NFTマーケットプレースの復活に見る分散型インフラの意義

NFTマーケットプレースの復活に見る分散型インフラの意義

NFT(ノン・ファンジブル・トークン)マーケットプレースの「Hic et Nunc」が先週、説明もなく突然、運営を停止した。関連するURLはすべて壊れており、公式ツイッターアカウントのプロフィール欄には、「運営停止」という冷たい言葉が表示されていた。

コミュニティーはパニックに陥った。あるユーザーは「情けない」と語り、別のユーザーは「NFTはお終りだ」と嘆いた。ウェブサイトが機能していない状態では、NFTにアクセスできなくなるのでは、という懸念が広まったのだ。

「11日から12日にかけて起こったことで明らかになったのは、ほとんどの人がNFTの仕組みを理解していないということだ」と、アートに特化したテック企業バスタリ(Vastari)の創業者、バーナディン・ブレッカー・ウィーダー(Bernadine Bröcker Wieder)氏は語る。「フロントエンドがダウンしたことで、人々はすべてを失ったと考えていたのだから」

現実はそれほど単純なものではない。ウェブサイトは無くなったが、データの大半はすでにテゾス(Tezos)というブロックチェーンに、コードはオープンソースの開発プラットフォームGitHubに存在するため、ある程度暗号化された状態ではあるが、生データにはアクセスできる状態だ。

今回の事態は、図らずも分散型インフラにとってのストレステストとなった。NFTは救い出すことができるが、そのためにはコミュニティーによる努力が必要となる。

「分散型」インフラとは?

「分散化」とは、とりわけウェブ3.0と結びつけられることの多い流行語であるが、その正確な意味を忘れてしまいがちだ。理論的には、いわゆる「分散型」インフラは、ブロックチェーンそのものの構造についてのことである。各マイナーが、台帳の完全で独立したコピーを保管し、データが単独の保有者の手の中で「中央集権化」されて握られていないのだ。

インターネット上のデータについての、私たちに馴染みのある理解とは正反対である。アマゾンが今、クラウドコンピューティングネットワークを停止させると決断したら、インターネットの3分の1は回復不可能になってしまう。

一方、真に分散化されたウェブサイトは、ブロックチェーンからしかデータを引き出さない。そのようなウェブサイトがダウンしても、生データは回収可能なのだ。

しかし、現実には「分散型」はおおむね、「暗号資産関連」を手っ取り早く表す表現となってしまった。分散化という本当のアイディアに100%コミットすることなく、より堅固なシステムといううわべを装って投資家を引き寄せるための方法となっているのだ。

この傾向はとりわけ、実質的にメディアファイルを指し示すデータに過ぎないNFTに関して、顕著である。NFTの元となっている画像ファイルが企業のサーバーに置かれていて、その企業が破綻した場合、それを取り戻せる保証はないのだ。NFT(つまり、それがあなたのものであることを示す文字と数の羅列)は「保有」しているが、画像そのものは消失する可能性がある。

今回問題となった「Hic et Nunc」は、開発者ラファエル・リマ(Rafael Lima)氏の発案物であり、彼がテゾスブロックチェーン上にゼロから築き上げたものだ。彼は事実上、中央集権的権威であった。

しかし、このプロジェクトに見切りをつけると彼が決断した後、DNSというベンチャーキャピタルの支援を受けた暗号資産企業が、新しいトップレベルのドメインを使ったミラーサイトを作ることを決意した。ドメイン名は「hicetnunc.xyz」から「hicetnunc.art」となった。

14日には、新しいドメインの管理権限がコミュニティーメンバー、ジョセフ・マグリー(Joseph Magly)氏にわたった。Manitcorと呼ばれるマグリー氏は、リマ氏が元のサイトを維持するのをサポートした開発者である。

新しいウェブサイトは、古いものとほぼ同じに見え、基礎となるスマートコントラクトも同じものを利用しているため、クリエーターたちは新たにHic et NuncのNFTを作ったり、取引したりできる。

既存のNFTに紐づけられた画像も、メディアファイルがIPFS(InterPlanetary File System)と呼ばれる保管システムに保存されているため、まだ利用可能である。IPFSでは、データをブロックチェーン上に直接移し替えるのだ。

「(リマ氏は)元のファイルでIPFSを使っているため、間に奇妙なURLが挟まることはない。そのため、Hic et Nuncがダウンしても、NFTには影響がない」と、ブレッカー・ウィーダー氏は説明した。

NFTと分散化

これこそが、中央集権的権威にますます不信感を抱く暗号資産純粋主義者たちが、すべてを「オンチェーン」にしておきたい理由なのだ。しかし、現在人気の高いNFTマーケットプレースの多くはそうではなく、中央集権的な仲介業者を通じてファイルを実行する(コストを抑えるため、あるいはエンジニアリングの観点からよりシンプルにするため)ことを選んでいる。

