世界を驚かすような事例が生まれる──税制改正、DAOの規制整備でWeb3のエコシステムを回していく:自民党web3PT

第三者が発行した暗号資産(仮想通貨)を保有する企業に対する税制の改正や、世界的に利用ケースが増加している新しいコミュニティ運営形態、「DAO(分散型自律組織)」についてのルール作りとなど、政府・自民党が推し進める「Web3戦略」に注目が集まっている。

このWeb3戦略を策定するうえで、自民党のコア組織として活動しているのが「web3プロジェクトチーム(web3PT)」だ。2024年、日本のWeb3戦略をさらに推進するために、web3PTはどういった取り組みを進めていくのか。web3PT座長の平将明議員、事務局長の川崎ひでと議員に聞いた。

DAO(分散型自律組織):Decentralized Autonomous Organizationの頭文字。ブロックチェーンを使って、特定のリーダーや管理者が存在せずに、参加者が連携して事業などを推進する組織。

──web3PTは昨年11月に事務局長が前任の塩崎議員から川崎議員に交代し、新体制となった。新体制スタートによる変化はあったか。

平議員:事務局の新体制は大成功だったと考えている。川崎議員はWeb3に非常に詳しく、熱心に取り組んでいるので、web3PTがさらに勢いづいた。特に、川崎議員が主導した「DAOルールメイクハッカソン」を通じて、政府も巻き込んだ形で新しいWeb3コミュニティができつつある。2023年は非常に良い一年になったと思う。

川崎議員:もともとweb3PTでは事務局次長を務めていたが、塩崎議員から事務局長を引き継いだときは大きなプレッシャーを感じた。暗号資産の第三者保有の税制改正、そしてDAO(分散型自律組織)についてのルールメイクという非常に大きな2つのボールを受け取った。だが一方で、事務局次長の一人だった神田議員が金融庁を担当する内閣府大臣政務官に、塩崎議員は厚労省担当の政務官になり、政府サイドに心強い仲間が入ってくれたことで進めやすくなった一面もある。「DAOルールメイクハッカソン」は、成功するかどうか分からない取り組みだったが、参加していただいた方々の意欲がダイレクトに我々に伝わり、素晴らしい取り組みになった。

DAOの制度設計で前進

──「DAOルールメイクハッカソンの手応えや反響はどうだったか。

平議員:DAOは多様なため、ハッカソンを開催する前はDAOに実際に携わっている人たちが、我々ルールメーカーに何を望んでいるのかが迷宮入りしつつある状況だった。ハッカソンには政府や省庁、さらにweb3PTワーキングチームの弁護士も参加し、現場で発生している複雑な話をリアルに聞くことができ、非常に勉強になったと同時に論点整理にも役立った。海外ではキャピタルゲイン狙いのようなWeb3の世界がある一方、日本では地に足のついたWeb3の活用やDAOの運用手法が育っていると実感した。

川崎議員:ハッカソンをどう進めればよいのか、何も決まっていないところからスタートしたので全体像を作り上げることに苦労した。当初は3回の実施を予定していたが、募集枠を遥かに超える団体数が参加を希望してくれたこともあり、急遽4回になった。それだけ多くの方々に注目されていたのだと思う。

DAOと言っても、地方創生をテーマとしたDAOもあれば、映画あるいはスポーツといったコンテンツを盛り上げたいDAOなど、多種多様なものが存在している。共通の問題意識がある一方で、もっと広範に受け入れられるような仕組みにして欲しいという要望など、今回のハッカソンではさまざまな角度から話を聞くことができた。また、毎回、終了後に参加した事業者がお互いに名刺交換をして繋がるようなミートアップの効果があったことは非常に良かったと思う。今まで自民党が開催してきた有識者会議にはなかったスタイルで、新しい発見だった。

──ハッカソンでは「DAOの定義とは何か」という問題意識が強かったように感じた。web3PTはDAOの定義をどう捉えて制度設計を進めるのか。

(平将明議員 撮影:小此木愛里)

平議員:スマートコントラクトを実装していなければDAOではないという厳密な考え方がある。最終的にはそこを目指していくのかもしれないが、スタートから狭義の、厳密なDAOに限定するつもりはまったくない。ゆるい意味のDAOから厳密なDAOまで含めて、現状、グレーな部分をどうやってホワイトに持っていくかが重要になる。

