「一人で1億円近い投資も」浅草や京都のマンション・ホテルをデジタル証券化、オルタナが提案する個人投資家の新たな選択肢

都心の大型不動産や物流施設といったインフラなど、安定的な賃料収入を生み出す実物資産に、スマートフォンで投資できる個人向けの資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ)」。三井物産デジタル・アセットマネジメントが2023年5月にローンチ、1号案件「三井物産のデジタル証券〜日本橋・人形町〜(譲渡制限付)」に始まり、これまでに京都・三条や東京・浅草のホテルなど6件を取り扱い、わずか1年弱で2万口座弱に達するなど着実に支持を広げている。

(1号案件「三井物産のデジタル証券〜日本橋・人形町〜(譲渡制限付)」は、2022年4月に竣工した65部屋からなる一棟レジデンス物件/ALTERNA)

不動産などの実物資産をブロックチェーンに乗せたセキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)は、2020年に施行された改正金商法で定義され、事業化できるようになった。STは既に、不動産クラウドファンディングの発行額をしのぐほどに成長し、昨年12月には国内初のST流通市場として大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の私設取引システム「START(スタート)」も稼働しており、今後にも大きな期待が寄せられている。

STの裏付けとなる不動産をはじめとした資産は、RWA(リアルワールドアセット)と呼ばれ、そのトークン化は世界でも成長が著しい分野だ。2030年までには、世界のGDPの10%にあたる16兆ドルに成長する可能性があると指摘されている。

ローンチして1年未満、短期間で熱い支持を得られた理由

もうすぐ2年目に入るALTERNAの語源である「alternative(オルタナティブ)」は「代替の」という意味を持ち、投資の世界では株や債券ではないコモディティなどの資産を指す。ALTERNAにはさらに、「資産分散のサードプレイスを目指す」「(投資家にとっての選択肢が)リスクを取ってお金を増やすか、安全だけどあまり増えないかの2つではないはず」という思いも込められている。

三井物産デジタル・アセットマネジメント代表取締役社長の上野貴司氏はALTERNAで、「その2つの間にある『本当に欲しいもの・投資したいもの』を提供する場をつくること」を目指すという。

初年度に掲げたALTERNAの目標は100億円。一部、周囲から言外に無理だと指摘されたというが、1号案件から毎回すべて投資する熱心な顧客もいるほか、複数の案件を購入している人も一定の割合で存在するなど、「とても熱い支持」があるといい、目標は無事達成している。顧客は投資経験のある会社員の男性が多いが、年収・金融資産の水準はバラバラで、年代も30代から60代と幅広い。

平均の投資額も想定より高い。一口10万円から投資できることから、当初20〜30万円ほどと見込んでいたが、結果的には「100万円に近い」水準に達している。一人当たりの最高投資額についても、「限りなく1億円に近い額」で、数千万単位のオーダーも少なくないそうだ。

支持を得ている要因の一つは、実物資産の裏付けがあるという商品特性が考えられる。不動産投資がミドルリスク・ミドルリターンといわれるのは、不動産自体の価値が安定的で、価格が大きく乱高下することが少ないからだ。金融商品への投資は、今や株式投資でも株券が電子化されており、投資した実感を覚えることはあまりない。不動産や金(ゴールド)などの人気が根強いのは、“実物”(現物)があることが大きい。

ただ不動産投資というと、一般にはREIT(不動産投資信託)のほうが身近だろう。この点について上野氏は、「優劣があるというより個人が何を重視するかで投資先が変わるということ。REITは上場していて流動性があり、大きなポートフォリオ投資ができる、分散が非常に効いた、いい商品だと思う」と話す。

だがその一方で、REITには「流動性が“ありすぎる”と考える人もいる」と付け加える。たとえば現在のように金利上昇が叫ばれている局面では、不動産の価値が変わらずとも、金利が上がるというニュースだけで価格が何割か下がることがある。

