「Consensus:Distributed」開幕に先立ち「CoinDesk 50」発表──最初の10プロジェクト

11年前、ビットコインはサトシ・ナカモトのホワイトペーパーに登場し、世界を変えた。

ビットコインはイーサリアムにつながり、そこからICO(新規コイン公開)につながり、さらにステーブルコイン、DeFi(分散型金融)、リブラ(Libra)、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、そしてさらに多くのものへとつながっていった。1つのプロトコルから始まったものが、分散化における多くのプロトコルと実験を生み出している。

今、新たな経済危機が広がるなか、暗号資産(仮想通貨)業界とブロックチェーン業界は新たな成熟レベルに達している。デジタル資産と分散型台帳は業界を超えて使われ、経済刺激策としての給付金の支払いに使われるか否か、あるいは新型コロナウイルス後の世界を定義するか否かにかかわらず、足跡を残す準備は整っている。

CoinDeskはこの変化に富んだ領域を7年間にわたって伝えてきた。

「CoinDesk 50」は、最も革新的で、最も重要かつ最も有望なプロジェクトを選出したものだ。これらはともに、新たなインターネット革命を約束している。

ニューヨークで現地時間5月11日に始まるCoinDeskの無料バーチャルイベント「Consensus:Distributed」に向けて、最初の10プロジェクトを発表しよう。

1. バイナンス(Binance)──すべてを見据えて

「ユーザーのために」

これは「CZ」の通称で知られるバイナンスのジャオ・チャンポン(Zhao Changpeng)CEOが、暗号資産データサイトのコインマーケットキャップ(CoinMarketCap)を4億ドルと伝えられた金額で買収した後、CoinDeskのインタビューで語った言葉だ。

2017年に設立されたバイナンスは、日々の取引高で支配的な取引所となり、DEX(分散型取引所)サービス、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)、相対(OTC)取引に次々と進出し、暗号資産業界の巨大組織としての地位を確立している。

同社の攻撃的な市場での動きにも疲れの色はほとんど見られない。CoinDeskの情報筋が4月上旬に述べたように、同社は2019年に9件のM&Aを成立させた後でも、「豊富な資金を持っている」。

2. イーサリアム(Ethereum)──依然として先頭に立つ

時価総額で第2位のブロックチェーンであるイーサリアムは現在、他のどのチェーンよりも多くの開発者が開発、再設定、実験を行っている。

誕生から6年、イーサリアムは2017年のICOブームからDeFi(分散型金融)まで、暗号資産における複数の大きなトレンドを生み出してきた。

類似したチェーンが「世界のコンピューター」の座を奪おうと狙っているが、イーサリアムは依然として支配的な地位に君臨している。最近では、テザーやUSDCなどの米ドルに連動したステーブルコインが急増しており、これらは市場のボラティリティに対するヘッジおよび真の交換手段として使われていることをデータは示している。

イーサリアム2.0へのアップグレードがこの夏から始まることが予定されており、イーサリアムはその機能性とパフォーマンスを向上させ、最終的にはプルーフ・オブ・ステークとシャードチェーンを実現しようとしている。

3. フィデリティ(Fidelity)──ウォール街の重み

顧客資産総額が8兆3000億ドルを超えるフィデリティは、暗号資産市場に機関投資家の重みをもたらしている。

2015年、アビゲイル・ジョンソン(Abigail Johnson)CEOはビットコインマイニング実験に署名した。その4年後、トム・ジェソップ(Tom Jessop)社長が率いる子会社のフィデリティ・デジタル・アセッツ(Fidelity Digital Assets)はカストディアン事業と、ファミリーオフィス、ファイナンシャルアドバイザー、ヘッジファンド向けの暗号資産取引サービスを追加した。

この分野に頻繁に投資するフィデリティは、データ企業コイン・メトリックス(Coin Metrics)や香港に拠点を置く取引所BGグループ(BC Group)に資金提供を行い、社内のフィデリティ・センター・フォー・アプライド・テクノロジー(Fidelity Center for Applied Technology)で分散型技術の研究開発を進めている。

ジョンソンCEOは、暗号資産は「根本的に市場構造を変え、インターネットの構造そのものさえ変えるかもしれない」と予測している。フィデリティの役割はそれを最後まで見届けることだ。

4. リブラ(Libra)──反発を経て、妥協の道を見つけつつある?

