デジタル証券とDeFiはつながるか──米セキュリタイズがユニークな取り組み

デジタル証券(セキュリティトークン)の発行プラットフォームを運営する米セキュリタイズ(Securitize)は、既存の金融資産をDeFi(分散型金融)につなげる取り組みに着手している。

セキュリタイズは先週、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を利用するセントリフュージ(Centrifuge)のプロトコル「ティンレイク(Tinlake)」と連携していることを明かした。

イーサリアムのエコシステムのあらゆる要素は理想的には、お互いを組み込み合うことが可能で、自動マーケットメイキングのような新しく便利な特徴や他の機能を共有できる。この考え方は「コンポーザビリティ(構成可能性)」と呼ばれ、DeFi(分散型金融)の核となるものだ。

しかし、DeFiでデジタル証券を取り扱うには問題がある。

デジタル証券は従来の証券と同じように規制されており、複数の管理機能を実装しなければならない。また私募(プライベート)、公募(パブリック)にかかわらず、購入者の顧客確認(KYC)が求められ、同時に投資家のタイプ(個人投資家か、認証を受けた投資家かなど)を見極めるための投資家資格証明も義務づけられている。

システムは90%完成

セキュリタイズは、プライベート・セキュリティトークンの取引の効率化に注力し、資産所有者の特定と、規制を受けたピア・ツー・ピア取引の実現に取り組んできた。システムはDeFiコンポーザビリティの達成に向けてすでに90%は完成しているとセキュリタイズのカルロス・ドミンゴ(Carlos Domingo)CEOは述べる。

「DeFiプロトコルの多くは、規制を受けていないユーティリティトークンや暗号資産(仮想通貨)向けに設計されており、セキュリティトークン(デジタル証券)にはあまり適していない。我々は合法的に機能させる方法を確立しており、マーケットメイキングやレンディング(貸付)、借入のような従来の資本市場に存在するようなものすべてを自動化できる」

DeFiプロトコルは多くの場合、匿名の流動性プールを備えている。対照的にセキュリタイズとティンレイクの統合は、セキュリタイズIDと関連づけられたウォレットに限られ、取引に関わる双方の身元を明らかにできると、ドミンゴCEOは話す。

ティンレイクのスマートコントラクトは、実世界の資産を表すNFTを取り扱うこともできる。例えば、貿易金融で使われるインボイスを扱うことも可能で、インボイスをダイ(DAI)やUSDCなどのステーブルコインでのローンの担保として使うこともできる。

DeFi参入の課題と期待

ティンレイクは現在、短期ローンを実現しており、次のステップは配当金の再投資や、DeFiで流動性プロバイダートークン(LPトークン)と呼ばれているトークンの検討だ。

しかし、DeFiへの参入には興味深い課題が伴うとドミンゴCEOは言う。ユニスワップ(Uniswap)のような自動化マーケットメーカーが発行したLPトークンの所有権を把握することは、非常に複雑な作業になるという。

「不可能ではないが、移転制限を管理するために我々のプロトコルに統合するためには時間がかかる」(ドミンゴCEO)

もう1つの重要な問題は、プライベート・セキュリティトークンの取引を誰が実際に公表できるのかということに関わっている。イギリスではMTF(多面的取引システム)ライセンスが必要で、アメリカではATS(代替的取引システム)ライセンスが必要になる。

「テクノロジーは90%完成していても、規制上の不透明性がまだ少し残っている」(ドミンゴCEO)

セキュリタイズは、ユニスワップのUNIのようなガバナンストークンを追加することは考えていないとドミンゴCEOは述べた。その類のトークンが合法かどうかが不明確だからだ。

しかしそれとは別に、デジタル証券の価格上昇を待つだけではなく、流動性プールに対してデジタル証券が貢献することの方がより利益が上がるケースがあるとドミンゴCEOは述べた。

「株取引アプリのロビンフッドでアップル株を買っても、できることは時間とともに株価が上がることを待つことだけ。だが、我々が想定しているように、DeFiプロトコルでセキュリティトークン(デジタル証券)が扱えるようになれば、ただ保有して待つだけ以外に、利益を上げる他の方法が突然生まれる」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:セキュリタイズのカルロス・ドミンゴCEO(CoinDesk Japan)
原文:Securitize Is Taking Ethereum-Based Securities Into the DeFi Realm