Web3はコミュニティのためにある。資本主義の上に新しいレイヤーを作り出す──CAMPFIRE代表取締役 家入一真氏【2024年始特集】

連続起業家として知られる家入氏が代表を務めるCAMPFIREは、Web3の技術を生かした新たなクラウドファンディングやコミュニティサービスを提供する新会社「Livefor」を2023年9月に立ち上げた。ブロックチェーン、Web3は国境を超え、グローバルなつながりを構築するとされる一方で、「支え合いの経済」「小さな経済圏」と語る家入氏は、今の社会や経済をどう捉えているのか。Web3を活用した新たな経済とは。

コミュニティ単位での革命が進行

──「支え合い」や「コミュニティ」の大切さを掲げておられます。その原点はどこにあるのでしょうか

家入:中学2年生の時に、いじめがきっかけで学校に行けなくなりました。その時、当時のパソコン通信を通じて、知らない人と年齢や肩書、性別を超えたコミュニケーションを取るなかで、他愛もないチャットですが、すごく救われて、「自分はひとりじゃない」と思うことができました。それが、今でも自分の中に原体験としてあります。

その後、企業だけではなく、個人がホームページや日記、ポエムなどを気軽に発表できる世界を作りたいと考え、安価なレンタルサーバー「ロリポップ!」の提供を始めました。そうした個人の表現のサポートを続けるなかで、誰かが最初の一歩を踏み出そうとしたときに資金を集める仕組みが必要なのではないかと気付き、2011年に「CAMPFIRE」を立ち上げました。東日本大震災の直後でした。

僕の興味は、インターネットを使って、声を上げたくても上げられない個人が一歩を踏み出すことができる仕組みをどう作っていくかにあります。むしろそこにしか興味はありません。

──「コミュニティ」の姿やあり方は変化しているのでしょうか?

家入:SNSやスマートフォンがますます普及し、SNSを中心にした個人単位の小さな経済圏の可能性が広がってきたと感じています。僕の中では「コミュニティ」が大きなキーワードとしてありますが、さまざまなテクノロジーを活用したコミュニティ単位での革命が起きています。

例えば北海道の道東地域では、過疎化が進むなかでも地域が継続できるようにと活動する若い人たちがたくさんいます。都会から来た人も多く、地元の人と協力してコミュニティを作り、活動しています。僕自身、そうしたコミュニティに飛び込んでいます。もちろん仕事として、という側面もありますが、もともと宗教やヒッピーコミューンに個人的に興味があり、研究していました。共通の思想を持って、限りある資源を共有しながらともに生活するといった意味では、北海道の活動はそういうものに近いのではないかと感じています。日本中でそういったコミュニティ、共同体が広がっていて、ここからさらにいろいろなテクノロジーを活用したコミュニティが広がっていくと思います。そのなかで僕たちは何ができるのかを考えています。

少子化、高齢化が進むなか、例えば、地方が経済的に縮小せざるを得ない世の中に突入し、既存の金融からこぼれ落ちる人たちが出てくると思います。信用や実績がない人たちが声を上げても、金融機関はなかなかお金を貸してくれません。そういう人たちの受け皿となり、支え合うことによる新しい金融みたいなものをどう作っていくか。従来の金融をディスラプトするのではなく、僕らだからこそできる「新たな形の金融の仕組み」ができるのではないかと考えています。

お金だけではない応援の形

──ブロックチェーンやWeb3に着目したのはいつ頃からでしょうか

家入:2017年に「みなし業者」として暗号資産(仮想通貨)取引所を開設しました。ただ当時は法的にも曖昧な部分が多く、最終的にはライセンスを返納し、事業を断念しましたが、それ以降も可能性として模索を続けてきました。例えば、少額でできるクラウドファンディング「polca(ポルカ)」は、学生がプログラミングの勉強をするために3000円の本を買いたいときに10人が300円を出し合って応援したり、会社の人にみんなでお金を出し合って誕生日プレゼントを買ったりできるような仕組みでした。感謝の気持ちとともにお金を送る。お金はコミュニケーションツールです。当時、Web3の技術は使っていませんでしたが、将来的にはリターンをトークンにして送るようなことも考えていました。

東日本大震災の後に立ち上げたこともあって、「クラウドファンディングは社会的に良いものでなければいけない」というイメージもあります。僕はもっとさまざまな利用用途があると思っています。誰かが本を買い、コードが書けるようになればうれしいし、そういうことをもっと気軽にできるような世の中を作りたい。これまでもやりたいことはいろいろありましたが、法律の壁もあって、諦めざるを得なかったものもありました。ただ、これからWeb3を本質的にどう取り入れていくかについては、腑に落ちないものはやりたくありません。僕らだからやる意義があることにフォーカスしていて、ようやく「コミュニティ」がひとつの軸として見えてきたこともあり、開発を進めています。

──新会社ではブロックチェーンをどう活用していくのですか?

