【家入一真】「若者がつくる未来がみたい」ブロックチェーンの小さな経済圏とは?

連続起業家の家入一真は、個人がつながり支え合うコミュニティを「小さな経済圏」と呼ぶ。クラウドファンディング「CAMPFIRE」の代表としても、その実現にチャレンジ中だ。なぜブロックチェーンのスタートアップ企業に出資を決めたのか?資本主義のアップデートとは何か?その真意を聞いた。

家入一真(いえいり・かずま)/連続起業家
1978年、福岡県出身。 「ロリポップ」「minne」など個人向けサービスを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業、2008年にJASDAQ市場最年少で上場。退任後、2011年クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にもBASE株式会社の共同創業取締役、エンジェル投資家として80社を超えるスタートアップへの投資・支援、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。 2018年、シード向けベンチャーキャピタル「NOW」を設立。第一号として、最大50億円規模のファンドを組成。生きづらさを抱える人の居場所づくりや、「やさしい革命」を合言葉に、テクノロジーによる社会のアップデートを人生のテーマに活動中。

これからの社会には「小さな経済圏」が必要だ

「ブロックチェーンが実現する世界は、まさに『小さな経済圏』だなと直感しました」

家入氏はこのように述べる。「小さな経済圏」とは何か。そのひとつの例が、CAMPFIRE上で生まれるクラウドファンディングのプロジェクトだと家入氏は語る。

「インドで修行までしたカレー好きの人が、本場の味のレトルトカレーを作りたいとCAMPFIREで発信すると、300人が『それを食べてみたい』と言ってお金を払ってくれたり。日本の素晴らしい手仕事文化の価値が海外に伝わっていないと感じた人が、藍染と金物製作の技術が合わさった包丁を作りたいと発信すると、30人のパトロンが価値を感じて買ってくれたり。これらは決してサイズは大きくないけれど、個人同士でつながりながら経済が回っています」

こうしたクラウドファンディングのプロジェクトのような「個人や地域レベルで小さなつながりを持ち、支え合っているコミュニティ」を「小さな経済圏」と呼んでいる。

成長・拡大を目指す既存の経済を『大きな経済圏』とするなら、企業ではなく個人が活動するのが『小さな経済圏』。それはどれだけ小さくてもいいんです。たとえば50人のフォロワーしかいない人でも、その中の5人がその人の何かに価値を見出してお金を払ってもいいと思えたなら、そこには『小さな経済圏』が生まれる」

こぼれ落ちた人たちの居場所をつくったら起業家が生まれた

家入氏が「小さな経済圏」の重要性を感じた原体験のひとつは、自身が運営するシェアハウス「リバ邸」だった。

「僕がかつて六本木で会社をしていたときに、大学を休学しちゃってこれからどうしていいかわかりませんとか、就職したけど心が病んで会社行けなくなっちゃったとか、そういう子たちが周りにたくさんいたんです。その当時、現NEWPEACE代表の高木新平くんが『トーキョーよるヒルズ』っていうシェアハウスをやっていて。でも『よるヒルズ』をもうやめるって言うから、それをそのまま貸してもらってみんなを入れたんですよね。それが『リバ邸』の始まりです」

出典:「リバ邸総合サイト」

すると、こうした「社会からこぼれ落ちていった人たち」の居場所が生まれた。

「リバ邸によって、彼らが安心できる場所が生まれたんだと思うんですね。学校にも会社にも居場所を感じられなかった子たちが『あ、自分はここにいていいんだ』と。かつ経済的にも、家賃や食事をみんなで割るので、月15,000円くらいで生きていけるわけですよ。こうやってお互い支え合えば、そこに『小さな経済圏』ができる。それによって実は生きやすくなることってめっちゃあるなと思ったんです」

