野村が絶品アスパラスープの開発権をデジタルに売る実験を始めた──投資とUXがつながる近未来

野村が絶品アスパラスープの開発権をデジタルに売る実験を始めた──投資とUXがつながる近未来

国内証券最大手の野村ホールディングスはグループ企業と連携して、風変りな社内実験を始めた。北海道産のアスパラガスを使った絶品スープを開発し、そのプロジェクトに参加できる権利を社員限定で販売するというもの。

一口50000円の会員権は7月14日現在、グループ社員49人が購入した。無添加で質の高いアスパラガススープの開発が成功すれば、スープが入った段ボールが会員のもとに届く。デジタル戦略を加速させるために野村が2019年に立ち上げた、「未来共創カンパニー」長の池田肇氏も購入者の一人だ。

この社内実験は社員が絶品スープに舌鼓を打つことが目的ではない。モノより体験(ユーザーエクスペリエンス)を大切にしようと考える個人が、ワクワクするプロジェクトや企業に投資できて、それに対するリターンと新しい価値が得られる次世代の金融商品は作れないか?

多くのグルメやファンが資金を出し、日本各地の野菜や果物をより価値の高い料理に仕立てる。保存ができる加工品であれば、世界のビッグマーケットに売り込むことも夢ではない。地方創生を促す効果も期待できる。

スープ開発の会員権はデジタルトークン

写真:Shutterstock

野村グループの絶品アスパラガススープ・プロジェクトでは、会員は暗号化された会員権(トークン)を保有する。トークンは、野村と野村総合研究所(NRI)が共同設立したブーストリー(BOOSTRY)が開発したブロックチェーンを基盤とするプラットフォームが発行した。

プロジェクトの設計は、野村HDとアライドアーキテクツらが立ち上げたファンベースカンパニーが手掛けた。スープ開発に使用するアスパラガスの生産は、野村の子会社で次世代農業を支援するNAPA(野村アグリプランニング&アドバイザリー)が参画している。NAPAはこれまでに高糖度トマト「フルティカ」の栽培にも取り組んできた。

今回の計画では、3種類の試作品が会員に送られる。オンラインの会合が開かれ、シェフが試作品の説明を行い、会員は試食した感想や意見を共有する。これを踏まえて、2回目の試食では2種類の試作品に絞り込み、最終商品を作り上げていく。

「資産や価値を暗号化したトークンというものが、どれほど投資家や発行体企業によって受け入れられていくのか。トークンを流通させるシステムの構築にどれだけの時間が必要か。これからさらなる開拓の1年、2年が続いていくのだろうと思う」と池田氏は話す。

世界金融大手がブロックチェーンを試す

米銀最大手のJPモルガン・チェースは独自のブロックチェーンを開発する。日本でも、野村に加えてみずほフィナンシャルや三菱UFJフィナンシャルがブロックチェーンの活用を進める。(写真:ニューヨーク・マンハッタンの金融街/Shutterstock)

次世代の金融商品の研究開発には当然、次世代に対応するテクノロジーが必要になる。先進国が金融システムのデジタル化を加速させ、金融インフラが整備されていない発展途上国が国民に金融サービスを届ける方法を模索する中、世界中の大手金融機関はブロックチェーン技術の活用を進めようとしている。

野村はこれまで、デジタル証券やトークンの管理手法などの研究を進めながら、ブロックチェーンを活用するフィンテック企業への投資を拡大してきた。なかでも、金融商品や会員権、サービス利用券などをトークン化して発行し、取引できる独自のプラットフォーム「ibet」を開発した。

池田氏のスマートフォンでも、ibetで発行された自身の50000円のトークン(会員権)が確認できた。また、ibetのアプリを使えば、会員はアスパラスープ・トークンを他の社員に売却することも可能だ。近い将来、同様のコンセプトでトークンが流通市場で取引されることは技術的には可能だ。市場原理からすれば、アスパラスープ・トークンの価格は理論上、そのプロジェクトの将来価値に応じて変動することになる。

1年後のスープの味とトークンの価値

「1年、2年はかかると思うが、魅力的なデジタルアセットを開発することと、デジタル債の価値をどれだけ投資家と発行体企業に訴えられるかが重要になるだろう」(池田氏)

NRIは3月、ibetを使ったデジタル社債の発行を行った。野村証券が投資家を勧誘する引き受け形態で起債され、国内では初の試みとなった。「デジタルアセット債」と呼ばれ、債券には投資家が手にするクーポン(利息)と、買い物に利用できるポイントが付随する「ハイブリッド構造」になっている。

スマートフォンを中心とするライフスタイルが当たり前の世界で、デジタル債やデジタル会員権が普及すれば、個人は好きな時にスマホのアプリを使って取引することができるようになる。デジタル社債に付いてくるポイントは、スーパーアプリの決済ツールを使って買い物に利用できる。

「(NRIのデジタルアセット債は)試験的で小口なものだったが、デジタル債が流通するシステムが広がっていけば、大口の債券を発行することも可能だ。1年、2年はかかると思うが、魅力的なデジタルアセットを開発することと、デジタル債の価値をどれだけ投資家と発行体企業に訴えられるかが重要になるだろう」(池田氏)

計画では来年、アスパラガススープの箱詰めが池田氏の手元に届く。絶品と言えるほどのスープに仕上がっているのか。味わいながら、50000円のトークンの価値を精査することになるだろう。

取材・文:佐藤茂
写真:多田圭佑
(編集部より:ブロックチェーンを活用したデジタル証券の発行基盤についての詳細を5段落目に加え、記事を更新しました)

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