家入:新会社の「Livefor」は「コミュニティ」という側面をプロダクトとしてサポートするものになります。具体的な形はこれからですが、クラウドファンディングは資金での応援が前提になっていますが、本来、プロジェクトに対する応援の形はいろいろな形があっていいはずです。資金提供をする人がいれば、デザインが得意な人もいます。自分が持つスキルや時間を提供することで応援するという形もあるはずです。

クラウドファンディングを広義に捉えたときに、人と人が繋がり合うなかで、自分にできる範囲でのコミットがしっかり評価される世界を作っていきたい。その部分でブロックチェーンを活用していきたいと思っています。

Web3への「覚悟」が足りなかった

──Web3に関連する規制が以前より整ってきたことが追い風になっていますか

家入:社会的にもこういった世界観が浸透してきたのではないでしょうか。以前は、僕自身も、僕らのようなWeb2.0の存在がWeb3.0の世界が到来するまでの間の「Web2.5」をどう作っていくかが大事みたいに考えていました。2.5というフェーズを踏んでから3.0に移行するべきで、本質的にWeb3.0でなければならないものが見つかったら、本格的に足を踏み入れようと思っていました。

ただ、最近は「何だか、ぬるいことを言っていたな」と自分の中で意識が変わってきました。Web3の世界は間違いなくやってきて、僕らのような存在はまた形を変え、違う形で自分たちにできる価値を提供していくことになります。そういった世界に対して、もう僕ら自身がベットしないといけないのではないか。Web3.0にしっかり向き合って、自分たちの「こうあるべき」という未来を自分たちで選んで、ベットする覚悟が足りなかったと思っています。

その半面、自律分散がキーとなるWeb3.0を考えると、僕たち自身が実はすでに大きなプラットフォームになっていることにも気付かされました。自分たちを否定するわけでも、卑下するわけでもないのですが、一方で、自分たちがそういう存在であることを自覚する必要はあります。プロジェクトを立ち上げたい人をサポートし、応援する側との間に入って手数料をいただくモデルでやってきました。そのプラットフォームである僕ら自身が中央集権的な存在になっています。

CAMPFIREはミッションとして「一人でも多く一円でも多く、想いとお金がめぐる世界をつくる。」を掲げています。それを本当に実現しようとすると、最終的には僕らのような存在はない方がいい。ただ、僕らも今まで培ったノウハウがあり、それを生かしながらWeb3の世界でどう取り組むべきかを模索してきました。価値を提供することに対して、対価をいただくことは正しいことだと思っていますが、ただマッチングして手数料をいただくのではなく、継続していくコミュニティに対して、僕らが何らかの価値を提供していくことに対して手数料をいただく。そうした方向にシフトしていく必要があると思っています。

コモンズ概念を取り入れたWeb3

──自由民主党のweb3プロジェクトチーム(web3PT)がDAO(分散型自律組織)の法整備を進めていますが、新しいプロジェクトはDAO的なものを想定しているのでしょうか

家入:まさにDAOのようなものになると思います。今、全国で「地域おこし協力隊」に参加し、活動している人たちがいて、僕らも地域おこし協力隊に特化したクラウドファンディングをリリースしました。ですが、活動への思いは持っているものの、地域のコミュニティに馴染めていない人もいます。孤軍奮闘になってしまい、地域での起業を考えていたとしても踏み出せない人もいます。そういったときにノウハウの共有や人の紹介を通じてコミュニティやネットワークを形成できれば、もっとさまざまなプロジェクトが立ち上がるかもしれません。これをひとつのテストケースとしてプロダクト開発を進めています。自律分散型で各自が動いた結果、多様なプロジェクトが立ち上がり、そこに貢献することでトークンが得られるといった仕組みを、絵に描いた餅ではなく、活動している方とともに実際に使えるものを作っていきたい。

持続可能な地域をどう作っていくか、社会的な共通資本を地域を持続させるためにどう使っていくかといったコモンズ(共有資源を共同管理する仕組みや空間)の概念を取り入れたWeb3をどう実装していくかが重要になると考えています。地方は、もはや行政に頼るだけでは問題が解決できない現状も生まれています。人口が減るなかで財源も減り、医療や教育が立ち行かなくなりつつあります。行政に求めるだけでなく、「自分たちでどう継続させていくのか」という考え方も大切になってきています。僕たち自身でどうやって、これからの経済や地域を持続させていけるか。共同体やコミュニティを作り出していけるか。そのときにテクノロジー、ツールとしてブロックチェーンやDAOは非常に有用なもので、むしろこのために存在するものと考えています。

──2024年はどんな1年になると思われますか

家入:国境を超えてGAFAなどが台頭し、国の定義が曖昧になっていく世界がありました。今は国が自分たちの輪郭を取り戻そうと、改めて国境線を引き直し、中央集権的な力を取り戻そうとしています。その一方で、DAO的な自律分散の流れが同時に生まれている時代だと感じています。

「行き過ぎた資本主義」などと言われますが、生きづらさを抱えたり、しんどい思いをしている人たちがいます。環境問題や戦争など、持続可能ではないことがいろいろ起きていますが、その半面、資本主義には強さがあり、簡単には否定できません。であれば、資本主義というレイヤーの上に新しいレイヤーをどう作っていくかが重要になります。個人個人が小さな経済圏をつくり、お互いに重なり合って、支え合うコミュニティを作る。そういう世界観を描いています。

2024年なのかどうかはわかりませんが、日本経済はどこかでクラッシュするかもしれません。また、しんどい思いをする人たちが生まれてしまいます。それを待ち望んでいるわけでは決してありませんが、そこから新しいテクノロジーが当たり前に使われるようになり、大きな変化が起きていくと思います。そこに向けて、人々が1人ぼっちにならなくていい世界を作りたい。そのひとつの答えがコミュニティだと考えています。

家入一真
2003年、paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業、2008年、JASDAQに市場最年少で上場。2011年、CAMPFIREを創業。2012年、BASEを設立、2019年に東証マザーズに上場。2021年、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング 2021」第3位に選出。

|インタビュー・文:増田 隆幸
|写真:小此木愛里
|執筆協力:水野公樹