北米の暗号資産業界に迫るM&Aの波──パワーゲームは始まった

暗号資産(仮想通貨)業界の次の買収劇を推測するなら、ナスダックに上場した暗号資産取引所コインベース(Coinbase)がDeFi(分散型金融)プロジェクトのダーマ(Dharma)を買収するというのはどうだろう。

コインベースのナスダック上場後、暗号資産が主流となった世界について考えているときに思いついた私の完全な推測だ。

  • コインベースは実際はDeFiを脅威と考えていないかもしれない。
  • だがビジネスチャンスと考えているはず。
  • コインベースと同じ方向を向いている会社はどこだろう?
  • ダーマだ。
  • 両社ともアクセスの容易さと、優れたユーザーエクスペリエンス(UX)に取り組んでいる。

私の推測は間違っているかもしれない。ただ、ブロックチェーン業界に統合の波が急速かつ激しく迫っているのは確かだろう。統合と中央集権化はまったく同じではないが、似ている。

企業が大きくなると、新しい事業を始めるよりも買収した方が簡単になる。買収はシリコンバレーでは日常茶飯事で、リサーチ企業のCBインサイツ(CB Insights)はグーグル、アップル、アマゾンなどの大手テック企業による買収を入念に追っている。

「スタートアップ」という考え方は、小さな企業は大企業に比べて、新しいアイデアをかたちにして、うまく機能するまで繰り返すことに優れていることを表している。

うまく機能した後は、大企業にとっては真似するよりも、小切手を切る方が簡単だ。暗号資産業界でもいくつかの買収はすでに起きており、より多くの資金と人材の参入で、その傾向は加速している。

進行中の案件

ダーマを買収するかどうかはさておき、コインベースはすでにバイソントレイルズ(Bison Trails)、ルートファイア(Routefire)、タゴミ(Tagomi)を買収している。コインベースは大きな収益をあげており、上場した今は、資金調達はより簡単になった。

他の事例を見てみよう。

ステラ(Stellar)プロトコルの開発企業であるライトイヤー(Lightyear)はチェーン(Chain)を買収。

テンダーミント(Tendermint)はB-ハーベスト(B-Harvest)を買収。

ペイパル(PayPal)はカーブ(Curv)を買収。

FTXはブロックフォリオ(Blockfolio)を買収。

クラーケン(Kraken)はオーストラリアの取引所ビット・トレード(Bit Trade)を買収。

バイナンス(Binance)はインドネシアの取引所ワジールX(WazirX)を買収。

ステーブルコインのTrueUSDを発行する企業は買収が進んでいる。

そして米CoinDeskはトレードブロック(TradeBlock)を買収し、親会社のデジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)はルノ・ウォレット(Luno Wallet)を買収した。

合体ロボ「ボルトロン(Voltron)」

皆が夢中になっている。実際、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の集計では2020年、暗号資産業界では11億ドル(約1200億円)規模の合併と買収が行われた。2021年はさらに拡大するだろう。

現在、イーサリアムブロックチェーン上では、2つのトークンが統合の過程にある。ケアヌ(Keanu)プロジェクトは、キープ(Keep)とヌーサイファー(Nucypher)の統合だが、企業は別々のまま存在するというユニークなものだ。同じネットワークと別々のインターフェースを開発していく。

同様に、複数のDeFiプロジェクトは利益を求める奇妙な群がりのように、ヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)に集まり続けている。このエコシステムへの統合の意味は、まだ誰にもわからないが手強いものであることは間違いない。

統合や合併の時代がやって来ている。企業はボーダーレスな流動性の巨大マシンへと、まるでロボットアニメ「ボルトロン(Voltron)」のように合体して1つになり、伝統的な金融仲介者と金融市場に挑んでいる。

きわめてエキサイティングに聞こえる。だが最後には巨大マシンが残ってしまう(アニメでは「ボルトロン」はもちろん正義の味方だが、これはブロックチェーンの話だ)。

デメリット

つまり、巨大でパワフルなものが残る。あまりにもパワフルで個人をあまり気にする必要はない。グループさえ気にしないかもしれない。

ここはエッセイの中で、今、予知能力があるように聞こえるか、少なくとも本当に思える、大胆で具体的な予想をすべきパートだ。だが大胆な予想から始めたので、ここでは行わない。

仮にコインベースが実際には、ダーマを買収しなくても、それはまったく問題ない。コインベースは間違いなく、どこかを買収するだろう。同社が上場に成功したことで、他の暗号資産企業もコインベースに続き、そしてどこかを買収するだろう。

この業界に流れ込んでいる資金が必然的に暗号資産メガプラットフォームに集約していく時、どのような形になるかを正確に語ることはできない。言えることは、そうしたことが起こるということだけだ。

我々はすでに大手IT企業や食品企業による買収劇を目撃してきた。よい結果だっただろうか? 異なる結末を望んだだろうか。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:レゴで作った「ボルトロン」(Shutterstock)
|原文:Consolidations Are Coming to Crypto