上場企業が暗号資産を戦略的に保有する新たな財務手法「DAT(Digital Asset Treasury、デジタル資産トレジャリー)」。世界では米ストラテジー社(旧マイクロストラテジー社)が、日本ではメタプラネット社が先陣を切り、最近ではETHやSOLなどBTC以外の暗号資産を取得するトレジャリー企業も登場。日本ではメタプラネットだけでなく、リミックスポイント、gumi、ANAP、コンヴァノなど多くの企業が採用するなど、世界的に注目度が高まっている。
こうした中で、N.Avenue clubは、10月23日のラウンドテーブルのテーマを「急成長する暗号資産トレジャリー事業『DAT』は、持続可能か?」とし、DATの国際動向と国内における事業の可能性・将来性を議論する場を設けた。
Pantera Capital(パンテラ・キャピタル)のGenral Partnerがオンラインでプレゼンを行ったほか、gumi、Crypto Garage(クリプトガレージ)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業からキーパーソンが登壇。それぞれの取り組み・展望の説明や、法規制・税務会計上の留意点の解説などが行われた。
N.Avenue clubは国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指す、会員制のクローズドなコミュニティ。
ラウンドテーブルの様子はすべてを公開することはできないが、いつにも増して質問が飛び交い、意見交換・情報交換も盛んに行われた会場の雰囲気を感じられるよう、その一部を以下にレポートする。
DATが投資家に提供する価値とは:パンテラ・キャピタル

冒頭、ブリーフィングセッションでプレゼンテーションを行ったのは、米国初のビットコイン特化機関投資家向けファンドと呼ばれるPantera Capital(パンテラ・キャピタル)のGenral Partner、Cosmo Jiang(コズモ・ジャン)氏。パンテラ・キャピタルはこれまでにDATに約400億円以上投資し、2つのDATファンドも立ち上げている。
オンライン登壇したジャン氏はDATの現況について、2025年に入って米国でブームが起き、3月以降のアップトレンドが顕著で、特に第3四半期は力強いパフォーマンスを示していると説明。DAT企業を「バランスシート上でデジタルアセットを蓄積することを主な戦略とする公開企業」と定義、その先駆けがストラテジー社であると述べた。
企業が暗号資産を保有する理由:gumi

メインセッションで最初に登壇したのは、gumiで、2018年からブロックチェーン事業を担当する執行役員 / Head of Blockchain Businessの寺村康氏。
寺村氏は、企業が暗号資産を保有する理由は「財務戦略」(投資/運用対象・手段の多様化、法定通貨安・インフレリスクへのヘッジ)、「IR戦略」(株価対策、アナウンスメント効果)、そして「事業戦略」(ブロックチェーン事業推進上の必要など)から分析でき、このうち「財務戦略」と「IR戦略」がトレジャリー事業にあたると示唆した。
企業のトレジャリーの取り組みにおいては、暗号資産は多様な性質(換金性/投資性/事業性)を持つため、BS戦略がカギであり、PLとBSの両輪を回すことが成長に不可欠であること、さらには、資産運用を行わないリスクも考慮すべきだと指摘した。
なお同社は、SBIとともに、BTCやETH、SOL、XRP、SUIなどの主要暗号通貨を取り扱うSBI Crypto Fundを組成している。
DATの注意点とは:Crypto Garage

次に登壇したのは、法人向けデジタルアセット金融サービス提供しているCrypto GarageのChief Compliance Officer、田中潤氏だ。
田中氏は、企業による暗号資産保有が進んでいる背景には、暗号資産の高いパフォーマンスがあり、ビットコインは過去、S&P500、ゴールド、債券などをアウトパフォームしていると説明。さらにDATが注目されている理由として、円の価値の相対的な低下、ブランディング効果などをあげた。
一方で注意点として、暗号資産の高いボラティリティ、ビットコインはそのままではキャッシュフローを生まないことなどを指摘した。
DATにまつわる法規制を整理:アンダーソン・毛利・友常法律事務所

最後に、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業のパートナー、福井崇人氏が登壇。「DAT 法規制と税務会計上の留意点」と題してプレゼンテーションを行った。
福井氏は、DATと暗号資産交換業の関係について、暗号資産の売買は交換業の定義に含まれるが、「業として」行う場合には、対公衆性+反復継続性の観点が規制対象となると述べた。
つまり、企業が「投資目的」で行う自己取引は通常、対公衆性を満たさず「業」に該当しないだろうと説明。だが現状では、金融審議会での議論(規制の金商法への移行など)やETFの承認、税制改正の動向に注意が必要だと述べた。
成功のカギ、ビジネスアイデアをディスカッション
ラウンドテーブルの後半は、参加者全員が7つのテーブルに分かれディスカッション。テーマは2つ──①「上場企業はDATをどう活かせるか?リスクと対策」、②「DATを活用したビジネスアイディア」──が設定され、参加者たちはそれぞれ議論を交わした。
ディスカッション後の発表では、保有にとどまらない運用や本業とのシナジーの可能性について意見が述べられた。一方、暗号資産以外にも運用手法や投資先があるなかで、あえてDATを選択する意味があるのか、「ただ暗号資産を保有するだけでは、上場企業という社会の公器としての役割を果たすことにはならないのでは」といった指摘もあった。
N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑


