なぜ企業のブロックチェーンの取り組みは「実証実験止まり」で「実運用」に進まないのか──KPMG東海林氏

なぜ企業のブロックチェーンの取り組みは「実証実験止まり」で「実運用」に進まないのか──KPMG東海林氏

Brady Dale
公開日:2019年 10月 2日 17:28
更新日:2019年 10月 3日 12:26

「今までのシステムをブロックチェーンで置き換えようとしても、だいたいうまく行かない」——。KPMGコンサルティングの東海林正賢(しょうじ まさより)氏は10月2日、都内で始まったブロックチェーン・カンファレンス「b.tokyo」に登壇し、こう指摘した。ブロックチェーン技術については、国内でも多くの企業が実証実験、概念実証には取り組むものの本格稼働、実運用フェーズに進まない。こうした現状を踏まえて、その解決策を提案した。

ブロックチェーンを全体のシステムの一部に位置付けること

「ブロックチェーン実用化に向けての課題」と題して講演した東海林氏は、「ブロックチェーンを全体のシステムの中でどう使うかが重要」「大事なことは何に対して適用するかと考えることだ」と指摘。

ブロックチェーン活用に適したケース・ニーズとして、5つの要素を挙げたうえで、そのうち4つ以上満たしている場合にユースケースが有効となると述べた。その5つの要素(下図参照)とは、「システムの信頼性を上げなおかつ、そのコストを減らしたい」「無駄を省き当該者のみの取引でスピードアップしたい」「永続的な記録がビジネスに有効である」「データの一元化が重要である」「多数のステークホルダーが存在する」だ。

さらに東海林氏は、ブロックチェーンの活用が進みつつある事例として3つ挙げた。

まず製造業について言及、ここでは「デジタルスレッド」の重要性を示唆した。デジタルスレッドとは、データやプロセスのデジタル化により、ネットワークを通じ情報の流れを一貫させる仕組み。製造業においては、設計から開発、製造、出荷、納入・稼働、保守までの過程で、部品単位のトレーサビリティーが実現し、データを使ってさまざまな処理が自動化できると期待されるという。

東海林氏は「国外も含めてさまざまな会社を経由して、どこでどのように作られているかを知りたい場合に、すべての会社をAPIでつないでデータを参照することは現実的ではない」と指摘し、ブロックチェーンを用いれば、共通のブロックチェーンの中にデータがたまっていくので、それを参照すればいいと述べた。

次に挙げたのが「ブロックチェーンとスマートコントラクトを用いた自動の支払い」について。

自動車に乗ったまま店舗で買い物できるドライブスルーと高速道路のETCとを比較し、「高速道路を利用する際は(現金ではなく)ETCでお金を払っているのに、なぜ(同じように車に乗ったまま利用する)ドライブスルーでは現金で支払いをするのか」と疑問を提示した。そのうえで、スマートコントラクトを介して支払いを自動化したほうが効率化につながると提案した。

最後に挙げたのが、シンガポール・エアラインのマイレージを仮想通貨に換えるプロジェクトだ。KPMGとマイクロソフトが取り組むロイヤリティ・プラットフォームを紹介した。

マイレージを仮想通貨で実現するシンガポール・エアラインのプロジェクト「クリスペイ」について、東海林氏は既に実運用していると紹介し、「シンガポール国内だけではインパクトがないが、東南アジア全域で使えるようになると大きな影響があるだろう」と指摘した。メリットの例として、為替の変動手数料がなくなることを挙げた。

さらにシンガポール・エアラインが、消費者の行動を把握できるようにもなるとし、キャンペーンの打ち方などマーケティングの仕方も変わると予測。この取り組みを「情報を取るために、マイレージから仮想通貨に変える事例だ」とまとめた。

実証実験から実運用に進まない要因とは

さらに、日本国内での取り組みの遅れを指摘。実証実験をしても実運用に移るらない企業が多いとして、「とりあえず実証実験をするだけでは意味がない」などと述べた。

そのうえで、ブロックチェーンの実用化する際の課題として、次の8つを例として挙げた(下図参照)。

「PoCからの教訓を実装に活かすこと」「既存システムとのインターフェース」「プラットフォームの互換性」「複雑なテスト環境の確保」「(運用体制によっては)システムメンテナンスを他の会社と共同でやる必要がある」「“忘れられる権利”をどうするかというガバナンスの問題」「秘密鍵の管理」「紙の証明からブロックチェーン証明に移行する承認を得るのに時間がかかる」

これらは少なくとも実証実験前に検討し、「なぜ実証実験をするのか」という目的を定めることが大事で、3〜5年のロードマップを作って実行することが必要になるとも強調した。

b. tokyoは3日まで開催

N.Avenueが主催する「b.tokyo」は、暗号資産・ブロックチェーンをテーマにした2000人強(のべ登録者数)のカンファレンス。同領域をリードする大手企業やスタートアップ、規制当局が集まり、10月2・3日にかけて業界を網羅した議論やネットワーキングが行われる。

3日はLINEグループのLVC、高 永受CEOが登壇する「『LINE Blockchain』が目指す世界」、セキュリタイズのカルロス・ドミンゴCEOが話す「STOのリアリティ― 証券型トークンはビジネスをどう変えるか?」、オントロジーのアンディ・ジ共同創業者の講演「オントロジーは『分散型ビジネス』を加速する──新世代プロトコルのすべて」などが行われる。

文・写真:小西雄志
編集:濱田 優