- 伝統的金融機関が、投資やヘッジ目的でデジタル資産デリバティブを利用し始める波が到来する。
- 今月のフラッシュクラッシュによる圧力下でも、暗号資産デリバティブ市場のインフラはうまく対応したと、コインベースは述べた。
今年初めに世界最大の暗号資産（仮想通貨）オプション取引所であるデリビット（Deribit）を29億ドル（約4400億円、1ドル152円換算）で買収した暗号資産取引所、コインベース（Coinbase）は、伝統的金融（TradFi）機関が投資やヘッジ目的でデジタル資産デリバティブを利用し始める波が来ると予想している。ナスダック上場企業であるコインベースのデリバティブ・セールス部門のグローバル責任者、ウスマン・ナイーム（Usman Naeem）が述べた。
世界的に規制されている暗号資産デリバティブに目を向けつつある機関は、主に資産運用会社であり、単に流動性を提供するというマーケットメーカーの領域を超えて、投機や戦略の実行を行う受託者責任を負っていると、ナイーム氏はCoinDeskとのインタビューで述べた。こうした機関は米国や欧州から参入する可能性が高く、根本的に異なるタイプの企業だ。
「振り返ってみると、取引活動の大部分、おそらく4分の3超はアジアで発生していた」とナイーム氏は述べた。「今後このバランスが少し変化し、米国や欧州に拠点を置く非マーケットメーカー機関が、デリバティブ市場に本格的に参入すると考えている」。
コインベースは2012年初め、ビットコイン（BTC）のオン・オフランプとして誕生し、取引所へと進化を遂げ、当時は米国が中心だった現物市場の大部分を掌握することに成功。だが、2017年以降、永久先物などの暗号資産におけるイノベーションにより、取引量と流動性の85%が米国外、主にアジア太平洋地域へと移行した。
これを受けて、コインベースは2022年に米商品先物取引委員会（CFTC）に登録されたデリバティブプラットフォーム、FairXを買収し、米国で規制された先物取引の提供を開始。その後、2025年5月にはデリビットの買収を発表した。
永久先物が普及しているアジアやドバイから暗号資産デリバティブ市場がリバランスされることで、戦略のタイプも伝統的金融に近いアプローチへと調整されるだろうとナイーム氏は述べた。伝統的な資金運用会社は、単に1000万ドルや2000万ドル相当のビットコインを購入したいわけではないと同氏は指摘。資金運用会社はリスク管理された形で規模を拡大しようとしており、そのためにデリバティブを用いたヘッジが必要となる。
「リスク管理を重視する長期保有者が増えるにつれて、伝統的金融で起こっていることをより再現したボラティリティサービスが登場し始めるだろう」とナイーム氏は述べた。「ビットコインの50%の上昇に単に投機するのではなく、上昇分を一部売却して下落リスクへの備えに充てる可能性もある。こうした動きはボラティリティサービスに大きな変化をもたらし、流動性と安定性を高め、より信頼性が高く理解しやすいデリバティブ市場が形成されるだろう」。
それでは、今月初めにごく短時間で70億ドル（約1兆640億円）の清算を引き起こした暗号資産のフラッシュクラッシュのような出来事についてはどうだろうか。これほど極端なボラティリティは、金融機関を市場から遠ざけるのではないか。
ナイーム氏は、フラッシュクラッシュは暗号資産に限ったことではなく、デジタル資産業界のインフラは概ね機能していたと指摘した。
「清算は確かに発生し、ウォーターフォールは設計通りに機能した」とナイーム氏は述べた。「永久先物のダイナミクスは、中央清算型の先物や現物取引とは大きく異なるため、ポジションを解消するにはより厳格なリスク管理が必要であることに留意すべきだ。また、すべてが約12分という短い時間枠で起こったことも念頭に置くべきだ」。
｜翻訳・編集：廣瀬優香
｜画像：コインベースのデリバティブ・セールス部門のグローバル責任者、ウスマン・ナイーム氏（Coinbase modified by CoinDesk）
｜原文：Coinbase Sees TradFi Institutions Driving Crypto Derivatives Boom
