ビットコイン 、実は大きな調整を回避していた【Krakenリサーチ】

ビットコイン(BTC)にとっては、確かに失望の11月だったかもしれない。同月のビットコインのリターンはマイナス7%で、過去の11月平均値のプラス48%と中央値のプラス15%を大きく下回った。それどころか、2011年以降で3番目にパフォーマンスの悪い11月を記録した。

(出典:Kraken Intelligence「月毎のビットコインのリターン」)

しかし、クラーケン・インテリジェンスの分析によると、11月のビットコインは、より大きな調整に直面していてもおかしくない状況だった。11月中旬以降のマーケット全体の急落により、ビットコインは重要なサポートラインを下回り、弱気相場に突入する危機に陥っていた。

下のグラフは、ビットコインの強気相場をサポートレンジを示している。ビットコインは、歴史的に20週指数平滑移動平均線(EMA)と、21週移動平均線(SMA)が重要なサポートとして機能してきた。2つのサポートから反発すると、新たな上昇トレンド入りを示唆し、逆に2つのサポートを下回ったら強気相場の終わりを意味する可能性が高い。

(出典:Kraken Intelligence「20週指数平滑移動平均線(EMA)と21週移動平均線(SMA)」)

11月の安値である5万3300ドルと、上方のサポート(EMA)が一致している。今回は、そこから反発したため、まだ強気相場が終わったとは言えないだろう。11月の下落とは、典型的な強気相場における20%の調整だったと言えるかもしれない。

また、ビットコインが安値である5万3300ドルをつけた頃、ビットコイン先物の建玉が急増していた。

(出典:Kraken Intelligence「ビットコイン先物の建玉(赤い棒グラフ)と資金調達率(funding rate)(青い折れ線グラフ)」)

建玉とは、先物取引で未決済のまま残っている約定のことだ。建玉の増加は新たな先物契約が増え、先物市場にマネーが流入していることを意味する。

11月10日にビットコインが6万9000ドルの過去最高値をつけた後、値を崩す中で建玉が急増し、価格は過去最高を記録した。「レバレッジ解消によるストップロスの連鎖により、ビットコインが一段安となる」と推測した投資家が増加した可能性がある。

11月終了時点で建玉は382億ドル。比較的に高い水準ではあるが、過去最高からは大幅に減少した。ビットコイン相場に致命傷を与えずに、弱気予想に基づいたレバレッジ取引の過熱感が一旦は落ち着いたと考えられる。

コロナショック再来に警戒

今後のビットコインを予測する上で注目しているのは、やはり新型コロナウイルス変異種の「オミクロン」の影響だ。現時点では、オミクロンがどのくらい脅威を持つ変異種なのかは分からないが、米国などによる一部の国からの海外渡航禁止の発表によって、2020年3月の世界同時株安「コロナショック」を思い出した人も多いのではないだろうか。

(出典:Kraken Intelligence「ビットコインとリスク資産の相関関係」)

2020年3月12日、伝統的な金融市場が総崩れになる中、ビットコインは1日で最大70%以上も値を下げた。

上記のグラフが示す通り、リスク資産である株とビットコインの相関関係は、現在は正の相関関係を示しているが、歴史的に安定していない。オミクロンが与える世界経済への影響を嫌気して株価が崩れれば、2020年3月と同じように株価とビットコインの相関関係が強まり、ビットコインを始めとした暗号資産(仮想通貨)市場に余波が出る可能性には警戒が必要だろう。


千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)代表──慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社し、2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。

※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。


|編集・構成:佐藤茂
|トップ画像:Shutterstock