ビットコイン投資で“資産5倍”と“半減”──2人の投資家の明暗を分けた「確証バイアス」【投資で勝つ心理学・第1回】

ビットコイン投資で“資産5倍”と“半減”──2人の投資家の明暗を分けた「確証バイアス」【投資で勝つ心理学・第1回】

【連載・全5回】投資で勝つ心理学

「あの時買ったらよかった」「売っていればこんなことにはならなかった」……。投資も歴史も「たら」「れば」は禁物。後で振り返れば当然別の選択をしたはずなのに、実際にその場面・局面ではできない。だがそういうときの心理状態を冷静かつ客観的に見極めれば、誤った投資判断は防げるかもしれない。投資で勝つために、分かっているようで分かっていない自分の「心理」を分析するための心理学。

“無意識”に踊らされた中村さんの失敗

「なんでボーナス150万を全額ビットコインにしちゃったんだろう……たった数日で70万になってしまった!」──。

頭をかきむしって一人叫ぶ会社員の中村さん(仮名、42歳)。意気揚々と始めたはずのビットコイン投資で、まさかこんなことになるなんて。間違いは、どこにあったのだろうか。

中村さんは平均よりは高年収、職場でも管理職。家庭も円満で公私ともに充実しているが、資産運用経験はない。ある日、信頼する友人と食事に行き、数年前からビットコインに投資していると聞いた。友人は暗号資産(仮想通貨)の技術的な側面を評価しており、投資で元手を5倍近くに増やしたという。

興味を持った中村さんは、帰宅後さっそくビットコインについて調べた。今後も値上がりするだろうという専門家のレポートをいくつも読んで確信を深め、「今年のボーナスは投資に回そう」と決めた。

口座を開き、チャートを見るとビットコインの価格は値上がりしている最中だった。試しに20万円をビットコインに投資すると、数千円値上がりしたものの、そのあと価格が下がり始めた。「高値の時に投資してしまったかもな」。要領をつかめたと感じた中村さんは、思い切ってボーナスの全額をビットコインに投資することにした。少しずつ入金するより、まとめて投資したほうが手数料がかからないだろう。ちょうど下がっている場面でもあり、ボーナス相当額の150万円をビットコインにした。わくわくしながらチャートを見守ったが、チャートに大きな動きは見られないので、その日は眠ることにした。

翌日から仕事上のトラブルが続き、中村さんが次にチャートを見たのは4日後だった。「もし2倍になっていたら300万円、3倍になっていたら450万円だ」。わくわくしながらチャートを見て、中村さんは目を疑った。

ビットコインはかなり値下がりしていたのだ。下がり始めたのは、150万円を投資した数時間後のこと。現在のレートで日本円に替えると、受け取れる金額はたったの70万円……。ほんの数日で、ボーナスが半減してしまった。

友人にはできて、なぜ自分にはできないのだろう。

その後もチャートは下落を続け、換金できる日本円が60万円になった時点で、たまらず中村さんは全額日本円で引き出した。画面上とはいえ、これ以上、資産が減っていくのを見ていられなかった。投資はもうこりごりだ。中村さんは暗い気持ちで、半減したボーナスの金額を見つめていた。初めての投資は、中村さんにとって手痛い失敗の経験となった。

同じくビットコイン投資を始め、成功した岡田さんのケース

まったくの未経験からビットコイン投資を始め、着実に資産形成できた人もいる。岡田さん(仮名、36歳)は、なぜ成功できたのか。中村さんの失敗事例と対比しながらみていこう。

会社員の岡田さんは、投資を始めたいと考え、投資経験のある信頼できる友人に電話で相談した。友人からは、ビットコイン投資をすすめられた。実際に友人はビットコイン投資で、元手を5倍にまで増やしたという。

岡田さんは電話を切ってから、ビットコイン投資について調べ始めた。友人の話から、ビットコイン投資に対してポジティブな印象が強くなり、期待感が高まっている。そう気づいた岡田さんは、あえてビットコイン投資に対するネガティブな情報を積極的に探した。

その結果、ビットコイン投資そのものは魅力的だが、今は市況が不安定で初心者にはリスクが高すぎると判断。過去のチャートを見ても変動幅が大きいことも分かった。ボーナスが入ったばかりで早く投資を始めたかったが、ぐっとこらえた。

しばらくは価格が乱高下する不安定な相場が続いたが、かなり下がった後、少しずつ相場が上昇を始めた。岡田さん上昇に転じたタイミングで、すかさず投資をスタート。それも、一気に全額で買うのではなく、少しずつ買っていった。さらに、一定の評価額に達成したら、半分売ってもう半分は残した。そうして着実に利益を確定させていった。

価格が過去最高を記録し、チャートの動きが鈍り始めたところですべてのビットコインを売却し、岡田さんは数時間のうちにボーナスを1.5倍に増やすことに成功したのだった。

投資家が陥る無意識の罠「確証バイアス」

中村さんと岡田さんの違いはどこにあったのか。その違いを説明できるのが、心の内にひそむ「確証バイアス」だ。これは、自分が考えている仮説が正しいと証明できる情報ばかり集め、反証の情報を集めようとしない、さらには無視しようとする心の動きだ。

