伝統的金融とトークナイゼーション:キーパーソンが語った、異なる世界観を超えるための戦略【FIN/SUM 2024】

FIN/SUM 2024が3月8日まで、東京・丸の内で開催されている。6日には「伝統的金融×トークナイゼーションの可能性:イノベーションとコンプライアンスの両立を目指して」と題したセッションが開催された。

Progmat(プログマ)代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)代表取締役社長の朏 仁雄氏、ディーカレットDCP代表取締役社長の村林聡氏、米Circle(サークル)のStrategy and Policy担当バイスプレジデント、ヤム・キ・チャン氏が登壇し、トークナイゼーションを巡る課題やその解決方法を話し合った。

実証実験から先に進むのか?

モデレーターを務めた金融庁総合政策局局長の油布志行氏は、トークナイゼーション関連の取り組みの多くが「まだまだ実証実験(PoC)の段階でとどまっている」という見方を紹介し、問題提起した。また、AML/CFTや利用者保護といったコンプライアンス対応との向き合い方も尋ねた。

デジタル通貨DCJPYを軸にした取引ネットワーク「DCJPYネットワーク」を運営するディーカレットDCPの村林氏は「(検討中のユースケースが)実証実験で止まってしまうケースは多い」として、業務効率化やビジネスの創出効果が見えているケースですら、スムーズに進呈しないことがあると述べた。

その理由については、「ある程度のデジタル化と素晴らしい日本人のアナログ処理能力で動いている、現在の仕組みがよくできているため、それがそのまま使えるから、さらに(効率が)良くなったとしても二の足を踏むケースが多いのではないか」と分析した。

ステーブルコインUSDCを発行するサークルのチャン氏は、USDCについて290億ドルを超える規模で流通しており「もはや実証実験のフェーズにはない」と強調。ただ、Web3の現在位置については「まだ(インターネットでいう)ダイヤルアップ接続の時代のような状況」で、今後急速に発展していくだろうという見方を示した。

また、「規制の明確化という意味では、日本はアジアやグローバルをリードし、あるべきステーブルコインの形を見極めながら、海外発行ステーブルコインの導入も進めている」と見解を述べ、「テクノロジーは日々進化している。つい数年前ブロックチェーンは遅すぎると言われていた時期もあったが、イーサリアムやソラナなどの新しいコインが数々登場しスループットは改善を続けている。資産管理するウォレットもどんどん使いやすくなり、Web2アプリと変わらない負担でインストール可能だ。同時進行系で数多くの変化が起きていて、日本もそれを先導することができるかもしれない」と期待した。

セキュリティ・トークン(ST)やステーブルコインを扱う金融インフラ「Progmat」を手がける齊藤氏は「ブロックチェーンの分野に限らず、既存の仕組みがあるところは、現状維持のバイアスがどうしても働く」と指摘。「日本が先行しているセキュリティ・トークン分野も実証実験段階を超えて商用化段階に入っていると思うが、セキュリティ・トークンをはじめ、うまく行っている事例はホワイトスペース(空白地帯)を攻めることができたケースだ」と話した。

また、日本のステーブルコインの現状については「法律が施行されたばかりなので『もう少しお待ちください』という状態なだけ」と述べ、導入後の利用場面は、コンビニ決済のようにすでに既存ネットワークが張り巡らされているところではなく、「新興国貿易などの、ホワイトスペースがある場面だろう」という見方を示した。

また、トークナイゼーションについては「暗号資産のように国籍関係なく、みんながアクセスできて、みんなが使える」仕組みを、金融プロダクトでも実現するために一番早く実現できるものと指摘。実現のための課題としては、伝統的な金融機関の世界観とパブリックブロックチェーンの世界観の間にある飛躍を段階的に超えていく必要があるとし、「どのように段階を刻むかの戦略」が重要だと話していた。

セキュリティ・トークンの流通市場「START」を運営するODXの朏氏は「誰でも参加でき、AML/CFTなどの問題もクリアできる市場をどう作るべきかについて、これだという答えはまだない」と指摘。「暗号資産やDeFi(分散型金融)のようにできあがってから規制が入る世界と、セキュリティ・トークンのように法律ができてから実装される世界とでは見方が全く違う。どう融合させるかを悩んでいる」と語った。

デジタル証券取引市場の発展については「ステーブルコインを使えば、リアルタイムな証券決済も理論的には可能だ。しかし、証券の発行プラットフォームがバラバラで、ステーブルコインのプラットフォームもバラバラなので、どうコミュニケーションを取るかについては、一つ一つ議論していく必要がある」と話していた。

|文・写真:渡辺一樹