だが、グレーだからといって規制したり、黒だと言ったりするつもりはない。ただ、特に自治体や大企業はグレーだとなかなか参入できない実態があるので、そこは早急に解決していきたい。他にも、中心メンバーがどこまで法的責任を問われるのか分からないまま、グレーゾーンで頑張っている面もある。DAOをいくつかの類型に分けることができると思うが、まずはできるところから整備しようと思っている。

川崎議員:私も同意見で、我々が狭義な意味合いでDAOを規定したくはない。例えば、ブロックチェーンを使い、トレジャリーウォレットを持っているものがDAOだという定義付けをすると、それこそDAOの面白さを阻害してしまう。ハッカソンでも話が出たが、必ずしも特定のツールを使う必要があるわけではない。

──ハッカソンでは法人格の付与を期待する声が多く出たが、当面は合同会社をベースにしたLLC型のスキームを流用する方針になるのか。

川崎議員:ハッカソンでは「法整備を待っていては、事業を進められない」という声もいただいた。現行スキームでできるものは何かと考えると、やはりLLC型のスキームが最も相性が良いという理解になる。これを府令改正する形で進めたい。具体的には、金融商品取引法の布令をマイナーチェンジすることや合同会社の定款の定め方を工夫することなどで課題を解決できるのではないかという方向性で現在、各省庁やワーキングチームと検討している。

──参加者の匿名性を保護する方法についても議論があった。具体的なアイデアなどは出ているのか。

川崎議員:合同会社に関連する法令では、定款の定め方が重要なポイントになる。会社(DAO)側には自社社員の氏名・住所を把握させ、定款にも記載しつつ、 社員の氏名・住所部分は他の社員の閲覧を制限する旨あわせて定款に記載することなどで、 他の社員に対する匿名性は守れるのではないかというのが現状の我々の検討状況となっている。今後、さらに検討していきたい。

──府令改正までのスケジュール感はどのように考えているか。

平議員:府令改正で対応できるものは、4月1日には間に合わせたいという思いをweb3PTで持っている。そのためには例えば、web3PTから緊急提言を出して、詳細な検討は各省庁に引き継いでもらい、パブリックコメントを募集して府令改正を行うというプロセスが想定できる。このスケジュール感であれば、1月中には緊急提言を出さなければいけないだろう。ただし、DAOについての全面的かつ包括的な法整備は時間が必要になる見通しだ。銀行口座を作らなくても良いのか、ブロックチェーンのコードが定款の代わりになるのかといった詳細と実現可能性について、今後議論を重ねていくことになる。

川崎議員:国会日程もかかわってくるが、緊急提言は1月末、遅くとも2月第1週までに行いたいと考えている。

税制改正にも区切り

自民党web3PTが新体制に──新事務局長・川崎ひでと氏インタビュー
(川崎ひでと議員 撮影:小此木愛里)

──他社発行分の暗号資産保有に関する見直しを含めた自民党の税制改正大綱が、12月末に閣議決定された。前年の自社発行分の改正に続いて、2年がかりで改正が実現する形となった。

平議員:第三者保有の税制改正はかなりの力技で党の税制調査会で理解してもらい、通していった。これはweb3PTの成果と自負してもよいと思う。従来、税制改正はハードルが高い手続きだが、今回はweb3PTが「これを実現しないと税収も期待できず、Web3のコミュニティやエコシステムが完成しない」と多くの議員に呼び掛けた。

特筆すべきは、今の日本はWeb3のスタートアップと、例えば、NTTやトヨタ、ソニーといった日本を代表する大企業が連携して、新たなビジネスや付加価値を生み出して行こうとする流れがあること。「失われた30年」の中では、スタートアップと大企業がぶつかることはあったが、「一緒にやろう」という動きはほとんど見られなかった。今後は、こうした動きが加速するだろう。税制がクリアになったことで、投資する側、あるいは事業を一緒に進めようとしている大企業が事業を進めやすくなった。今年は、Web3分野で日本から世界を驚かすような成果が期待できるはずだ。

さらに「起業するには日本が良いのではないか」という声や、海外に拠点を移した事業者から「日本に戻ることを検討している」といった話も出てきている。これはまさに自社発行と他社発行の税制改正を行ったことにより、エコシステムが回る環境が生まれてきたということだろう。

