設立30周年のセレッソ大阪、なぜファンをモチーフにしたジェネレーティブNFTを選択したのか

Jリーグ「セレッソ大阪」は、Coincheck INOでクラブNFT「CEREZO OSAKA SUPPORTERS NFT(略称:セレサポNFT)」のINOを実施。11月28日まで実施したアローリスト(いわゆるプレセール)の申し込みは販売個数100個に対して1177個、倍率は11.7倍に達し、30日に先着順で販売が開始されるとわずか7分弱で完売した。

スポーツ関連のNFTというと、ダッパーラボ(Dapper Labs)のNFTゲーム「NBA Top Shot」を思い起こす人もいるだろう。ピーク時にはゲームのハイライト動画を収めたNFTカードは数十万ドルで取引されていた。

参考記事:ダッパーラボのNBA Top Shot、売上高7億ドル、ユーザー数100万人──CEOが語った大躍進の秘訣

一方、今回の「セレサポNFT」は、ゲーム映像や選手の画像をNFT化したものではなく、チームを応援するファンの姿を象徴したキャラクターのNFT。プログラムを用いて、パーツ分けされた画像データをランダムに組み合わせ、異なるアートを生成するジェネレーティブ(生成)NFTだ。こうしたジェネレーティブNFTを発行し、実際に販売する取り組みはJリーグはもちろん、国内プロスポーツチーム初という。

新しいことにチャレンジする姿勢

セレッソ大阪はなぜ、ジェネレーティブNFTを選んだのだろうか。事業部長として今回の取り組みをリードした猪原尚登氏は「1年くらい前から新規事業として、特にWeb3という文脈でどういう取り組みをしていこうかとディスカッションしていた。クラブの事情としても、コロナ禍で入場料収入を得ることが難しくなって大きな収入の柱がマイナスになっており、いろいろ新たなことに踏み込んでいく必要があった」とその背景を語った。

「またファンの皆さんとデジタルを通じてつながり、コミュニティを広げていくことが、セレサポNFTのもうひとつの狙い。クラブが発行したIPの価値を毀損せずに、ファンの皆さんに楽しんでいただけるところが今回のNFTの特徴になっている」

猪原氏はNFTに個人的にも興味を持ち、「NBA Top Shot」の事例なども調べていた。しかしJリーグの場合、試合映像はリーグが権利を持っている部分もあり、クラブ単独でNFT化するにはハードルが高かったという。また、単にクラブが保有するIPをNFT化して販売するだけの取り組みにしたくはなかった。

セレッソ大阪設立30周年記念記者会見(©CEREZO OSAKA)

「新しい収益源を作ることが大きな目的だったが、NFTでも二番煎じではなく、新しいものに取り組み、クラブとしてチャレンジしていく姿勢を示したかった。セレッソ大阪は12月9日に30周年を迎える。30周年イヤーがスタートする大きな節目でもあった」

ジェネレーティブNFTの意味

ジェネレーティブNFTの採用は、試合映像や選手の画像を使うことがリーグや選手の権利との兼ね合いで難しいという側面はあったが、実は、大きな意味が込められている。

セレサポNFTの取り組みをサポートしたフィナンシェ執行役員でスポーツ事業責任者の神野嘉一氏は次のように語る。

「応援するファンの姿をモチーフにしたキャラクターをNFT化することで、クラブが持っている既存のIPをNFT化するのではなく、クラブが新しいIPを生み出していくアプローチを実現した。購入したファンは、NFTを自由に使えるし、自由に使っていただくことでNFTの価値が高まっていく。新しい応援の形をデジタル空間に作ることで、クラブの収益にもつながるモデルを目指した」

試合映像や選手画像を使ったNFTだと、購入者に自由に使ってもらうことは難しい。どうしても使用を「制限」する方向になる。だが、ジェネレーティブNFTを使ったセレサポNFTなら、そうした問題はなくなる。むしろ積極的に使ってもらうことが価値の創出・向上につながるというわけだ。

現状、NFT市場は厳しい環境にある。猪原氏は「そうした状況は把握しているが、今回の取り組みは従来とは違うものであり、可能性を感じている」と述べた。

「クラブがやっているなら」

アローリストでの先行販売は、わずか7分弱で売り切れるという好調なスタートとなった。だが、セレッソファンのNFTへの認知度・理解度は、まだまだ高くないだろうと猪原氏は考えている。

「この先、ファンに対して、セレサポNFTをどのようにして広げていくかが課題。わからない面もあるけれど『クラブが何かやっているから買ってみよう』というような機運を生み出したい」

セレサポNFTを購入したファンが、自分だけの唯一無二のジェネレーティブNFT画像をTシャツにプリントし、それを着てスタジアムにやってくる。そんな光景を思い浮かべると、確かに面白い。

コインチェックでのパブリックセールは12月5日からスタート。今回の取り組みがうまく行けば、「第2弾、第3弾と続けていきたい」(猪原氏)。

セレッソ大阪 代表取締役社長の森島寛晃氏(©CEREZO OSAKA)

新シーズンに向けた期待とNFTのドキドキ感

セレッソ大阪は11月28日行った30周年記念記者会見で、来季の新しいユニフォームを発表した。ジェネレーティブNFTも、Coincheck INOでのINO実施を発表した際は今シーズンのユニフォームを着ていたが、購入者の手に届くときには、新シーズンのユニフォームになっている。

猪原氏は「この先、ユニフォームのデザインや、その年のチーム成績によってNFTの価値が変わったり、活躍した選手と同じ背番号のNFTの価値が上がるようなこともあるだろう」と今後の可能性を見据えた。

今回発行されるジェネレーティブNFTは3000個。同じデザインのものはない。購入時点ではデザインは確定しておらず、手もとに届いたときに初めてわかる。

タイミング的には、新シーズンのユニフォーム発表、さらには新加入の選手などが発表される楽しさと、何が届くかわからないジェネレーティブNFTのドキドキ感がうまく合わさった。

初めて販売されるNFTコレクションを取り扱う「Coincheck INO」にとっても、今回の案件は2件目。コインチェック Crypto Asset事業本部NFT事業部長の中村一貴氏は「1号案件は、ゲームの領域でWeb3ならではの新しい体験を多くユーザーに届けることを目指していた。セレッソ大阪の目指すNFTを用いた『新しい応援の形』がクラブスポーツ全般に浸透し、当たり前のものになっていくことを願っている」と述べた。

ジェネレーティブNFTを使ったデジタル空間での新しい応援スタイル、さらにはリアルでの応援との結びつきなど、チーム設立30周年に向けて、スタジアムにどんな光景が広がるのか。2024年は注目の1年になりそうだ。

|文・編集:増田隆幸
|画像提供:セレッソ大阪
※編集部より:本文を一部修正し、更新しました。