投資家・ドラッケンミラー氏のインフレ警告、暗号資産をどう考える

投資家・ドラッケンミラー氏のインフレ警告、暗号資産をどう考える

現在のFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策とアメリカの赤字財政支出が、米ドルを破壊の道へと導いている。ヘッジファンドと外為界の大物スタンレー・ドラッケンミラー(Stanley Druckenmiller)氏はそう語る。

米CNBCの番組に出演した同氏は、米ドルは「おそらく」15年以内に国際準備通貨としての地位を失うだろうと述べた。新型コロナウイルス関連の救済策における財政赤字支出を究極的に支える、FRBの低金利へのコミットメントと米国債買い戻しに焦点を当てて、ドラッケンミラー氏は話を進めた。

ドラッケンミラー氏のコメントは、ドルをすでに実質的に売っている人たちにとってはプラスとなる。暗号資産支持者たちだ。

ユーロは無力で、中国共産党をバックにした人民元はいまだに懐疑的に見られる中、ドルのような普遍的な仲介役をすぐに果たせる法定通貨を見出せていないと、ドラッケンハイマー氏は話す。ドルに「取って代わる可能性が最も高い」のは「暗号化で作られた台帳システム」と考えている。

大物トレーダーが考えるドルの未来

歴史上最高の外為トレーダーとも考えられているドラッケンミラー氏による、驚くべき発言だ。同氏は1992年、ジョージ・ソロス(George Soros)氏が行った英ポンドの伝説的な空売りの立役者でもあった。

その彼がいまや、供給量が変更できないように固定されたビットコインと、FRBに米ドルの増刷を続けさせる国の姿勢とを長年にわたって対比してきたビットコイン支持者の最も根本的な主張の1つに同意しているのだ。

アメリカ経済にとって、インフレが主な懸念事項となることは何十年もなかった。事実、パンデミック以前、FRBは10年近くインフレ率が低すぎると考えていたのだ。しかし、パンデミックに関連する支出により、アメリカの赤字は歴史的水準に達し、インフレリスクに対する懸念が広まった。

ドル建てで取引を行う投資家にとって、インフレは大きな頭痛の種となり得る。資産や利益が損なわれるからだ。賃金も価格と並んでインフレする傾向にあるが、労働者や消費者にとってもインフレは厄介なものとなり得る。

ドル紙幣の4~7割が海外に

外国政府や世界中のトレーダーたちにとってドルの魅力が下がり、準備通貨としての地位をドルが失えば、アメリカのほとんどすべての人にとっては壊滅的になり得る。

IMF(国際通貨基金)によれば、ドル紙幣全体の40〜72%が海外に保管されていると考えられており、世界中の外貨準備金の60%以上をドルが占めている。ドルに対する信頼が失われれば、それらのドルを売ろうとする試みがドルの価値における悪循環を生み出す可能性もあり、それが米国内に様々なマイナスの影響をもたらす。

アメリカの赤字における長期的傾向は明確だが、今は支出を抑制するべき時なのかははっきりしない。進行中のアメリカの回復は非常に力強いものであり、パンデミック関連の救済策のための支出は不必要かつリスクすら伴うと、ドラッケンミラー氏は主張する。

しかし、支援のための支出はそもそも、経済回復を生み出すのに必須であったと思われる。事実、アメリカの対応は、需要が幅広く急激に減少したのを埋め合わせ、「パンデミックに勝つ」のに一役買ったと主張する人たちもいる。

救済策が、1929年の世界恐慌に匹敵するような経済的打撃を阻止したと考える人たちもいる。そのような経済的打撃を受けていれば、多少のインフレと同じくらい、あるいはそれ以上にドルの国際的地位に傷がついたはずである。

ドラッケンミラー氏の主張

ドラッケンミラー氏は救済のための支出の重要性に異議を唱えている訳ではない。徐々に終わらせていくべき時だと控えめに主張しているのだ。広い意味でケインズ主義的な主張だ。民間セクターが不調な時には赤字を増やし、経済が回復したら縮小する。

