Wasabi WalletとPhoenixが米国から撤退──「ノンカストディアル」の未来は?

2つのビットコイン(BTC)ウォレットが米国市場から撤退する。おそらく、ノンカストディアル・ウォレット「Samourai Wallet」に対する最近の規制措置と、米証券取引委員会(SEC)が最も人気のイーサリアム・ウォレットである「メタマスク(MetaMask)」を調査しているというニュースへの反応だろう。

撤退宣言

パリを拠点とするビットコイン企業Acinqは4月26日、規制の不確実性を理由に、同社の人気ライトニングネットワーク・ウォレット「フェニックス(Phoenix)」を米国のアプリストアから引き上げると発表した。

ユーザーは、2023年5月3日にアクセスが終了する前にチャンネルを閉じ、資金を移動することが推奨されている。

一方、zkSNACKsはその翌日、「米当局による最近の発表を踏まえ、zkSNACKsは現在、米国ユーザーのサービス利用を厳しく禁止しています」と述べ、プライバシー保護機能を持つWasabi Walletへの米国でのアクセスを停止すると発表した。

この指摘はAcinqの声明にも同様に見られ、「米当局の最近の発表は、セルフ・カストディウォレット・プロバイダー、ライトニング・サービスプロバイダー、あるいはライトニング・ノードさえもがマネーサービス事業者と見なされ、そのように規制されるかもしれないと疑問を投げかけている」と述べている。

Acinqがどの発表に反応したのか正確には不明だが「Samourai Wallet」に対して取られた法的措置と、最近明らかになった、メタマスクに対する措置を計画していることを知らせる「ウェルズ通知(Wells notice)」は、ノンカストディアル・ウォレットが米規制当局の管轄下に入る可能性があることを示している。

さらに、トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)の共同創設者であるローマン・ストーム(Roman Storm)氏に対する訴えの棄却を求める申し立てに回答した4月26日の米司法省の法廷文書によると、分散型のノンカストディアル・サービスであっても、合衆国法典第1960条に基づき、KYC/AML(顧客確認/アンチマネーロンダリング措置)を実施し、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)に登録する必要がある可能性が高い。

「これは、MSB(マネーサービス事業者)法を拡張し、自分自身でノードを実行するユーザー以外の暗号資産(仮想通貨)分野を事実上すべて包含することになる。送金のために管理が必要ないのであれば、ビットコインを使いやすくするものはすべて、この広すぎる定義に入る可能性がある」と暗号資産支持者のSeth For Privacy氏はXに書いている。

不確実性の高まり

暗号資産コミュニティの多くの観測筋は、フェニックスを米国から撤退させるという決定は遺憾だが、法的な不確実性を考慮すればおおむね理解できると指摘している。それに対し、ハードウェア・ウォレットを開発するフィンテック企業ブロック(Block)の創業者ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏は、Acinqの動きは 「完全に不必要なものだ 」と嘆いた。

「同感だ。こうあるべきではない」と、ライトニング・ラボ(Lightning Labs )CEOのエリザベス・スターク(Elizabeth Stark)氏もドーシー氏に同意した。

このニュースは、Samourai WalletのCEOであるキオンヌ・ロドリゲス(Keonne Rodriguez)氏と最高技術責任者(CTO)のウィリアム・ヒル(William Hill)氏が、無認可の送金ビジネスを運営していたとして逮捕されたという、暗号資産企業に対する直近の告発に続いてもたらされた。司法省は、Samouraiが2015年以降、20億ドル(約3140億円、1ドル157円換算)以上の違法な取引を処理し、450万ドル以上の手数料を得ていたと主張している。

法律の専門家は、ユーザーの代わりに資産を保有しないノンカストディアル・プラットフォームを追及する根拠に異議を唱えているが、世界中の当局は長年にわたり、これらのソフトウェアシステムを何らかの規制監督下に置こうとしてきた。

例えばEUは、新しいマネーロンダリング防止法の一環として、セルフホスト型暗号資産ウォレットからの暗号資産取引に1000ユーロ(約16万8000円、1ユーロ168円換算)の制限を設けることを検討している。米国当局も「ノンホスト型ウォレット」を実質的に禁止する法案の提出を検討している。このような法案は、2022年に一度食い止められている。

しかし、新たな法的措置や当局の声明によって不確実性が高まり、ウォレット開発をはじめとする多くの中核的な暗号資産に関する取り組みが、ライトニング・ノードのホスティングさえも含めて、送金法の対象になる可能性があるという見通しが浮上した。

暗号資産業界の他の多くの問題と同様に、このような懸念は裁判所の判断に委ねられる可能性が高く、これがコンセンシス(Consensys)がSECを提訴することを決めた理由のひとつでもある。

アメリカに留まる

フェニックスとWasabiに続いて米国を離れるウォレットが出てくるかどうかはわからない。少なくともウォレット会社ゼウス(Zeus)は米国に留まると宣言している。「我々はどこにも行かない」とゼウスはXで述べた。

「ゼウスは今、法律に従っていると信じている。法律が変わったり、何らかの判断が下されれば、それに従って調整する」とゼウスの創業者エヴァン・カルーディス(Evan Kaloudis)氏は語り、次のように続けた。

「ゼウスが倒れれば、それに続いて他のすべてのライトニング・ノード・プロバイダーが倒れる。ライトニング・ノード・プロバイダーが倒れれば、次はセルフカストディだ。これは絶対に譲れない戦いだ。もし同意できないのであれば、あなたは正しい理由でビットコインに参加したわけではないだろう。だから、我々を支持するか、家に帰るかだ。未来の世代は我々を見ており、我々を頼りにしている」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Autumn_ schroe/Unsplash
|原文:As Wasabi Wallet and Phoenix Leave the U.S., What’s Next for Non-Custodial Crypto?