NFTアーティストBeepleにとっての出発点となった、ウィンクルボス兄弟が所有するマーケットプレース、ニフティ・ゲートウェイ(Nifty Gateway)は、ファイル自体がブロックチェーン上にないという点で「中央集権化」されたプラットフォームである。ウィンクルボス兄弟がサーバーを削除する決断をすれば、NFT保有者たちが画像を取り戻すのは困難となる。

もちろん、新バージョンのHic et Nuncが完璧だという訳でも、分散化が常に答えだと言っているのでもない。そんなことはないからだ。

チャットソフトウェア「ディスコード(Discord)」上のコミュニティーでは、混乱が続いている。誰が新しいサイトの責任者となるべきか、誰も確信が持てていないが、DAO(自律分散型組織)によって集団で運営するべきと提案する人たちもいる。

NFTは、法的権利を授けるものでもなく、無くなってしまう可能性もあるため、所有権として万全からはほど遠い。しかし少なくともこれまでのところ、Hic et NuncのNFTは無くなってはおらず、単に新しい人たちの管理下に置かれただけだ。

元のHic et Nuncプラットフォームに携わったアーティストで開発者のビオレタ・ロペス(Violeta López)氏は、新しいサイトの在り方について不満を明らかにした。

「オープンソースプロジェクトとして始まったものが、クローズドソースのコピーになってしまった」と、ロペス氏は述べる。「自らのウェブサイトに外部ツールをホストするのではなく、なぜ外部の開発者がレポジトリをフォーク/クローンして、独自バージョンのサイトを作ることができなかったのか?」

これは的を得た指摘だ。DNSは、Hic et Nuncのミラーサイト用のコードをオープンソースとしたが、サイトへの新しい機能や改善は実質的に、新しい中央集権的存在Manitcorの手に握られている。現時点では、新しいHit et Nuncがオリジナルバージョンのような気風を残すのかは不透明である。

「私は基本的に、コアコントラクト以外のすべてをコントロールしている。つまり、ラファ(リマ氏)の手にいまだに手数料が集まるということだ」と、Manitcor氏は説明する。「現時点では、コミュニティーが組織されるか、ラファがプロジェクトを取り戻したがるか、見極めようと待っているところだ。片方、あるいは両方が起こり得る」

分散型データによるウェブサイト復活

ウェブサイトが生まれては無くなっていくのは、インターネット界ではよくあることだ。廃止されたり、リンク切れが起こる。しかし、分散型データ構造が、長い時の流れの中で失われてしまったサイトに何をもたらせるかについて、考える価値はある。

数年にわたって更新が停止されていた「The Awl」という人気ブログのサイトが先週、インターネット上から消えてなくなった。Hic et Nuncと同様、すべてのリンクが突然機能しなくなったのだ。

「繰り返される支払いはすべて、いつしか繰り返しをやめる」と、同サイトの共同立ち上げ人の1人、クワイア・シチャ(Choire Sicha)氏はツイートした。

クラウドストレージ企業に毎月の支払いをするだけで良いのなら、The Awlは復活するかもしれない。しかし、同サイトの投稿が分散化されていれば、ユーザーは待つ必要すらなかったのだ。独自のフロントエンドで、サイトを複製することができたはずだから。

暗号資産ベースのブログプラットフォーム「ミラー(Mirror)」はすでに、このような取り組みを進めており、ユーザーのデータをIPFSの代替オプションである「Arweave」に保管している。

「クワイア氏:仕込みに長い時間をかける大掛かりな詐欺の最終ステージだろう?(サイトをホストする人が必要ならば、自分がホストできるというツイートに対しての返信)

jake dobkin:ブログを始めたら、永遠に生かし続けておく責任がある。あなたが死んだとしても、あなたの子孫が未来永劫にわたって運営を続けなければならない。始めた時に、このルールを知っていたはずだろ」

もちろん、誰でもサイトをクローンすることはできる。しかし、新しいAwlは「本当の」Awlだろうか、それとも、新たな企業の庇護のもとで展開される「Awlプライム」的なものに過ぎないだろうか?

中核的な読者層と合わない価値観を持った企業がしゃしゃり出て、新しいフロントエンドを作ることにしたらどうなるだろう?

分散型インフラによって、個人所有のサーバーではなく、ブロックチェーン上にデータが保存されたクローンウェブサイトが実現するかもしれないが、コントロールの問題への答えは出ない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What Hic et Nunc’s Resurrection Says About Decentralized Infrastructure

おすすめ記事: