創業100年、ヤマトが物流DXを加速──「クロネコファンド」を仕かけた元・米投資銀行幹部の狙い

創業100年、物流のデジタル化を急ピッチに進めるヤマトホールディングス(HD)が、大手ベンチャーキャピタルのグローバルブレイン(GB)と手を組み、コーポレート・ベンチャーキャピタルを立ち上げた。

スタートアップへの投資を加速させながら、宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)と、産業のeコマース化に対応する物流プラットフォームの開発を、ヤマト一丸となって進めていく。

ヤマトHDとGBは4月1日、「KURONEKO Innovation Fund (クロネコイノベーションファンド)」を設立。ファンドの規模は50億円で、運用期間は10年。AI(人工知能)やロボティクス、フィンテック、ブロックチェーン、IoT(モノのインターネット)などの広い領域で、有望なベンチャー企業の開拓と投資を行う。

元・メリルリンチ常務MDが挑む物流の大変革

年間1兆6000億円を超える営業収益を計上するヤマトHD。グループ全体で、約23万人が働き、日本の物流を支える。そして、ヤマトのDXを進める中心的な人物が、専務執行役員の牧浦真司氏。

今回のCVCの立ち上げもリードしてきた。米メリルリンチに約20年間勤務し、ITや運輸・物流業界を担当する常務マネージングディレクター(MD)を務めた。ヤマトには2015年7月に入社。

ヤマトHDは今年1月、経営改革を行うための新たなグランドデザインを発表した。宅急便のデジタル化では、AIの活用とデータ分析を徹底し、予測に基づく人と車の配置や、配送ルートの改善を行い、輸送・配送のプロセスを最適化させる。また、あらゆる商取引のeコマース化に対応できるデジタルプラットフォームを作り、受発注から配送、在庫の管理、決済、返品までの一括管理を可能にさせる。

「物流はこれから大きく変わる。テクノロジーと、リアルな人の力、そして経営力が大変革を促すエンジンになる。以前からファンドを作るべきと考えていたが、CVCはこの大変革を進めるための手段の一つ」と牧浦氏は、CoinDesk Japanの取材で語った。

牧浦氏が本格的にCVCの設立に向けたGBとの協議を始めたのは、2019年初夏。

「リターンは求め、短期追及はしない」

クロネコイノベーションファンドは今後、組成したばかりの1号ファンドにとどまらず、投資規模の拡大を検討していく。

牧浦氏は「ファンドであるがゆえ、投資に対するリターンはしっかりと追及していく」とした上で、「投資する企業とヤマトHDとの協業やシナジーを、短期で求めていくことはしない。3年、5年という時間の中で、スタートアップの成長を促した後、(ヤマトHDとの)協業を探っていく流れになるだろう」と話す。

一方、次世代の物流のかたちを作る上で、リアルとネットの融合が重要なカギを握ると、グローバル・ブレインの深山和彦氏は言う。

「グローバル・ブレインは日本に限らず、イスラエルや米国、東南アジアなどにおいてもスタートアップへの投資を広げてきた。ヤマトHDが進める大きな取り組みを後押しできればと考えている」と深山氏。

クロネコイノベーションファンドの1号ファンドは、50億円の資金の半分以上を日本国内のスタートアップに投下する方針だ。世界経済の状況を見ながら、技術力やビジネスモデルに優れた国外企業も開拓していく。

2020年は準備の年、2021年は変化の年

今年3月、ヤマトHDは、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(ZHD)と業務提携で基本合意した。ヤフーが運営するPayPayモールとYahoo!ショッピングの出店ストアを対象に、受注から出荷までを代行する物流サービスを6月末から始める。eコマース事業の拡大を進めるZHDと、ヤマトHDが手を組み、2社のデジタル基盤と輸配送ネットワークを融合させていく。

来年4月、ヤマトHDはグループ会社8社を吸収合併・吸収分割し、リテール、地域法人、グローバル法人、ECの 4つの事業本部からなる事業会社に移行する。2020年を準備の1年とすれば、2021年はヤマトHDがその形を大きく変える年になると、牧浦氏は言う。

「デジタルトランスフォーメーションを進めるには、経営の仕組みが変わらないといけない。ヤマトが変われば、日本の物流は変わる。そう思っている」

デジタル化するクロネコは、次世代の物流をどう形作っていくのか。これから注目を集めそうだ。

インタビュー・文:佐藤茂
写真:Shutterstock