ビットコインと現在のインフレ、その起源をたどる【コラム】

現在の経済が、かつてないほどの窮地に追いやられているという訳ではないが、急速な変化の時にあるのは確かだ。

高まるインフレ

米労働統計局は12日、3月の消費者物価指数を発表。前年比で8.5%上昇と、40年ぶりの伸びを記録した。つまり私たちは、ほとんどあらゆるものに対して、より多くのお金を支払っているということだ。

これにはしっかりとした理由がある。世界のサプライチェーンはひどく混乱しており、港も混雑。経済を動かす原油や天然ガスは、ロシアとウクライナの戦争を一因として、値上がりを続けている。

一方、より異端的な見方では、外因的な要素よりも通貨に注目する。世界に衝撃を与えた新型コロナウイルスに対処するために、アメリカは2年間で1世紀分にも相当するドルを増刷したのだ。

「アメリカ経済とFRB(米連邦準備制度理事会)にとっては、この先数年間、あるいはそれ以上の長きにわたって、非常に困難な時期となる」と、カンザスシティ連邦準備銀行元総裁で、現在はリバタリアン寄りのシンクタンク「メルカトゥス・センター(Mercatus Center)」のフェロー、トーマス・ホーニグ(Thomas Hoenig)氏は語った。これは、2月に発表された、金融情報サイト「マーケットウォッチ(MarketWatch)」とのインタビューの中での発言だ。

FRBは現在、インフレに対処するために金利を引き上げるという約束を守らなければならない厳しい立場にある。様々な金融資産のバブルを崩壊させ、さらなる痛みを引き起こすリスクを冒さずに、金利を引き上げなければならないのだ。

株式から住宅、暗号資産からヨットまで、FRBがドルを増刷している間に、あらゆるものが値上がりした。

私たちは巨大な通貨実験の時代に生きていると、はっきりと言ってしまえる人は多くない。この通貨実験の中には、FRBの超ハト派的な低金利政策から、通貨の発行を一貫して予測可能、確定的なものにするビットコイン(BTC)のような代替通貨システムの導入なども含まれる。

現在のインフレ危機に対する簡単な答えや、痛みの伴わない解決策は存在しないが、今は過去の決断の結果であるということを、忘れてはならない。

量的緩和政策

ホーニグ氏は変わり者、異端の思想家だ。穏やかな物腰の同氏は2010年、FRBが民間銀行から金融資産を購入し、経済に資本を溢れさせる量的緩和と呼ばれる斬新な通貨実験に唯一反対して、その名が知られるようになった。

当時はまったく奇抜であった政策に反対しただけで、ホーニグ氏は「終末の預言者」と呼ばれてしまったのだ。

2008年の金融危機からわずか2年ほど、当時のバーナンキFRB議長は、量的緩和を通じて米経済の回復を加速させようとしていた。FRBは危機の真っ只中でも量的緩和を使ったが、バーナンキ元議長は2010年、長期的な介入を模索していたのだ。

量的緩和において、FRBが銀行に支払うお金は、失業者のために新しい雇用を生み出すのを助けるよう、再投資や貸付に回されることが意図されている。しかしこのお金は、興味深い形で金融に作用するのだ。

量的緩和政策のもとでは、FRBは主に、米国債を購入。米国債は一般的にリスクフリー投資とみなされており、金融機関が資金の保管のために使っている。

量的緩和によって、米国債が市場からなくなるために、米国債はより割高となり、銀行はよりリスクの高い投資へと追いやられる。現在の通貨政策は、10年前の政策の延長と考えられるだろう。

当時任期終了を間近に控えていたホーニグ氏は2010年、FOMO(連邦公開市場委員会)で唯一、長期的介入に反対した。量的緩和がゆくゆくは経済を不安定にし、インフレにつながることを恐れたのだ。銀行によるよりリスクの高い貸付を奨励することで、FRBが資産バブルを生み出すことを、懸念していたのだ。

短期的な量的緩和の影響について、ホーニグ氏の見解が正しかったのかどうかについては、議論が分かれている。新型コロナウイルス登場までの10年間は、失業率もインフレ率も低かった。しかし、ここ10年間で資産バブルが拡大し続けてきたという考えは、明らかに正しいと言えそうだ。

ビットコインと通貨実験

暗号資産はそのようなインフレ環境の一部であると同時に、仲介業者なしの金融システムに向けて、新しい道のりを切り開いてもいる。特にビットコインは、中央銀行の政策によって価値が下がることのないような、グローバルな準備資産になろうとしているのだ。

素晴らしい目標だが、暗号資産(仮想通貨)エコシステムが、高金利と低レベルの介入を伴った伝統的金融システムと並んで機能するところを、私たちはまだ見たことがない。銀行が預金に対してしっかりと利子を払ってくれたら、代替資産クラスに頼る人たちはより少なくなる、ということも考えられるのだ。

ホーニグ氏は現在、「体系的かつ一貫した」形で、FRBが金利引き上げをしっかり実行するよう求めている。しかし同時に、FRBが煮え切らない態度をとるだろうとも予想している。

「インフレ率が高まれば、各国の中央銀行、特にFRBに対して、金利引き上げによって対処するよう求める圧力が高まる」と、ホーニグ氏は語った。問題は、それがほぼ確実に「経済刺激策を無効にするような影響」を生むことだとも、ホーニグ氏は言う。

アメリカでも最も強力な組織の1つであり、通貨の門番であるFRBを、経済活動をデフレ環境へと切り替えようとする新興金融システムのビットコインと並べて語るのは無作法かもしれないが、共通点があることは注目に値する。

10年前、FRBは現在にも続く素晴らしい通貨実験を始めた。ビットコインも、同じ頃に生まれたのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin and Today’s Wicked Inflation Share a Common Ancestor