その居場所からは意図せずして起業家も生まれたという。

「『BASE』の鶴岡裕太君だったり、のちにDMMに売却が決まる『POOL』をつくった宮本拓君が出入りしてました。ただ、最初から起業家を排出しようとか、そんなことは考えてないです。とりあえずこぼれ落ちた子たちにとって安全な場所、安心できる居場所をつくろうとしただけで」

「小さな経済圏」が行うのは資本主義のアップデート

これまで家入氏の活動におけるキーワードは「居場所作り」だったと言える。自身もかつては画家を目指していた中で、インターネットを自己表現の場として使う人が増えていくと予想し、気軽に使えるレンタルサーバー「ロリポップ」を21歳のときにつくったのが最初だ。

以降、「リバ邸」の運営を含めた多岐に渡る「居場所作り」の活動を通じて、資本主義の課題を見つめてきた。

「毎日家族のために働いて、でも心が疲れてしまってという大人を見て育った若い世代は、お金があれば本当に幸せなんだっけ?ということに、もう気づき始めている気がします。大人たちは『お金があれば不自由なく生きていけるよ』って言ったけど、震災だったり津波だったりで大きなものが一気に壊れ、流されてしまうことがもう判明してしまったし」

一方で、資本主義が間違っていると言い切ることはない。

「経済成長して国も会社も個人も豊かになろうとしている時代に、お金や豊かさといった指標が「幸せのモノサシ」になったのは当然で、悪いことじゃなかったと思っていて。頑張ったら頑張ったぶんだけお金が入ってきたり、偉くなれたり、いい車乗れたりするとモチベーションになるじゃないですか。目指すべき山のてっぺんが見えていて、そこをみんなで登ってるときというのはとても幸せなんですよね」

資本主義のあり方自体は肯定しつつ、家入氏は「小さな経済圏」をつくることで「資本主義のアップデート」を図るべきだという。これは、企業が主導する従来の「大きな経済圏」からこぼれ落ちた人々のための、経済的な「居場所」をつくる試みだ。

資本主義を変えるわけではなく、その上のレイヤーに『小さな経済圏』をたくさん形成する。誰もがみんなそれぞれに合った経済圏を選べるようになって、これからの生き方みたいなものができてくるんじゃないかと思います。現状の例で言えば、カレーが好きならクラウドファンディングでカレーを作ってみるとか、副業的にクラウドソーシングで収入を得るとか」

「想像できないものはつくれない」0.5歩先を見たサービスづくり

では、「小さな経済圏」が日本中にたくさん生まれる社会をどうつくっていくのだろうか。この鍵を握るのがブロックチェーンだと家入氏は語る。

「初めてブロックチェーンを目にしたとき、『あ、これだ!』という直感がありました。時代と一気にリンクする瞬間っていうのがあると思うんですけど、まさにそれで。各々が自律的な活動を行いながら分散化されていくという仕組みは、これからの生き方や、個を中心とした経済圏の形成に大いにマッチしていると感じたんです」

とはいえ、具体的なサービスづくりはまだ見えないともいう。

「ブロックチェーンは間違いなく来ると思っていますが、具体的にブロックチェーンを使ってサービスをつくるところまで振り切りはしませんでした。テクノロジーとして普及したタイミングであれば使うけど、無理に使うことはないという感じはちょっとあって」

現段階ではまだユーザーの利用シーンが想像できないことがその理由だ。具体例として家入氏はCAMPFIREが提供しているアプリ「polca」を挙げる。「polca」は身近な友人同士などの緩やかに閉じたコミュニティの中で気軽にお金を集めたり、コミュニティ内の誰かを金銭的に支援できるサービスだ。

出典:「polca」

「『polca』が目指しているのは、友人や知人間の優しいつながりの中で、例えば学生に対して大人が300円だけ送れるといった世界です。これを実現する上で、ブロックチェーンを使ったトークンエコノミーは本来『polca』と相性がいい。トークンエコノミーでは即時的に超少額の送金ができ、手数料も理論上ほとんど掛からないからです。実際、社内の中でもトークンエコノミーでやろうという話はあったんですね。でもその用語がまだ一般に定着していない現段階で、いきなり『トークン』みたいなこと言われてもユーザーはきっとわからないだろうなと思って」

