フィリピンのNFTゲームブームが世界に示すイノベーション

フィリピンのNFTゲームブームが世界に示すイノベーション

「Axie Infinity」は簡単なゲームではない。ゲーム内で獲得したポイントを換金することも簡単ではない。だが、そんなことは関係ない。この「プレーして稼ぐ」ノンファンジブル・トークン(NFT)ゲームは、フィリピンでユーザー数を伸ばしている。

私がこのゲームを前回記事にしたのは2020年8月。新型コロナウイルスによるロックダウンのために仕事を失った後、生活費を稼ぎ、日々の食べ物を手にするためにヌエバ・エシハ州カバナチュアン市で100人近くがプレーしていると聞いたことがきっかけだった。

ヌエバ・エシハ州は田んぼと三輪タクシー「トライシクル」が走っているフィリピンのよくある一地方だ。

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そして今、フィリピンはAxie Infinityのトラフィックが世界で最も多い国となっている(ちなみにAxieは大規模な資金調達ラウンドを成功させたばかり)。

人気とともに参入障壁も高く

開発元のスカイ・メイビス(Sky Mavis)のデータによると、フィリピンでのダウンロード件数は2021年3月の1万件から、現在は2万9000件超へと増加している。ちなみに世界全体でのダウンロード数は7万件。トラフィックでフィリピンに次ぐのはインドネシアとベネズエラ。いずれも新興国であり、国内での雇用は不足し、コロナ禍における支援は限られている。

Axie Infinityは、今広がりつつある「プレーして稼ぐ」ゲームの中でも有数の存在。プレイヤーはトークンなどの報酬を得ることができ、報酬はゲーム内で使うこともできるし、公開市場で取引することもできる。後者はゲームの世界における大きな変化を象徴している。なぜなら、ゲーム内の資産は従来、ゲームの中央集権的プロトコルの範囲内に限定され、ゲームの外に持ち出すことはできなかったからだ。

ある人にとっては、「プレーして稼ぐ」というコンセプトは純粋な楽しさと少しのお小遣いとなるが、フィリピンでは収入を稼ぐための純然な手段になっている。

サクセスストーリーは刺激的だ。Axieをプレーして稼いだお金で、赤ちゃんのためのおむつやミルクを買った人もいれば、面接のための靴とシャツを買った人もいる。子供の学費を支払ったり、家庭学習のためにデジタルデバイスを買った家庭もある。

オートバイを買ったり、携帯を買い替えたり、家をリフォームした人もいる。土地を買った人や、家を数軒買った22歳もいる。海外で出稼ぎしていた男性は、ゲームで十分な収入を得たために韓国での仕事を辞め、フィリピンの家族のもとに帰っていった。

Axieのゲーム内報酬トークン「SLP」の取引高はいまや非常に大きく、暗号資産取引所のブルームX(BloomX)とバイナンス P2P(Binance P2P)は、SLPとフィリピンの通貨ペソの交換サービスを提供している。

だが人気の高まりと、イーサリアムの取引手数料の上昇によって、ゲームに新たに参入するためのコストは大幅に上昇している。2020年年半ば、3人のチームの購入コストは5ドルだった(Axieは、ポケモンのようなキャラクターを操って戦うゲーム)。今、そうしたチームを組むためには約1000ドルかかる。

こうしたコストは、ゲームに参加したい多くの人にとって手の届かないものになっている。

コミュニティが運用する育成プログラム

高い参入コストの打開策として、Axieコミュニティは育成プログラムを生み出した。新規参入プレーヤーに既存オーナーがNFTのキャラクターを貸し出す、いわば利益シェアリングだ。新規参入プレーヤーは、あらかじめNFTを買ったり、投資をせずにゲームをプレーして、SLPを獲得できる。

稼いだ報酬はプレーヤーとNFTのオーナー、そしてコミュニティマネージャーで分割する。コミュニティマネージャーは、新規プレイヤーを集め、訓練と育成を行う。つまり新規プレーヤーに必要なものは、時間と熱意、そして学ぶ意欲のみだ。

開発元のスカイ・メイビスがこうした育成プログラムを提供しているわけではない。毎日、自分で操作できる数以上のキャラクターを持っているオーナーが協力している。オーナーにとっても使っていないキャラクターを貸し出すことで有効活用できる優れた仕組みだ。

最も古いビジネスモデル×NFT

資産を貸すというアイデアは、最も古いビジネスモデルの1つだが、それをNFTに適用することは新しい切り口だ。

これがAxie Infinityで可能になったことには理由がある。つまり、プレーヤーのユーザーネームとパスワードが暗号資産ウォレットとは別に保管されているからだ。他のDapp(分散型アプリ)ではこうはいかない。通常、ユーザーのIDはウォレットそのものだ。

一方、AxieではNFT(=キャラクター)のオーナーは、秘密鍵を渡すことなく、他のプレーヤーに自らの資産(=キャラクター)を貸し出し、利用して楽しんでもらうことができる。

もちろん、これは完璧な仕組みではない。まず、トラストレス(信頼できる第三者を必要としない仕組み)ではない。

悪質なオーナーは、育成プログラムを使って新規参入プレーヤーに数日間プレーさせた後、ウォレットに貯まった報酬をひとり占めして、プレーヤーに分け前を渡すことを拒否するかもしれない。

同様に、プレーヤーは複数の匿名アカウントを使って、同時に複数の育成プログラムから報酬を得ることもできる。こうした行為は厳しく禁止されており、コミュニティリーダーたちは積極的に監視している。

KYC(顧客確認)は大きな課題だが、育成プログラムは盛んに利用され、ますます洗練されてきている。最も初期には、育成プログラムは友人間で行われていた。友人にNFTキャラクターを貸し、その代償としてSLPを受け取っていた。

最新のモデルでは、表計算ソフトのエクセルを使って、育成プログラム参加者と獲得した報酬を管理している。一部には、スマートコントラクトやボットを活用し、数千とはいかなくとも数百の新規参入プレーヤーへの分け前の支払いを自動化している人もいる。

またしても、世界でまだ十分なサービスを受けられていない人たちがイノベーションの最前線に立ち、自分たちのニーズに合ったソリューションを生み出している。NFTで実際に何ができるのか。新興国のゲームコミュニティが世界中に示している。

リア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)の最新ドキュメンタリー『Play-to-Earn: NFT Gaming in the Philippines(プレーして稼ぐ:フィリピンにおけるNFTゲーム)』は、Axie Infinityのプレーヤーがゲームから人生を変えるような収入を得ている様子を取材している。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:For Filipinos, Axie Infinity Is More Than a Crypto Game

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