また、REITなどの“パッケージ化された”商品には、何が入っているか分かりづらい、感じづらいところも投資家としては気になるところで、「ピンボケして見える」(上野氏)ともいえる。

その点、ALTERNAが取り扱う不動産は、日本橋や横浜の高級レジデンス、浅草や京都・三条のホテル、熱海の温泉宿など著名な観光地、歴史あるエリアにある、二つとない物件ばかり。何に投資しているのかがハッキリと見えるし、そのいずれもこだわりを持って選ばれている。

その魅力ある物件が建っている“土地・エリア”に対しても、投資家たちは思い入れを持っているようだ。いくつかの物件の周辺エリアで行ったポスティングでも予想以上の反響があったといい、中には自身が住んでいるマンションに投資したという顧客も。上野氏が「日本橋を応援したい、浅草なら買いたいという方は少なくない。京都の物件に投資するために口座を開設したという方もいらっしゃった」と話すように、購入した投資家たちに、そうした“地域愛”“その土地に対する思い入れ”があることは疑う余地がなさそうだ。

たとえば、最近まで募集されていた浅草の物件は、2020年に竣工したホテル「ホテルタビノス浅草」。日本文化を代表する「MANGA」(マンガ)をモチーフとしたクールなデザインで、雷門などの観光スポットにも近く、外国人観光客からも国内旅行者からも人気なことがうかがえる。

(ホテル「ホテルタビノス浅草」の運営は、ホテル椿山荘東京やワシントンホテルなどを手掛ける、東証プライム上場の藤田観光)
(マンガをモチーフとしたユニークな空間デザイン/ALTERNA)

「浅草のホテルは鑑定評価額80億円の物件ですが、その広告を見た後で物件を実際に見に行って、『この80億円の物件に10万円から投資できるのか』と想像していただければ、(投資してオーナーになることを)特別に感じてもらえるのではないでしょうか」

上野氏がこう語るように、ALTERNAは、投資家にオーナーシップを感じてもらうことを大切にしている。たとえば、ホテルの案件では割引券をプレゼントしたり、チェックインの際にオーナーならではの体験ができたりしているのも、その表れだ。

また、投資家に伝える物件の運用レポートも工夫している。一般に、金融商品のレポートは難しい分析と味気ないグラフが掲載された、「読んでもらおう」という意欲の感じられない、無味無臭のものが多い。

ALTERNAでは、物件のテナント入居や収支の状況を、決算期を待たずに月末にメールで報告しているが、状況を図で分かりやすく伝えるようにしている。同社は、物件の運用のレポートに限らず、サイトのUI、説明ページ、広告やキャンペーンのバナーなど、あらゆるデザインワークにも力を入れている。そうしたこだわりも世界観の統一と共有に役立っていると見られる。

(運用レポートのサンプル/ALTERNA)

「大事にしているのは“手触り感“。現状、発信はメールベースで、あまりお送りしても煩雑に思われてしまうので月1回ほどにしているが、今後はサイトで状況を随時更新し、投資家がサイトに来たら状況が分かる形にして、より”自分のものである“という感覚を持ってもらえるようにしたい」

株式投資への関心が高まっている現状はどう影響しているのか

2024年は新NISAが始まり、日経平均が4万円台に突入するなど、株式投資への関心が高まっている。こうした地合いがデジタル証券のマーケットにどう影響しているか問うと、上野氏は、フォローとアゲンストの両方が吹いていると答える。

「相場が高値に近づいてきていると感じている投資家からは、資産を退避させる際の受け皿として見られているし、不動産マーケットが比較的好調なので、その波に乗ろうという方もいる。逆に、『株のほうが儲かるのではないか』『金利が上がるので不動産は今後ネガティブでは』と考える方もいる。両方の風が吹いて凪の状態にあるとも言える」

ただ、今後はよりフォローの風が吹くことも予想している。「直近のご相談の中には、『株も頭打ちだと思う』というものがあり、ある程度固定の、手堅くキャッシュフローが得られる商品に対する期待の声も寄せられている」という。

