【アフター・コロナ】現金社会で広がる「非接触」生活──支払いはどう変わる

【アフター・コロナ】現金社会で広がる「非接触」生活──支払いはどう変わる

米コロラド銀行協会によれば、1枚の紙幣には3千もの細菌が存在し得る。そして、千回以上も人の手から人の手に受け渡されているという。紙幣に付着したコロナウィルスが感染源になるか科学的な結論は出ていないが、中国では当局が紙幣を消毒するという措置まで講じた。

コロナ禍の時代に、現金に基づいた社会は持続可能なのだろうか。COVID-19は、支払いの在り方を根本から変えるきっかけとなるかもしれない。

この破壊的な存在のウイルスは、物理的な通貨の利用について消費者や企業の考え方を変え得るが、既に現金は、多くの国において脇役となっている。中央銀行が積極的にデジタル通貨を検討するスウェーデンはその一例だ。

スウェーデンほど劇的でないにしても、現金は徐々に、アメリカ人の生活からも姿を消している。ボストン連邦準備銀行による『Diary of Consumer Payment Choice』最新版によれば、2018年になされた取引において現金という手段は約26%であり、その割合は前年から4%落ちている。

今回の危機で、我々の支払い方法に更に大きな変化が起こるかもしれない。目下、コロナウイルスに怯えるあまり、いかなる形であれ紙幣に触れるのを控える者も現れている。

「我々が皆、社会的隔離を余儀なくされたら、現金はあまり役に立たない」と、コンサルト・ハイパーイオン(Consult Hyperion)のディレクターで、長年デジタル化を主張してきたデイブ・バーチ(Dave Birch)氏は述べた。「しかし、それでは現金より優れているのは何だろうか、という問題が出てくる」

中国アリペイの電子決済とコロナ対策

現金には成し得ない、支払いと価値の移転に関する堅固なシステムを政府や民間セクターが築く機会であると、バーチ氏は述べた。同氏は中国のアリペイ(AliPay)を例に挙げる。中国大量消費の経済社会において電子決済の大手として君臨し、2019年第3四半期には約55%の市場シェアを誇る。

アリペイはその普及によって、中国のコロナウイルスとの闘いにおいて価値ある武器となっている。内蔵された「アリペイ・ヘルス・コード(Alipay Health Code)」機能は現在、健康状態を表す緑、黄色、赤を、各ユーザーに割り当てている。

ユーザーがコロナウイルスに曝露した可能性を追跡する妙策だとバーチ氏は指摘する。ウイルステストが陰性と考えられる「緑」のユーザーは、公共の場を出歩くことが許され、地下鉄など密集したエリアに「チェックイン」するためにQRコードをスキャンする。

「地下鉄のある車両で誰かが保菌者だと分かっても、地下鉄の乗客全員を検査する必要はなく、その車両に乗っていた人たちだけを検査すれば良い」とバーチ氏は述べた。

今年3月、中国・上海市の地下鉄内(写真:Shutterstock)

政府の監視か、フェイスブックの監視か

しかし、ニューヨーク・タイムズの調査によれば、このプログラムは、ユーザーの位置と身元情報を、すべてのスキャン地点でサーバーに転送する。転送機能の名前は「ReportInfoAndLocationToPolice(情報と位置を警察に報告)」となっている。アリペイ・ヘルス・コードによる追跡は、中国政府に個人情報への大きな裏口を許すことになるかもしれない。

アリペイ・ヘルス・コードは、消費者の選択した電子支払いポータルにハードコーディングされた、驚くほど効果的で、著しく広まった監視装置ということになる。しかし「政府」を「フェイスブック(Facebook)」に置き換えれば、現実味が増すかもしれないとバーチ氏は述べた。

現在、大きく2種類の監視「システム」が存在するとバーチ氏は主張する。

「政府があなたをスパイして、あなたの行いすべてを知っているという中国型システム。そして、企業があなたをスパイして、あなたの行いすべてを知っているというアメリカ型システムだ」とバーチ氏は説明した。

「どちらも、この先、最善の方法とは思えない」

政府と企業は、人々のデータを悪用するのではなく、責任のある、匿名性を優先するシステムを構築しなければならないと、バーチ氏は指摘する。

仮想通貨での支払いが台頭?

COVID-19がお金にもたらす最大の影響は、数カ月後、人々が日常生活を再開しようとし、社会が平時に戻ることが望まれる際になって、出てくるかもしれない。

デジタル資産投資企業、アルカ(Arca)の最高投資責任者、ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏が思い描く意欲的なシナリオは、仮想通貨への突然の殺到である。パンデミック後により多くの者がより多くの現金を仮想通貨に交換し、さらに多くの者が追随するようになると、ドーマン氏は予測する。それは指数関数的増加であり、平らではないカーブを描くとのことだ。

COVID-19は「その加速プロセスにおけるステップの1つに過ぎない」とドーマン氏は述べ、「転換点」がどこかを特定することはほとんど不可能だとした。

「進行中の量的緩和によって生じる、自分が保有する通貨に対する懸念や、物理的な現金に対する恐れなど、あらゆる要素によって、より多くの者がビットコインやテザーに走ることになるかもしれない。遅かれ早かれ、皆が仮想通貨を持っていると分かる頃には、仮想通貨で支払いを始めるようになるのだ」とドーマン氏は述べた。

キャッシュレス社会と「非接触型」

もう少し主流に近い展望は、COVID-19によって政府が、支払いにおけるデジタルな代替手段をより真剣に検討するというものだ。政府はコロナ危機をきっかけに「キャッシュレス社会」に舵を切るかもしれないと、台湾の元国会議員で、現在は政策顧問を務めるジェイソン・スー(Jason Hsu)氏は述べる。

スー氏は、この危機に対峙して、台湾が中央銀行デジタル通貨に関して急進的な姿勢をとるべきと主張している。特に、コロナウイルスに打撃を受ける台湾経済を刺激するための20億ドル(約2150億円)規模の資金を分配する際にだ。

「私は目下、この経済刺激策を実施するために、ブロックチェーンベースの配備方法を構築するよう政府に助言している」とスー氏は語った。

一方、IMFのエイドリアン氏は、ウイルスへの接触を制限するため、確立された「非接触型の現金」という代替手段に目が向いていると語った。

同氏は、非接触型の支払い方法は危機が収束した後もその魅力を失わないだろうと予測する。おそらく、社会的接触、少なくとも6フィート(約1.8m)以内の接触が持てなかった狂気じみた日々の遺産として。

翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Shutterstock
原文:While Some Hoard Dollar Bills, Others Envision Germy Cash’s Quick Demise

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