川崎議員:海外に移った事業者から「やはり日本の方が住みやすい」と言われたこともあり、Web3ビジネスの拠点として日本を選択するような流れが、新たなうねりになるのではないかと感じている。数年前を考えると、感無量としか言いようがない。今後、詳細を詰めていくところで使いにくい制度になってしまうことなどがないよう、web3PTとしても十分、注視していきたい。

──期末時価評価課税の対象外とするための譲渡制限条件に懸念の声もあるようだが。

平議員:そもそも従来の考え方では実現できないような改正になっており、いくつかの条件は止むを得ない。金融に関わってくる領域であり、何でも自由にできるような領域ではない。制度を使いにくくしないこと、理解を広めて使いやすくしていくことが重要になると考えている。
また「次は分離課税の実現」という声が上がっているが、そのためには証券並みの規制を入れる必要が生まれてくる。簡単には進められない課題だ。

川崎議員:政治家としては、広い視野で全体的な影響を考えなければならない。税制も何かを改正したら、本来であれば、それがどういう影響を与えるのか経過観察の時期が必要であり、影響を見たうえで、次の動きを決める。今回に関しては、自社発行分についての改正を行った次の年に、他社発行分についての改正を行うという従来ではあり得ないスピード感で税制改正を進めた。まずは改正が十分機能するかを見定める必要がある。

世界に目を向けると、紛争が起きている現実があり、そうした国際情勢の中で暗号資産の規制を大きく緩和することはマネーロンダリングやテロ資金供与につながる恐れもある。慎重に行う部分とドライブをかける部分を分けて進めたというのが正直なところだ。

平議員:我々は真面目なエコシステムを作りたい。私が聞いているスタートアップと大企業の連携は、Web3をキャピタルゲインの道具と捉えるのではなく、Web3を使って、付加価値を生み出そうという腰を据えた取り組みだ。それを応援したいという思いが我々にはあり、暗号資産のマネーゲームに加担するつもりはない。スタートアップや投資家とともに、これまでは「眠れる獅子」だった大企業の力も借りつつ、エコシステムを回すことによって撒いた種が果実になっていくことをイメージしている。

web3PTの意義

──自民党の中でweb3PTの役割・存在はますます大きなものになっていくのでは。

川崎議員:世界中がWeb3の潮流に乗っている中で、自民党にweb3PTが存在することは非常に意味があると思っている。例えば、茨城県つくば市がブロックチェーンとマイナンバーカードを活用したインターネット投票を実施していたり、仙台市もブロックチェーンを使った取り組みを進めていたりする。この先、自治体を巻き込んだWeb3の取り組みがますます増えていけば、当然ながら多くの政治家も「Web3を理解しておかなければ」と考えるだろう。そうしたときに自民党には、web3PTがあり、フォローできる体制が整っている。

平議員:web3PTの良いところは、情報が集まってくるところだ。最先端で活躍する人たちと繋がっていて、活発に意見をやりとりしている。自民党の中でもweb3PTが異質なのは、日本はもちろん、世界を舞台にWeb3に携わっている人たちと繋がっていることだと思う。

──web3PTの2024年の取り組みは。

川崎議員:大きな目標としては、第三者保有の税制改正を着地させることとDAOにまつわる規制整備になる。DAOについては、ハッカソンを進めるにつれて、短期的な課題のみならず、中長期的な課題も明らかになってきた。これを次のホワイトペーパーにしっかりと反映させるという次の取り組みは見えている。さらにDAO以外の領域についても現状を把握しつつ、政策の新たな重要ポイントをweb3PTの中で見定めていきたい。

平議員:今年はWeb3の事例にいよいよ真打ちが登場すると期待している。よく言われているように、日本のゲーム業界がWeb3に本格的に参入したり、ファンコミュニティを盛り上げる取り組みや、スタートアップと大企業が連携してレイヤー1やレイヤー2のチェーンに取り組む動きも始まるだろう。

さらに、ふるさと納税の返礼品としてNFTを発行し、成功を収める自治体なども出てくるのではないかと期待している。新たなシステムやエコシステムが回り始めたときには、また新たにレギュレーションや税制の問題が出てくるだろう。そうしたことに丁寧に対応し、日本のweb3を引き続き、応援していきたい。

|インタビュー・文:水野公樹
|編集:増田隆幸
|写真:左・平将明議員、右・川崎ひでと議員(撮影:小此木愛里)
※編集部より:リードを修正し、更新しました。