チェーン抽象化の台頭とチェーン派閥の終焉

2023年は、その大半で市場が低迷していたにもかかわらず、「オープンウェブ」と呼ばれるものが大きく成長した。ゼロ知識(ZK)テクノロジーが大きく前進し、レイヤー2とロールアップ主導のツール群が定着し、新たな原則が登場して多くの注目を集めた。

チェーン抽象化の時代へ

これらのトレンドはすべて、2024年のWeb3にとって大きな進化となる「チェーン抽象化」の土台となった。

暗号資産(仮想通貨)業界は、ブロックチェーンなどのインフラがユーザーや開発者からますます見えなくなっていく、チェーン抽象化の時代に移行しつつある。

開発者は、分散化、ユーザーへのアクセス、流動性、ローンチまでのスピード、そして使用しているインフラのセキュリティと信頼性を重視する。

一方、ほとんどのエンドユーザー(少なくともメインストリームになる可能性のあるアプリケーションを使用しているユーザー)は究極的には、アプリ開発の基盤となっているインフラを気にしない。

ユーザーはただ、価値ある素晴らしい体験を、素早く、簡単に、そして理想的には無料で手にしたいだけ。Webページの運営に使われているのがグーグルなのか、アマゾンなのか、それ以外かを考えたり気にしたりする人はほとんどいない。

セキュリティの統一

ゼロ知識証明は、台帳のセキュリティに極めて新しいアプローチをもたらす。分散化されたバリデーターを信頼する代わりに、ZK暗号化技術により、今では1台のコンピューターでも簡単に実行できる証明でルールが守られたことを証明できる。

これは、何十億ドルもの資金を投じて安全を確保した共有チェーン上で開発するか(あるいは新しいチェーンを立ち上げるために莫大なリソースを費やすか)、サーバーを1台設定するかの違いを意味する。

言い換えれば、開発者がインフラを選択する際、セキュリティが決め手になる必要はない。最近の技術進歩により、あるチェーンの取引と価値を(技術的な注意点はあるが)別のチェーンで決済することができる。

ネットワークを超えてセキュリティがますます統一されていくことは、アプリ開発者にとって大きな意味を持つ。というのも、開発する場を決定する際に必要な決断内容が変わるからだ。

ZK証明で何をしたかを証明できれば、どこで開発したかはそれほど重要ではなくなる。セキュリティの統一はまた、どのネットワークからでも、どのレイヤーからでも流動性を利用できることを意味する。

ユーザーにとっても開発者にとっても、流動性とセキュリティがよりスムーズになることは、柔軟性を高めることにつながる。同様に、ユーザーからこれらの選択の負担を取り除くことで、オープンウェブは今のインターネットのように感じられるようになり、何十ものウォレットやアカウントを管理することなく、アプリからアプリへ簡単に移動できるシングルプラットフォーム体験が加納になる。

アカウント集約

ユーザーエクスペリエンス(UX)をスムーズにするもうひとつの大きな鍵は、アカウント・アグリゲーション(集約)、つまりアプリやコミュニティにとっては、ますます面倒になりつつある、レイヤー1やレイヤー2ごとのアカウントを管理する必要性をなくすことだ。

例えば、ニア(NEAR)プロトコルはクロスチェーン取引を可能にするマルチチェーンのノンカストディアルアカウントに取り組んでいる。

すべてのWeb3アプリにおいて統一された体験を提供するために、開発者は一般的に「アカウント抽象化」というアイデアを念頭に置く必要がある。

これは、ブロックチェーンをまたいだアプリを開発するための新しいプログラム可能な環境を開発者に提供し、ブロックチェーンの詳細をユーザーから隠す分散型フロントエンドと組み合わせることで、Web2よりもスムーズで、一段と優れたUX新時代を切り開く、強力な新しいパラダイムだ。

統一されたクロスチェーンのエコシステムが可能であると信じているのはニアだけではない。我々はまた、イーサリアムのロールアップのための高速ファイナリティレイヤーにおいてEigen Labsと提携し、zkWASM(zk証明のひとつ)でポリゴン(Polygon)と協力している。「オープンウェブ」の普及は、ユーザーのWeb3へのエントリーポイントから始まることは明らかだ。

UX向上を重点に

チェーン抽象化は、マキシマリズムの終焉を意味する。もちろんテクノロジーは重要で、私たちWeb3関係者の多くは、異なるアプローチを差別化する多くのイノベーションと選択肢に関心を持っている。しかし、多くの人はインフラではなく、体験や製品に関心がある。

暗号資産がメインストリームになるにつれて、多くのブロックチェーン、ロールアップ、インフラプロバイダーが異なるタイプの、多くのアプリケーションを実行するようになるだろう。しかし願わくば、ユーザーは技術レイヤーを管理する必要もなければ、知る必要すらないようにしたい。

オープンウェブはより優れたウェブを実現するのだから、特定のブロックチェーンを中心に排他的に考えるのではなく、ユーザーにより良い体験を提供することに集中しよう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Rise of Chain Abstraction and End of Blockchain Factionalism