フェイスブック(Facebook)は2019年夏にリブラを発表し、デジタル通貨の流れを変えた。

突然、26億人のユーザーを抱える企業がお金の未来に賭け、規制当局からシリコンバレーまで、誰もその話題を無視できなくなった。すぐに中国人民銀行は独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC)構想を大急ぎで進め、米議会は公聴会を開催した。

フェイスブックについて他にどのような意見を持っていたとしても、他のどのような組織よりも暗号資産の宣伝に貢献したことは間違いない。

元々の計画に対する大きな国際的反発を鎮めるために、リブラ協会(Libra Association)は今、独自通貨ではなく、法定通貨に裏付けられた複数のステーブルコインの発行を計画している。

フェイスブックとリブラ協会はその野心を「縮小した」と述べる人たちもいる。しかし、新型コロナウイルス危機後のステーブルコインの需要急増を足がかりとしつつ、妥協点を見つけたと言うこともできる。

5. スクエア・クリプト(Square Crypto)──ドーシー氏のビットコインへの賭け

ツイッター(Twitter)の共同創業者でスクエアのCEOであるジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏は、長年にわたってビットコインに対する称賛を示し、最終的にインターネット唯一の通貨になると述べたこともあった。

ドーシー氏は、1週間に1万ドル、ビットコインに投資していると語り、彼の会社スクエア・クリプトは、BTCペイ(BTCPay)やライトニング・ラボ(Lightning Labs)などのビットコイン開発プロジェクトのためのアクセラレーターとして機能し続けている。

もしスクエアがビットコイン技術をその業務に統合することを決定すれば(現在は別の組織)、事態は本当に興味深いものになる。スクエアのCashAppはすでに事業者が暗号資産で支払いを受け取ることを可能にしている。また最近、本質的に銀行として機能する許可を受け、あらゆる可能性が高まっている。

ドーシー氏は最近、ツイッターでのポジションに対するクーデターを生き延び、ビットコイン技術において持久戦を戦う準備を整えたようだ。


6. コスモス(Cosmos)──反過激主義の夢

コスモスはさまざまなブロックチェーンプロジェクトを結ぶツールを開発している。

2019年4月にスタートした5億9000万ドルのネットワークは、そのプロジェクトの中心に相互運用性を置き、あらゆるプログラミング言語で、すべての合意アルゴリズムを超えて、あるチェーンから別のチェーンにデータを変換できるチェーンを目指している。

「コスモスの前提は、我々は最も過激ではない可能性を持ったプロジェクトであるということ。我々はただ、すべてをつなげたいだけ」と開発元であるAll in Bitsの開発者サニー・アガーワル(Sunny Aggarwal)氏は述べた。

協調がコスモスの目標だが、プロジェクトは内部分裂を繰り返してきた。All in Bitsのディレクター、ザキ・マニアン(Zaki Manian)氏はプロジェクトから離れ、サイドプロジェクトに力を入れているとジェ・クォン(Jae Kwon)CEOを批判し、同社は2つに分裂した。

にもかかわらず、コスモスはそのプルーフ・オブ・ステークネットワークに約100のバリデーター(検証者)の参加を集めており、バイナンスやタイ政府の国家IDプログラムなど、80を超える企業やプロジェクトで利用されている。

7. コインベース(Coinbase)──初心者に人気の取引所

暗号資産業界初のユニコーン企業(評価額10億ドル以上)であるコインベースは、依然としてアメリカに拠点を置く取引所の先頭に立っている。

設立8年目のコインベースは使いやすさを求める初心者に人気の取引所であり、口座数は3500万、約210億ドルの資産を管理し、業界で最大級のカストディアンの1つになっている。

