ビットコインETF、価格ボラティリティへの影響は
  • ビットコインETFは、市場におけるクジラ(大口保有者)の影響力を低下させ、ビットコインのボラティリティを低下させる可能性があるとアナリストは述べた。
  • 伝統的市場では、現物ETFは原資産の流動性を高める傾向がある。
  • ある市場関係者は、ビットコインETFが「現金創出」を伴う場合、ボラティリティは高いまま維持させるかもしれないと述べた。

米証券取引委員会(SEC)は、ビットコイン(BTC)先物ではなく、ビットコインに直接投資する上場投資信託(ETF)を承認するとの見方が広がっている。

アナリストたちは、承認は価格に強気な影響を与えるだろうという点で意見が一致している。しかし、承認によって、ビットコインのセーフヘイブン(安全な避難先)資産としての魅力を低下させている、悪名高い価格ボラティリティが抑えられるかどうかについては、アナリストの意見は割れている。

ビットコイン・ブロックチェーンは分散化されているが、そのネイティブトークンであるBTCは、クジラと呼ばれる比較的少数の大口保有者の手に集中している。その保有額の大きさから、クジラは価格に大きな影響力を持ち、しばしば激しい価格変動を引き起こす。原資産の価値と緊密に連動するとされる現物ETFは、保有者の裾野を広げることでクジラの影響力を削ぐことができるかもしrれない。

「現物ETFは、機関投資家やファイナンシャル・アドバイザーを含む、より幅広い市場参加者にビットコインへのエクスポージャーを提供するだろう」と投資顧問会社The ETF Storeのネイト・ジェラチ(Nate Geraci)社長は語った。

「ETFを通じたビットコイン投資家層の拡大は、理論的には、投資家の数と多様性を増やすため、ボラティリティの低下に寄与する可能性がある。その結果、大口のビットコイン・クジラが価格を動かすことが難しくなるはずだ」

ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)の試算によると、アメリカのビットコインETFが獲得可能な市場規模は、現物ETFのローンチ後わずか1年で14兆ドル(約2100兆円、1ドル150円換算)、3年目には39兆ドルに達する可能性がある。

流動性の向上

このような強力な取り込みは、原資産の流動性を高め、価格が急激に変動しないボラティリティのより低い取引状況を生み出す可能性がある。流動性とは、市場が安定した価格で大量のオーダーを吸収する能力を指す。

「ボラティリティは、その分野が成熟し、より多くの機関投資家の流動性とインフラが整備され、資産が平常な状態に順応するにつれて低下する傾向がある」と暗号資産流動性プロバイダーGSRの共同創業者兼社長、リチャード・ローゼンブラム(Richard Rosenblum)氏は語った。

シンシナティ大学カール・H・リンドナー・カレッジ・オブ・ビジネスのメフメット・サグラム(Mehmet Saglam)金融学准教授で連邦準備制度理事会(FRB)の経済学者であるトゥグカン・トゥズン(Tugkan Tuzun)氏、スミス・スクール・オブ・ビジネスのラス・ワーマーズ(Russ Wermers)金融学准教授による2018年の論文によると、株式市場では、ETFの保有が増加すると、原資産銘柄の流動性が高まる傾向がある。

S&P500およびナスダックの銘柄を調査したこの論文は「流動性のいくつかの尺度を用いて、ETFが原資産銘柄の流動性を高めることを発見した。非流動性指標、実効スプレッド、クォートスプレッド、Amihudによる非流動性尺度、インプリメンテーション・ショートフォールはすべて、株式ETFの保有比率が低下すると増加することが分かった」としている。

「大口注文の約定における価格ダイナミクスを検証した結果、流動性上昇の主な原因の1つは、ETFと原資産銘柄バスケットの間の潜在的なミスプライシングに対するアービトラージ(裁定)取引によるものであることが判明した」(同論文)

アービトラージ投資家は2つの市場で相反するポジションを取り、両市場間の価格差から利益を得る。例えば、ETFが原資産銘柄の価格より割安で取引されている場合、アービトラージ投資家はETFを買って原資産銘柄を売り、原資産に流動性を加える。

現金建拠出型によるボラティリティ

CECキャピタル(CEC Capital)のETF専門家で暗号資産取引アドバイザーのローレント・クシス(Laurent Kssis)氏は反対の立場をとり、現物ETFがBTC価格の変動要因になる可能性があると主張している。

ETFは現物または現金で設定・償還される。広く利用されている現物拠出型では、指定参加者(AP)が新たなETFユニットと引き換えに有価証券のバスケットを発行者に預ける。現金拠出型は、APが現金を提供し、発行者が現物資産を購入する。

クシス氏によると、現金拠出型では、発行者は資産が取得されたときの価格と基準価格(NAV)が計算される日々の参照価格との差にさらされる。

「NAVを計算するには、ファンドを評価する参照価格が必要だ」とクシス氏。

「現物拠出型の場合、APは資産を購入し、発行者に引き渡す。現金拠出型の場合、発行者が資産を安く買えば少し利益が出るが、高く買うことになれば、その差分を自ら支払うことになる」

さらに「それゆえ約定時には、その時間帯周辺でより多くのアービトラージ投資家が取引して取引高を高め、市場を押し上げるか、ビットコインの現物価格と先物価格の間の差分を取引し、その期間中に意図せずに実質的にボラティリティを生み出すことになる」とクシス氏は付け加えた。

最近X(旧ツイッター)では、SECがETF申請者に現金拠出型での運用を望んでいるという噂が流れた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Gauging Spot Bitcoin ETF’s Impact on Price Volatility