「日経平均が今4万円でも、翌月には3万5000円になるかもしれない。そういう“変わること”に対する怖さがクローズアップされる局面は必ずやってくる」と上野氏が話すように、上げ相場がずっと続くわけではなく、今後は調整、下落の局面もいつかは訪れる。そう考えれば、ALTERNAのような商品が「刺さる局面がくる」(上野氏)のは時間の問題かもしれない。

2年目の目標は初年度の3倍、不動産以外の物件の証券化

もうすぐ迎える2年目の予定や計画を問うと、「目標は初年度の3倍の300億円の規模感にすることと、毎月商品を出していくこと。さらには今までは売るだけ(買ってもらうだけ)だったが、今後は既に保有している物件を売りたいというニーズも出てくるはずなので、セカンダリも視野にいれた事業展開をしたい」という。

不動産以外の案件も出したいというが、それはどんな物件になるのだろうか。

「リース会社が保有している、何かしら利用料などを生むものなので、船舶や航空機などが考えられるが、話題性を狙いたいとは思っている。あとは海外の案件も狙いたいが、こちらは商品性が大きく変わるところもあるので、もう少し時間がかかるだろう」

事業は順調に成長しているが、今後の課題は何だろうか。これについては「業界として認知度を高めること」だという。セキュリティ・トークン、デジタル証券が知られるようになってきたとはいえ、まだまだニッチで、NISAに比べれば圧倒的に認知度がない。

そこで進めているのが、他社とのアライアンスだ。最近も、東京スター銀行との業務提携を発表している。発表によれば、同行ウェブサイトでALTERNAの情報提供を行い、顧客の資産形成を支援するという(同行のセキュリティ・トークンの取り扱いは、地域金融機関としては初めて)。

「多くのお客さんを持っていらっしゃる企業とアライアンスを結び、面を広げていきたい」という上野氏。デジタル証券分野の成長にともなって競合他社の参入も増えそうだが、意に介さないどころか、歓迎したいと話す。

「特に今年は、結構な数の運用会社の参入がありそうですが、そうなると商品もバラエティ豊かになり、投資家の選択肢が増えることになるので、参入は歓迎したい。まだライバルとかいう段階ではなく、一緒に盛り上げていって欲しい」

これまでのところ、顧客の多くが男性だというが、組成する商品によっては女性顧客の拡大の可能性があることも実感している。

たとえば今年1月末に発表した「そだつ貯蓄」は、それまで同社が提供してきた“エクイティ性”の商品と比べて、投資期間が短く、より元本保全性が高いという特徴がある“デット性の”商品だが、従来の商品よりリスクを抑えたこの新商品の購入者の割合を見ると、あきらかに「女性の比率が上がった」という。

この「そだつ貯蓄」は、大手銀行の担保付融資に相乗りできるという新商品シリーズ。1号案件は同社が組成・運用するデジタル証券ファンドの投資先である草津温泉旅館「湯宿 季の庭・お宿 木の葉」を対象とした、三井住友信託銀行の融資を商品化している。

(ALTERNA)

不動産ファンド(不動産を保有する借主)への銀行からのシニアローン(返済順位が最も高いローン)について、銀行に保証を提供することで得られる保証料を主な配当原資としており、期待できる利益は株式などと比べれば少ないものの、その分安全で、預貯金よりは高いリターンが期待できる。

「日本の個人金融資産約2,100兆円のうち半分以上を現預金が占めることからも、リスクを回避したい、安全性の高いものが欲しいという方は少なくありません。預金に比べて相対的に金利が高い『そだつ貯蓄』シリーズなら、手軽に始められる預金代替商品としての機能を果たせる。(こうした新商品の提供や、ALTERNAの拡大・充実を進め)個人投資家の選択の幅を広げていきたい」

|インタビュー・文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|トップ写真:三井物産デジタル・アセットマネジメント代表取締役社長の上野貴司氏(多田圭佑)