しかし、暗号資産をすべての人にとって安全なものにしようという試みにおけるコインベースの成功は、諸刃の剣であり、業界内で安全性についての議論を巻き起こしている。

同社の事業者サービス部門、コインベース・コマース(Coinbase Commerce)は、小売業者に対するサービスも提供しており、2年間で2億ドルの取引を処理した。

共同創業者兼CEOのブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏は、10年以内に10億人近くの人々が「よりグローバル、より公平、より自由、より効率的」なシステムである暗号資産経済に参加するようになると述べた。そしてコインベースはおそらく人々をそこに連れていくだろう。

8. コンセンシス(ConsenSys)──ときに空回りしつつも革新を推進

ジョー・ルービン氏
ジョー・ルービン氏

ブルックリンに拠点を置くイーサリアム大手のコンセンシスはときに、事業開発における手当たり次第のアプローチを批判されてきた。

2017年の勢いが良かった頃、同社の事業はエネルギー、メディア、音楽、パーソナルID、そして同社の創業者でイーサリアム界の大物ジョー・ルービン(Joe Lubin)氏が期待というよりも希望から行ったと思われるその他の数々の想像力に富んだ取り組みにまで広範囲に広がっていた。

実際には、2016年以降、1億ドルを使い果たしてしまったコンセンシスは、その一貫性を保つために縮小する必要が一度ならずあった。

しかし現在、ハイパーレジャー(Hyperledger)との提携とコディファイ(Codefi)のローンチを経て、エンタープライズ・ブロックチェーン、DeFi(分散型金融)、貿易金融において好調な流れに乗る好位置にいるようだ。

9. IBM──ブロックチェーンの歴史を刻む

コンピューター業界の老舗企業の中で、IBMは言うまでもなく最大の企業だ。「ビッグ・ブルー」と呼ばれる同社は情報産業の歴史の中心的存在であり、最近は分散型台帳と関連する創意あふれたアイデアにその将来を賭けている。

「ブロックチェーンはエンタープライズ・アプリケーションの新しいクラス」とIBMのブロックチェーン・テクノロジー担当バイスプレジデント、ジェリー・クオモ(Jerry Cuomo)氏は述べた。同社はブロックチェーン関連特許を100以上申請している。

IBMは自社のエンタープライズ・ブロックチェーンであるハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)を通して、医療、海運、農業において分散型台帳技術をテストしている。

ヘルス・ユーティリティ・ネットワーク(Health Utility Network)は、患者の医療履歴向けに耐操作性を持つ台帳を生み出すもので、シグナ(Cigna)やアンセム(Anthem)といった保険会社が参加している。

IBMフード・トラスト(IBM Food Trust)は数千の食品サプライチェーンを追跡し、ウォルマート(Walmart)やカルフール(Carrefour)といった小売業者が参加している。

そして100以上の組織に利用されているグローバル海運業界ブロックチェーンのトレードレンズ(TradeLens)では、IBMは海運大手マースク(Maersk)などにアドバイスしている。

10. チェイナリシス(Chainalysis)──犯罪者を見つけ、ニュースを賑わす

2020年、連邦政府の大規模な捜査によって、巨大児童ポルノ組織が解体された際、データ捜索企業チェイナリシスは、小児性愛者たちのウォレットまで直接突き止めた。

マイケル・グロナガー(Michael Gronager)氏が率いる同社が関わったニュースを賑わすような介入はこれだけではなかった。過去5年間で、チェイナリシスはさまざまな米政府機関から1000万ドル以上の業務を請け負い、ブロックチェーン監視業界における競合を大きく引き離し、無数の犯罪者たちの追跡を手助けした。

ビットコイン企業にアンチマネーロンダリング・ソフトウエアを販売する同社はまた、北朝鮮の巨額の暗号資産の捜査にも協力したと伝えられた。

「我々が気づいたことは、これらの機関が防止しなければならない犯罪や違法行為はさまざまで、つまりは弊社の訴求力は広く、役割は拡大したということ」とチェイナリシスの共同創業者ジョナサン・レビン(Jonathan Levin)氏は述べた。


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翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Cavendish Design
原文:The CoinDesk 50