AI + 暗号資産=トラブルか?

最近、AIトークンは、AI半導体大手エヌビディア(Nvidia)の好調な決算報告に便乗した。エヌビディアの株価が上昇するにつれ、ワールドコイン(Worldcoin)のWLD(7日間で40%)、SingularityNETのAGIX(43%)、Fetch.aiのFET(18%)などのトークンも上昇した。

OpenAIのような「伝統的」AI企業への熱狂が暗号資産AI市場を活性化させたのは今回が初めてではない。昨年のOpenAIのChatGPT 3への熱狂の後、AIトークンも好調の時を迎えた。少なくともある計算では、その総価値は40億ドル(約6000億円、1ドル150円換算)を超えた。例えば、Fetch.aiのFETは、昨年12月の約6セントから2月7日には54セントまで上昇した。

しかし、従来のAI企業と「暗号資産AI」企業には違いがある。我々はChatGPTやグーグルのGeminiが何をするか知っている。消費者はそれらを使うことができる。エヌビディアは、最も洗練されたコンピューターを動かすマイクロチップを製造している。一方、暗号資産AIトークンの背後にあるテクノロジーは何をするのだろうか?

疑問点の多いFetch.ai

例えばFetch.aiは、「複雑なタスクに自律的なソリューションを提供するデジタルエージェントとデバイスが直接接続できるようにする分散型接続プラットフォーム」と難解な表現で自らを説明している。

Fetch.iは、AIを搭載したデジタル「エージェント」(基本的にはAIアシスタント)にユーザーを接続するとしており、レストラン、航空会社、クリーニングサービスのAIエージェントと連動することで、ユーザーはレストランを予約したり、旅行を計画したり、ハウスクリーニングを予約したりすることをサポートしてもらえるかもしれない。

あまり知られていないFetchが、デジタルアシスタントの分野を支配するグーグル、マイクロソフト、アマゾン、アップルにどのように対抗するつもりなのかは不明だ(グーグルとマイクロソフトはAI分野も支配している)。

さらにはっきりしないのは、FETが同社の資金調達と、おそらく価格が上昇したときにリターンを得ること以外に、ビジネスにおいてどのような役割を果たすかだ。

Fetchは、FETは「ユーティリティトークンであり、Fetch.aiネットワーク上の主要な交換手段だ」と述べ、「FETはFetchエコシステム内のサービスとネットワーク取引手数料の支払いに使用できる」と説明している。なぜ米ドルやビットコイン、ステーブルコインではダメなのだろうか?

また、Fetchが昨年3月29日にDWF Labsから4000万ドルの「投資」を受けたと発表したことも検討に値する。それから3週間も経たないうちに、CoinDeskは「Crypto Market Maker DWF Labs’ More Than $200M in Deals Blur What ‘Investing’ Means(暗号資産マーケットメーカーDWF Labsの2億ドルを超える取引は『投資』の意味を曖昧にする)」という記事を掲載した。

この記事では、DWFの投資は、DWFがトークンの価格を操作して自社と発行者の利益を得るという危険と約束をはらんだ店頭取引に過ぎないのではないかと疑問を呈している。

ワールドコインをめぐる懸念

ワールドコインのビジネスモデルも同様にわかりにくい。ワールドコインは「国や経歴に関係なく、グローバル経済への普遍的なアクセスを提供し、AI時代にすべての人が利益を得られる場所を確立することを目指す」と述べている。

この高尚な目標をどのように達成しようとしているのか? もちろん、ディストピア的な球体デバイスですべての人の虹彩をスキャンすることによってだ。その目的は、人々がオンラインで自分の身元を確認できるようにすることとされている(例えば、オンライン投票やデジタルシステムを通じて特定の政府給付金を請求する場合など)。

しかし、同社は明らかなプライバシー上の懸念をめぐって規制上の大きな逆風に直面しており、直近では、インド、フランス、ブラジルから撤退することとなった。

投資家たちは、ワールドコインが、その共同創業者が誕生に貢献したAI時代において、私たちの「デジタル人格」を守る会社になると本当に信じているのだろうか? そして、Fetchと同様、なぜトークンが必要なのだろうか?

複数のコメンテーターは、ワールドコインが暗号資産でおなじみの、取引初期に後援者たちが価格を吊り上げ、インサイダーや洗練されたトレーダーがすぐに退場、その後、価格が下落し、他のほとんどの人が損失を被るという「パンプ・アンド・ダンプ」のパターンになる可能性があると指摘している。

7月の取引開始数日で、WLDは1.91ドルから2.72ドルに急騰。その後、9月には1.01ドルまで下落した。当記事執筆時点では、史上最高値の7.64ドルを記録している。

FETも史上最高値を更新した。11月の約1.06ドルから、現在は1.77ドルとなっている。

責任は買い手に

私はトレーダーではないが、この価格が持続可能かどうかについては疑問がある。ただし、価格の上昇と下落は必ずしもパンプ・アンド・ダンプのサインではない。

とはいえ、投資家は創業者サム・アルトマン(Sam Altman)氏自身の言葉を考慮した方がいいだろう。同氏はワールドコインについて語ったときに「どんな新しいシステムでも、初期には何らかの詐欺に直面するだろう」と述べている。ワールドコインの場合も他の暗号資産AIプロジェクトと同様、買い手がリスクを負うことになる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:AI+Crypto: Trouble