同氏の主張は後知恵的なものでもある。現在実施されている救済策は、あと6カ月は継続する見込みだが、アメリカでのワクチン接種開始が確実になる前に準備されていたのだから。さらに現状でも、いまだに議論の余地はある。例えば、アメリカの実質失業率(U6失業率)はいまだに10%を超えており、経済全体はいまだに大いに不振であることを示唆している。

このことは、収入水準によって、インフレが意味するところは大きく異なるという一例に過ぎない。前述の通り、インフレによって通常最も打撃を受けるのは、ドル建ての利益が目減りし、保有するドルの価値も低まる投資家と富裕層である。

一方、多額の貯金や投資をしている可能性は低く、パンデミック関連の救済措置によって相対的には最も恩恵を受け、救済措置が終わってしまった時に最も打撃を受けるのが労働者だ。

ドラッケンミラー氏が見据える準備通貨としてのドルの終焉というシナリオは、政府による無責任な支出が最終的に皆に打撃を与える1つの可能性を示唆する。しかし、短期的には、救済策によって多くの一般人の生活は、それなしの場合よりもずっと良くなった。

米国の赤字規模

インフレの幅広い議論の中でほとんど認められることはないのだが、現在のインフレ懸念は、2017年のトランプ大統領による減税政策への反応とは明らかに対照的だ。議会予算局は、富裕層に不均衡に恩恵をもたらした減税が、10年間で1兆9000億ドル分の赤字をもたらすと推計した。減税によって刺激される経済成長の高まりを考慮してもだ。

これは、バイデン大統領の米国救済計画が生み出した赤字と同じ規模だが、減税後にインフレに関する不平はほとんど聞かれなかった。さらに注目すべきは、減税は経済が力強い時期に行われた点だ。

普通に考えれば、経済が順調な時には減税は経済的に不必要であり、不景気の時に支出を増やすのに比べて、インフレを生む可能性は高まるはずだ。さらに不思議なことに、現在インフレを心配する人の多くは、トランプ大統領による減税を部分的に覆そうとするバイデン大統領の試みに反対しているのだ。

これらすべてのことは、暗号技術によるものであろうとなかろうと、あらゆる多国籍準備通貨に伴う可能性のあるより幅広い困難を浮き彫りにする。インフレへの懸念は正当なものだが、国内の政治的、社会的ニーズに応えるために、特に危機の際に社会で最も脆弱な人たちを保護するためには、国家にとって赤字支出は大切なツールである。

最悪のシナリオでは、国家通貨を完全に侵害する国際的通貨が、このような対応策をとるための財政面での政府の裁量を制限する。ユーロのために自国通貨を廃止したスペインやギリシャなどの国が乗り切らなければならなかった問題を見れば明らかだ。

しかし、しっかりと通用する国家通貨を維持した国にとって、超国家的な準備通貨は抑制的というよりは緩和的なのかもしれない。特に一般の人たちがアクセスできるものの場合は。

現在、自らの通貨が上手く運用されていない場合の主要なオプションは、より上手くいっている国を探すか、金(ゴールド)を買うことだ。しかし、中立的で、インフレ抑止的な準備金レイヤーがあればその方がずっと優れた避難先だ。(例えばパブリックブロックチェーンを通じて)購入と保有が簡単であれば、不信感を持たれた政府の財政政策は、通貨に対する需要の低下を通じてすばやく罰せされるだろう。

一方で政府は、本当に必要で、国民に支持を受けているならば、自国通貨建ての債券を発行する柔軟性を持つことができる。

しかし、ドルとアメリカ全体に深刻な混乱をもたらさない道を見出すのは困難だ。パンデミック関連の1兆9000億ドルの支出は結局のところ、既存の山積する赤字に加わり、現在赤字は28兆ドルを超えている。ドルへの信頼の低下が米国債保有に対する世界的意欲の低下につながるとしたら、金利を引き上げれば、アメリカの年間予算の3分の1をも利子だけに費やすこととなると、ドラッケンミラー氏は警告する。

現在その割合は約10%だ。それはほとんど誰にとっても、好ましくはない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Stanley Druckenmiller’s Inflation Warning Means for Crypto

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