DeFiは名ばかりの「分散型」か?米SEC委員長が警鐘

SEC(米証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラー委員長は、8月18日付のウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューの中で、分散型金融(DeFi)システムは証券にまつわる規制の対象となり得ると語った。DeFiとは、イーサリアムをはじめとするスマートコントラクトブロックチェーンでトークンの取引を支えるシステムだ。

ツイッターやテレグラムで、多くの匿名ユーザーは、「DeFiを規制することはできない。分散化しているのだ」と主張したり、ゲンスラー委員長を「何も知らない悪者」のように非難している。

表向きだけの「分散型」

しかし実際には、暗号資産関係者の大半にとってはすでに分かり切っていることを、ゲンスラー委員長が口に出しただけだろう。「DeFi」の「De(Decentralized=分散型)」は多くの場合、まったく実態を伴わない言葉だということを。

事情に詳しい人たちは長年にわたり、(DeFiだけではなく)多くの暗号資産システムが、いわゆる「分散型のフリ」を演じているだけだと警告してきた。原則としてDeFiは、ビットコイン(BTC)のような純粋な暗号資産の耐検閲性と不可逆性を持つべきなのだが、そのようなケースはまれだ。

例えば、システムの中央集権的な管理者はしばしば、ハッキングを抑制したり、無効にするために介入する。先日のPoly Networkのハッキングの後には、中央集権型のチームによって、頻繁で直接的な介入が見られている。その中には、ハッカーに対する恩赦や、資産の返却の見返りに50万ドルの報奨金を申し出る判断も含まれた。

分散型のフリのもう1つの典型的な例は、システム管理のための非営利「財団」の設立だ。しかし、それは実際に起こっていることとは程遠い。

ゲンスラー委員長自身ではないが、ウォール・ストリート・ジャーナルが挙げたもう1つの例は、DeFiシステムのユーザーに対する「ガバナンストークン」の発行だ。

このようなトークンは名目上、システムがどのように管理されるかの決断について投票する権利をユーザーに与えることになっている。しかし、ブロックチェーン・クレジット・パートナーズ(Blockchain Credit Partners:BCC)などの一部の事例では、これは完全に計略だ。

SECは、BCCがガバナンストークンを発行しながら、実際には2人の人物によって運営されていたと主張している。他の事例では、ガバナンス権が実際に分配されながらも、行使されておらず、デフォルトで権力が少数の手に握られたままになっている。このような場合には、裁定を下すのはより困難だ。

分散型のフリの意図はしばしば、規制当局の目をくらませて混乱させ、システムが成長する、さらには利益を出すのに十分なほど規制の執行を遅らせることにある。

実態を見抜く目を持ったSEC委員長

ゲンスラー委員長は、その策略を見抜いている。ウォール・ストリート・ジャーナルに対して、「DeFi」という言葉は、「少し誤った」ものだと語り、その理由は「オープンソースソフトウェアなどのソフトウェアを書いているだけでなく、しばしばガバナンスや手数料を手にしている中核グループがいるからだ」と説明した。そして、「この中には、後援者やスポンサーなどに対するインセンティブの仕組みも存在する」と続けた。

理論的には、DeFiシステムに対する執行行為は、具体的な状況に応じで異なるだろう。純粋にコードベースでオープンソースなプラットフォームで、委員会ではなくコミュニティーが運営するものならば、訴追対象となる中心的人物も、シャットダウンするための「オフスイッチ」も存在しないはずなのだ。

ゲンスラー委員長はこの違いを確かに理解しているようであり、そのことは、本当に分散型のDeFiシステムにとっては大きな恩恵だ。しかし、今与えられているインセンティブを見ると、本当に分散型のDeFiというのはおそらくまれというのが、受け入れ難いかもしれないが現実だ。

DeFiシステムの設計と維持には多くの労力を必要とし、リスクも高いが、その仕事をした開発者たちにシステムの利益を還元すること自体が、分散型という主張を揺るがすだろう。

結局のところ、現状のDeFiは、自ら作ったものを世界に差し出し、手放して勝手にさせたサトシ・ナカモトのような人たちによって立ち上げられたのではないということだ。大抵の場合、生みの親たちはとどまって利益を懐に入れたり、バグを修正したりしており、その報いはいつか、必ずや巡ってくることになるだろう。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(CoinDesk)
|原文:Gary Gensler Isn’t Buying Your Decentralization Theater
|編集部より:記事中のテゾスに関する記載は、原文の更新に基づき、削除しました。