人々が使う姿を想像できないものはつくれないと家入氏は語る。

「『インターネットを使ってこういう世界を実現できる』と先の方まで見えている、思想家みたいな方々っているじゃないですか。それに比べて僕はひょっとしたら、想像力が貧困なのかもしれません。0.5歩先みたいなところまでしか見えなくて。僕は「身近な人の顔を思い浮かべて手紙を書くようにサービスをつくる」と言うことを大事にしているのですが、逆に言うと届けたい相手の顔が見えないと、サービスをつくれないんです」

若者たちがつくる未来に投資して「参加権を払いたい」

ブロックチェーンを使った一般向けのサービスづくりはまだ時期尚早なのだろうか。家入氏はこうも語る。

「まだブロックチェーンは黎明期だと見ていて、アプリケーションレイヤーや社会実装みたいなところでやるべきことはたくさんあると思います。経営者としての自分をふり返ってみると、テクノロジーとして普及した時期では『もう遅い』ということもあり得るので焦りも、もちろんありますね」

家入氏は、自身にも見えない部分があることを謙虚に認める。

「たとえば10代、特に高校生の起業家で、ブロックチェーンを使ったサービスつくりを目指す優秀な子たちがたくさん出ていて。実はもう、彼らと僕とは本当にはわかり合えなかったりするんですよね。たとえば若者たちに『メッセージのやり取りには何を使ってる?』って聞くと、『インスタのDMしか使ってないです』と言っていて。おっさんからするとインスタって写真をあげるサービスだよね、みたいな。『なんでわざわざインスタでDMするの?』と聞くと、『いやかっこいいから』みたいな。もう全然わからないんですよ(笑)」

家入氏が見えていない世界は、若い世代につくってほしいと話す。

「わからないから、あとは頑張ってねという話ではなく、自分も学ばせてもらおうという気持ちはとてもあって。そういった意味でも現在は、いま『NOW』というVCで投資をしていて、それは若い子たちが実現する世界を僕が見たいから。投資は僕にとって、彼らみたいな次世代が描く世界に、お金を出して参加権を払っている気持ちがとてもあります。逆にいままで経営してきた時間や、培ってきたつながりなど、上の世代だからこそ提供できる機会みたいなものはきっとあるはずなので、僕が上の世代から受けた恩を下につなげていこうと意識していますね」

次の世界をつくる意義は大きい。今後の日本には、民間から社会を支える仕組みが不可欠になるからだ。

「これから先、少子高齢化でますます経済が小さくなるはず。すると税収も減っていって、きっとあらゆるセーフティネットが崩壊していくと思っています。そのときに民間からどういう場所をつくっていくかということがとても大事。豊かさは実現したけど未来を描けてない“課題先進国”とも呼ばれる日本は、次にどう生きていくかという新しいモデルをつくっていく上で、世界の中でもやりがいのある場所だろうなと。それを実現するためにブロックチェーンの持つ非中央集権的な思想や、自律分散型のテクノロジーは必要不可欠だと思っています」

家入氏はテクノロジーが次の社会をつくっていくと考える。

「資本主義が国家と紐付いて大きくなってきたものだとすれば、国だったり会社だったりに縛られずに、所属する経済圏を自分で選択できる世界にしていきたい。ただ、インターネットが出てきて境界が曖昧になった国家がいま、もう一度体をなそうと輪郭をはっきりさせようみたいな方向に向かっています。この流れは当分続くかなと思っていますが、でもテクノロジーはそれを止めることはできない。その力を信じて、新しい経済圏、新しい世界をつくることを模索していきたいですね」

構成:弥富文次
編集:久保田大海
写真:多田圭佑