老朽化する上下水道の維持管理にDAOを活用、水処理大手がWeb3参入──インフラクライシスに地域住民とともに対処

道路・橋・上下水道などのインフラが老朽化し、維持管理が大きな課題となっている。少子高齢化による人手不足、最近では自然災害もあり、「インフラクライシス」と呼ばれる状況になっているが、Web3、具体的にはDAO(自律分散型組織)の活用がひとつの解決策になるかもしれない。

水環境分野の総合エンジニアリング企業で、東証プライム上場のメタウォーターは、上下水道の維持管理にDAOを取り入れるプロジェクトを開始した。維持管理を住民参加型で行うためのコミュニティづくりをサポートするDAOを、ノーコードDAOツール「Clubs」を提供するブロックチェーン開発企業のフレームダブルオーと連携してSaaS型サービスとして提供する。

インフラの維持管理へのDAO活用は、端的に言えば「外部リソース」の活用だ。同社会長の中村靖氏は2月19日に開催した記者会見で「コロナ禍でのリモートワークの進展によって、業務のマニュアル化が進んだ。これを地域住民に公開することで仕事を手伝っていただくことが可能になった」と述べた。

同社は2008年、インフラに携わる自治体職員数の減少、公共事業への民間の参加、いわゆる官民連携(PPP/PFI)の進展、業界の大規模再編が想定されるなか、日本ガイシと富士電機の合弁企業としてスタート。設立時の売上高は約850億円、以降、15年で1500億円近くまで成長している。「右肩下がりの業界の中で、右肩上がりの成長」と中村氏は述べた。

(メタウォーターのリリースより)

SaaSサービスでは、メタウォーターのリモートワーク用ツールと「Clubs」を連携させる。メタウォーターが作業に必要なマニュアル、ワークフローなどを提供し、作業中のコミュニケーションや進捗報告、作業完了時の報酬の受け取りなどにDAOの機能を利用する。

例えば、地域の自動車工場などがコミュニティを通じて、「浄水場の計器を修理してほしい」というような作業依頼を受け取り、マニュアルやリモートでサポートを受けながら、修理を行う。報酬は現状では税制の問題があるため、地域クーポンや作業したことを証明するNFTなどが想定されている。DAOが拡大すれば、自治体を超えた連携も考えられる。

「浄水場は桜を植えているところが多い。特典としては、お花見イベントとして施設を開放するときなどに、優先的に良い場所が割り当てられるなども考えられる」(中村氏)

(フレームダブルオー代表取締役社⻑の原 ⿇由美氏)

一方、フレームダブルオーは2015年設立。2018年からブロックチェーン開発に取り組み、現在、伊藤穰一氏が取締役として参加している。「Clubs」は同社が手がけるオープンソース開発者支援ツール「DEVプロトコル」をベースにしている。

メタウォーターは当初、DAOのシステムを自社開発しようと考えたが、リサーチを進めるなかでフレームダブルオーの「Clubs」に出会ったという。

2024年は「Web3のマスアダプション」が実現すると期待されている。ただし、マスアダプションにはWeb3企業だけでなく、既存企業の参画が不可欠。ゲームがマスアダプションを切り開くと言われているが、インフラのメンテナンスに関わるメタウォーターのような企業が参入することは、Web3業界にとっても大きな意味がある。

「Web3は、金融やIT業界のためだけのものではなく、我々のような業界にも追い風となっている。(Web3を)社会実装していくことが、これから大切になってくると考えている」と中村氏は述べた。

|文・撮影:増田隆幸
|トップ画像:メタウォーター会⻑の中村靖氏