ウォール街の異端児・ダリオ氏の投資手法とビットコインの哲学

レイ・ダリオ(Ray Dalio)氏の投資哲学の大半は、とりわけ強硬なビットコイナーにとってはすでに馴染みがあるものに聞こえるかもしれない。

しかし、ビットコインはバブルに陥りがちで、政府による制裁の標的となる可能性もあるというダリオ氏の以前からの見解を考慮すると、取り上げる価値があるだろう。

「異端児」が支えたファンドの成功

大企業や政府系ファンド、公的年金向けにアルゴリズムに基づいた戦略を展開する世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)の創業者であるダリオ氏は、グローバル金融に関してマクロな見解を持つ。同ファンドの成功は、お金と信用に関する自らの異端的考えによるところが大きいとダリオ氏は語る。

「大半の人がお金だと考えるものは信用である。これは無くなることもある。そのことが示唆する通り、デレバレッジのプロセスの大部分を占めるのは、人が自らの財産と考えたものの多くが、本当はそこに存在しないと気付くことにある」とダリオ氏は言う。

この主張は、金融危機の真っ只中の2008年、「How the Economic Machine Works and How It Is Reflected Now(経済マシーンの仕組みと現在それがどのように反映されているか)」と題されたブログ記事の中で展開されたもので、同記事は2011年に更新された。

対照的に、ビットコイナーたちは極端な場合には、、国家権力によって裏づけられているために価値を持つ法定通貨は幻想に過ぎないと考える。ビットコインは、FRB(米連邦準備制度理事会)が際限なく紙幣を発行でき、民間銀行がローン貸付で通貨供給を増やすことのできるシステムに代わるものとして作られた通貨枠組みである。ビットコインはブレーキのついたマシーンなのだ。

ダリオ氏は、金融マシーンが機能不全に陥る可能性を理解していた。はやくも2006年には、量的緩和に支えられ、利益を求めたレバレッジの高いオプションに依存した金融システムに診断を下していた。負債が収入を超えていたのだ。ダリオ氏のヘッジファンドは、アメリカには、破裂する可能性のある8390億ドルの不良債権があると算定した。この数字を2007年の初期に米財務省に持ち込み、そのことが見過ごされていると警告した。

さらにダリオ氏は、大きな負債を抱えた国には、抜け出す道は1つしかないと説いた。公債と民間債を調達するためのさらなる通貨発行だ。通貨の価値を下げる以外にも、量的緩和は金利を押し下げ、投資家をより安全なヘッジ資産へと追いやることになる。

「歴史上、最終的に量的緩和を行い、通貨の価値を下げることにならなかった例は存在しない」と、ダリオ氏は2011年に「The New Yorker(ザ・ニューヨーカー)」に対して語った。(暗号資産の第一人者、メルテン・デミラース(Meltem Demirors)氏が言ったとしてもおかしくないような発言だ)

ブリッジウォーターの主力商品である「Pure Alphaファンド(通常の市場利益を超えた利益率から名づけられている)」は、2008年の危機に先立って、防衛的な構えをとっていた。米国債ではロングポジション、ドルは空売り、そして金やその他のコモディティを買っていた。

住宅市場が崩壊した時、ブリッジウォーターはその後に続く危機を乗り切る以上の実績を出した。Pure Alphaの2008年の利回りは約9.5%、2010年には45%、2011年には23%。平均的なヘッジファンドなら、マイナス利回りを出していたような時期である。2011年には、運用資産が危機の開始時の500億ドルから2倍の1000億ドルへと成長した。

ダリオ氏とサトシ・ナカモトの共通点

通貨の過剰について同じような見解を持っている人は、ダリオ氏以外にも存在した。ブリッジウォーターがドルを空売りしていたのと同じ頃、サトシ・ナカモトはビットコインをコーディングしていた。

最初のブロックには、ビットコインのミッションステートメントが含まれていた。「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks(タイムズ 2009年1月3日 首相は銀行への2度目の救済措置の瀬戸際)」こうして、世界初のハードキャップ(供給上限)を持ったデジタル金融ネットワークが誕生した。

かつて「ウォール街一の変わり者」と呼ばれたダリオ氏の異端的な考え方によって、彼のファンドは一流のポジションを維持している。1500億ドル規模の同ファンドは、より大きな資産が保証されているとは言い難い業界において、市場の期待を日常的に上回ってみせる。(ちなみにダリオ氏は、米ドルに対していつでも弱気な訳ではない)

一方のビットコインは、まったく異なる金融界の怪物であり、年率利回りは230%と、ここ10年間で最もパフォーマンスの高い資産となった。

ダリオ氏の世界観

ではダリオ氏は、なぜビットコインに対して悲観的な見方を持つのか?

当記事に対するコメントを拒否したダリオ氏は自らを、「ハイパーリアリスト」、すなわち世界を動かす根本的なメカニズムを理解しようと固く決意している人間と形容する。彼は歴史に関する著作を読み、感情に染まった思考に懐疑的で、社会全体に進化パターンを見出している。

彼にとって投資は、野生動物の狩猟と同じようにリスクの高いゼロ・サムゲーム。ただし優位に立つために備えることができるものなのだ。

苦労して学んだ教訓や格言をまとめたダリオ氏の著作『Principles(人生と仕事の原則)』は時に、「ダリオの道教」とも呼ばれ、「徹底的な透明性」を提唱している。ブリッジウォーターの新規採用者は全員、この本を読み、次のメッセージを自分のものにすることになっている。

「世界は理解可能であり、一部の人が他の人よりも正しいこともある」

会議は録音され、評価される。部下たちはボスに対して、こっそりとではなく、面と向かって率直に意見を言うことが奨励されると報じられている。(ダリオ氏は最初のボスの顔を殴ったことで有名だ)

このような真理を発見するプロセスへのコミットメントこそが、ビットコインに対してダリオ氏に目を開かせたものなのかもしれない。彼は金融について学ぶために、レディットやツイッターを活用している。

ここ数カ月で彼は、インフレ的な力が発生している中で、従来型の金融システムはバブルの域に達しつつあると公言した。ビットコインがインフレヘッジとして失敗したと以前に発言したにも関わらず、現在では、計画中の新たな代替キャッシュファンドに向けた「我々の精査をビットコインが逃れることはない」と述べている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:レイ・ダリオ氏(Bridgewater)
|原文:Ray Dalio, Wall Street’s ‘Oddest Duck,’ Shares the Bitcoin Mind