再生手続きは債務者に優しい企業再建の形態であり、債権者は法定通貨での相当額ではなく、ビットコインを受け取ることになる。

しかし、申告数の多さとその他の進行中の法的問題のため、盗まれた資産がいつ戻るかは分からない。民事再生計画の提出期限は4月、マウントゴックスの管財人である小林信明氏によって延期され、計画は10月末まで提出されない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Alexander Zheleznikov image courtesy of himself
原文:$2 Billion Lost in Mt. Gox Bitcoin Hack Can Be Recovered, Lawyer Claims