銀行の命運は尽き、暗号資産は魂を失ってしまったか

銀行の命運は尽き、暗号資産は魂を失ってしまったか

2008年の金融危機は並外れた金融の“るつぼ”を生み出した。そこには従来システムも含まれていたが、今では「古くからある通貨と新しいタイプの通貨を取引する手段」としては適していないことが明白になっている。

この“るつぼ”の状態は10年以上続いているが、最終的に何ができあがるかはまだわからない。デジタル時代に適した金融システムになるのか? それとも、旧システムの欠陥と毒性を備えた、単なる旧システムの高性能版になるのか?

2008年の金融危機に対する対応は、世界を危うく吹き飛ばしそうになった銀行を縛りつけることだった。新しいルールが銀行を制限するために作られ、新たな規制機関が銀行の活動を監視し、リスクが高すぎるように見えることは決して行わないようにするために設立された。銀行には新たな資本と流動性の要件が課され、危機の際に資金不足に陥る可能性は低くなり、万一の時の納税者による救済の必要性も低くなった。

しかし、銀行が金融システムを崩壊させ、国家財政を破綻させることを防ぐことは、必ずしも銀行を顧客にとって安全なものにすることを意味しなかった。

キプロス危機の大きな意味

2014年、キプロス政府はIMF(国際通貨基金)とECB(欧州中央銀行)の主導の下、同国の2大銀行の預金に大きな損失を与える決定を行った(IMFとECBは、キプロスに金融支援を行う代わりに、銀行預金に税金を課した。つまり預金者にも負担を求めた)。

この衝撃は今日に至るまで世界中に影響を与えている。

2008年の金融危機は破滅的だったが預金者は保護されていた。アメリカ政府は連邦預金保険公社(FDIC)の預金保険の制限を一時的に解除し、他の国の政府は破綻した銀行の預金をすべて保証した。しかし、キプロス危機の後、銀行預金はもはや安全ではなくなった。

ヨーロッパ各国は預金保険制度がカバーする範囲を引き下げようとしており、また中央銀行は金利をゼロ近くまで引き下げている。金融危機の際、金利はほぼゼロに引き下げられた。12年経っても、依然としてほぼゼロのままだ。本記事執筆時点、アメリカの預金口座の平均金利は0.06%。中央銀行は金利をほぼゼロに維持しながら、2%のインフレ目標を追求している。つまり、我々はお金を盗まれている。

ビットコインは理想を失った?

こうした状況は新しいサービスや企業を生み出した。急成長を続けるフィンテック業界は、高いリターンを求める預金者に高利回りの口座を提供した。だがそれでも平均金利はおよそ1%にすぎない。それ以上を望むなら別の分野を探すしかない。

とはいえ遠くを探す必要はない。暗号資産市場はリスクをいとわない人たちに数百、数千パーセントの利回りを提供している。銀行やフィンテック企業は高いリターンを提供するために必要なリスクを取ることは規制されているが、暗号資産にはそうした規制はなく、大金を稼ぎたいテクノロジーに詳しい人たちにとっては最適な場所となっている。

しかし、ハイリスク・ハイリターンな市場になることで、暗号資産は魂を失った。

ビットコインに早くから参入した人たちは、壊滅的に崩壊し、打撃を受けた金融システムにビットコインは取って代わると信じていた。そして今日でも、ビットコインはグローバルな暗号資産システムの新しい「ゴールド」になり、最終的には基軸通貨としてのドルに取って代わると信じている人たちがいる。

しかし、今では暗号資産の取引を行うほとんどの人は世界制服に興味を持っていない。ビットコインがドルに代わって世界の基軸通貨になることは、ビットコイン取引でビリオネアになろうとしている彼らの計画を邪魔することになる。

彼らが望んでいることは、暗号資産が主要な法定通貨、特にドルと安全に結び付けられていること。多額の利益を得た時に、それをドルに変えることができるという確信が持てることだ。だから今では、一瞬で利益を消し去るような極端なボラティリティ(価格変動)から投資家を守ることができる「ステーブルコイン(stablecoin)」がある。

ステーブルコインの登場

デザー(USDT)のようなステーブルコインは、暗号資産システムと法定通貨システムを結びつけるロープだ。そして、ステーブルコインはドルではなく、発行者が提供する保証は政府による預金保険の保証と同じくらい信頼できないと誰もが知っている。にもかかわらず、そのロープはますます強くなっている。

暗号資産エコシステムに対する投資家の信頼が高まるにつれて、利回りを求めることへのリスクも大きくなっている。DeFi(分散型金融)がブームになっているが、詐欺にあって無一文になる可能性もある。実際、多くの人がDeFiに参入するようになるにつれて、そうした可能性は急速に大きくなっている。だが、大きな利益を上げるチャンスはまだたくさんあるだろう。

ドルに依存しないシンプルな取引システムとして始まったものが、数十億ドルものステーブルコインに裏づけられた複雑なエコシステムに発展した。詐欺に遭う可能性は高いが、時には詐欺的とも思えるリターンを得る可能性は高い。

2008年に世界経済を破壊した不良債券のデリバティブの暗号資産バージョンも登場している。ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトのビットコインに対するビジョンがどうであったにせよ、こうしたものではなかったはずだ。

デジタルバージョンの「デボン紀の海(Devonian ocean)」(古いタイプの魚類が大繁栄し、絶滅した時代のこと)を見つけたのは残念だが、まだ希望はある。海を支配していたモンスターに陸に追いやられた一部の生物は、脊椎動物の遠い祖先となった。海のモンスターが絶滅した原因は、海には存在しないものとの競争だったようだ。つまり、彼らの敵は樹木だった。樹木が地球の気候を根本的に変え、彼らは生き残ることができなかった。

暗号資産の進化の先は?

暗号資産の敵は何になるだろうか? デジタル送金サービスの静かな成長かもしれない。あるいは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)かもしれない。おそらく、一部の暗号資産プロバイダーは、テザー(USDT)などのステーブルコインの代わりにCBDCとの連携を模索するだろう。これがどのように進化するのかは分からない。

暗号資産の絶滅は、仮にそれが起きたとしても、暗号資産の終焉を意味するわけではない。モンスターが絶滅した時には、モンスターが捕食していた小さい生物が自由に成長し発達するようになる。デボン紀の脊椎動物のように、暗号資産は新しい形に進化するかもしれないが、存在し続ける。暗号資産は将来のグローバル金融システムの重要で、よくある部分になるだろう。

これとは逆に、伝統的な銀行は淘汰されつつあるようだ。金融危機は巨大恐竜を絶滅させた小惑星に相当する出来事だった。以来、銀行は収益を回復できず、サービス開発や顧客が望むリターンの提供に失敗している。

私には、今、我々が知っている銀行がまだ存在する未来を想像することができない。しかし銀行もまた、違う何かに進化するかもしれない。巨大恐竜ははるか昔に絶滅したが、恐竜は「鳥」に進化して今も我々のそばにいる。


フランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏:銀行、金融、経済をテーマに執筆活動をする。著書の『The Case for People’s Quantitative Easing』では、現代のお金の創出と量的緩和の機能を説明し、景気回復のための「ヘリコプターマネー」を提唱している。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Banks Are Toast but Crypto Has Lost Its Soul

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