中村さんは「ビットコイン投資を始める根拠」ばかりを探していたのに対し、岡田さんは「ビットコイン投資が危険かもしれない情報」も集めていた。

投資では情報収集が大切だといわれるが、そもそも心をコントロールできていなければ、フラットに情報を得ることはできない。正しい投資判断をするには、無意識にひそむ「確証バイアス」を見極め、意識的に心をコントロールすることが大切だ。

(さらに、中村さんが予算を一気に投資に回したのに対し、岡田さんは分散投資をして少しずつ投じたという違いもある。中村さんが投資した後に一気に価格が上がっていれば、中村さんの資産も激増していたはずだが、残念ながらそうならなかった。期待リターンが高いということは、それだけリスクも大きいのだ)

あなたは正しく回答できるか?4枚のカード問題

確証バイアスが広く知られるきっかけとなったのが、「ウェイソン選択問題」と呼ばれる4枚のカード問題だ。次のようなカードが4枚ある状況を思い浮かべてみてほしい。

「7」「4」「赤」「青」

カードには、表に数字が書かれており、裏には色を表す漢字が書かれている。ここで、「偶数が書かれたカードの裏は青と書かれている」という仮説を検証するには、どのカードをひっくり返せばいいだろうか?

この問題を解くカギは、論理学における命題と対偶の関係だ。論理学に、「命題の真偽と対偶の真偽は一致する」という法則がある。この点を踏まえて、命題の逆・裏・対偶をみてみよう。

命題:偶数が書かれたカードの裏は青
(pならばq)
逆:青いカードの裏は偶数が書かれている
(qならばp)
裏:奇数が書かれたカードの裏は赤
(pでないならばqでない)
対偶:赤いカードの裏は奇数が書かれている
(qでないならばpでない)

つまり、問題を解くには、「命題」と「対偶」が真であることを証明すればいい。すなわち正当は偶数である「4」と「赤」だ。

「4」の裏が「青」なら命題が正しいと証明され、「赤」の裏が「奇数」なら対偶が正しいと証明される。この2つの事実で、仮説の検証が完了する。

しかし、実際には多くの被験者が「4」「青」と回答した。これを心理学者のウェイソンは、「仮説を確証し、仮説と一致する情報を探す傾向=確証バイアス」で説明した。被験者は「4」の裏が「青」で、「青」の裏が偶数であることを確かめようとしたと考えたのだ。

ウェイソン選択問題については、その後マッチングバイアス説も登場したが、人間の判断を狂わせる「確証バイアス」は現在もさまざまなシーンで取り上げられている。

「確証バイアス」で読み解く中村さんの失敗理由

話を中村さんのエピソードに戻そう。今回のエピソードを論理学で考察すると、どうなるだろうか。

中村さんはこう判断した。

「友人は信頼できる→ビットコイン投資はいい(pならばq)」

これを命題とすると、対偶はこうなる。

「ビットコイン投資はよくない→友人は信頼できない(qでないならばpでない)」

中村さんは対偶の可能性があることを意識し、ビットコイン投資のポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報にも注目すべきだったといえるだろう。

「確証バイアス」の考え方は、客観的に情報を取り扱う上で常に意識しておきたい心の働きであり、成果をあげる投資家や科学者に広く認知されている概念だ。

情報の“質”を担保するため、無意識の逆をいく

「投資は情報戦」といわれる。情報戦を勝ち抜くには、情報の量だけでなく、質が大事だ。情報収集に多くの時間を費やしたとしても、確証バイアスに陥った状態でかたよった情報ばかり集めていたら、投資判断を誤ることになる。また、どんなにいい情報を集めても、そこから評価・判断する際にバイアスがかかっていれば、それもまた誤った投資判断につながってしまう。

確証バイアスに陥らないようにするためには、次の2つのステップを踏むことが効果的だ。

1 確証バイアスに陥っていることを自覚する。
2 自分の確証バイアスと反対の意見に触れる。

まずは情報収集の際に一度立ち止まって、自分の心の動きを見つめてみよう。「今の自分は、投資を始めたくてウズウズしている」「投資で成功し、友人にいい結果を報告したいと考えている」といった自分の無意識に気づけば、それと反対の情報をあえて意識的にとりにいく。こうすることで、情報収集のバランスがとれる。

投資をするなら、「確証バイアスに陥っていないか」を常に自分に問いかけ、自分の「ほしい情報」とは逆の情報を意識的にとりにいくことが大切だ。


第1回 ビットコイン投資で“資産5倍”と“半減”──2人の投資家の明暗を分けた「確証バイアス」
第2回 「みんなビットコイン投資しているから大丈夫」の根拠とは──投資に勝つために理解したい「同調圧力」
第3回 「ビットコイン投資の大損は単なる不運」は本当か?──関心度で情報のとらえ方と行動が変わる
第4回 「負けが続いたから、次は勝つだろう」にひそむ罠──ギャンブラーの誤謬
第5回 行動にブレーキをかける「認知的不協和」──知らずにチャンスを逸失?

|文:木崎 涼
|編集:濱田 優
|画像:Benjavisa Ruangvaree Art, Sira Anamwong / Shutterstock.com

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