バイデン政権がまとめたステーブルコイン報告書の大きな誤り【オピニオン】

バイデン政権がまとめたステーブルコイン報告書の大きな誤り【オピニオン】

ジェイミー・リー・カーティスやエディー・マーフィー、ダン・エイクロイドには失礼だが、金融市場をめぐる映画の最高傑作は、『大逆転』ではなく、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』だ。

この映画は、知識の限界についての次のような格言で幕を開ける。「知らないということが問題なのではない。知っていると思い込んでいるが、本当はそうではないことが問題なんだ」

2008年の世界金融危機の原因を、このように説明できると同意するかどうかは別として、この格言には隠された皮肉が潜んでいる。

この格言は、映画ではマーク・トウェインの言葉とされているが、証拠はない。この格言、あるいはそれに似たものが最初に登場するのは1747年。英国で出版されたペルシャの歴史についての本の中である。その後、19世紀中期のユーモア作家、ジョシュ・ビリングスが少し違う形で使っている。

知識の限界についての映画を、誤った引用元を提示した知識の限界についての格言で始めることの、意図的ではないこの皮肉が最近、ステーブルコインをめぐる戦いが展開するのを見ている私の頭に浮かんでいる。

FRB(米連邦準備制度理事会)と大統領作業部会によるステーブルコインに関する報告書は、金融危機に対する対応と呼応しているのだ。

ステーブルコインがもたらすリスク

銀行規制当局は当然ながら、2008年の二の舞の不安に取り憑かれている。

銀行規制当局とより進歩的な議員たちの間での、2008年の金融危機の原因に関する支配的な見解は、2つの要素からなっている。

(1)金融イノベーションによって、30年住宅ローンという、理解しやすいはずのものが、複雑過ぎて消費者には理解できないものとなった。(2)銀行規制当局は、返済能力を持たないローンを組むことから消費者を守ることができず、リスクが積み重なって、グローバル金融システムが壊滅しそうになった。

そのような観点から見れば、FRBとバイデン政権がステーブルコインに急に関心を寄せていることも、納得がいく。暗号資産(仮想通貨)に対する消費者の関心は長年にわたって、問題なく無視されてきたが、暗号資産エコノミーと銀行システムの間の架け橋が現れると、事態は変化した。

その架け橋とはステーブルコインであり、銀行システムにとっては、2種類のリスクを生む。

まず、ステーブルコインの準備資産はしばしば、銀行預金という形で保有される。次に、銀行預金として保有されていない場合、準備資産はしばしば、銀行やその他の体系的に重要な金融機関が保有する証券、例えば国債や短期コマーシャルペーパーの形で保有される。

つまりステーブルコインは、暗号資産の価値の突然の下落が、実際の銀行システムに影響を与えるようなリスクを生み出すということだ。

銀行はどう備えるべきか?

ステーブルコインがもたらす問題への明らかな解決策は、中間的存在の排除だ。ドルの代理になるようなデジタル版商品を生み出す代わりに、デジタルドルを作れば良い。残念ながら、このような潜在的リスクに対して、大統領作業部会が提案した対応は、あまり理に適っていない。彼らは、銀行にステーブルコインの独占的発行権を与えるような法律を、議会が可決することを提案したのだ。

アメリカの銀行は、支払いや投資のために企業や個人がお金を使えるようにすることにおいて、独占的な地位を築いている。これは時に「便宜プレミアム」と呼ばれる。

テクノロジーが、何十年にもわたって、このプレミアムを少しずつ削り取っている。暗号資産もその一例だが、唯一のものではない。ペイパル、スクエア・キャッシュ、その他のピアツーピア通貨移動システムによって、人々は銀行口座を介さずに、支払いのやり取りができる。

経済誌『フォーブス』の中でベンチャーキャピタリストのマット・ハリス(Matt Harris)氏が指摘した通り、前述の諸企業が完成させたテクノロジーは非常にすばやく、世界中の企業や個人が即座かつ安価に資金を展開することを可能にしている。これによって銀行規制当局は、企業や個人が財産を銀行に確実に保管させるようにすることが困難になっている。

私はマット・ハリス氏とは異なり、2040年までに法定通貨がなくなるとは考えていない。19年後にも、税金を法定通貨のドルで納めていることに確信を持っている。さらに、同じように法定通貨で住宅ローンを払っていることにも自信がある。しかしマット氏と同じく、そのような支払いの間で、資産は幅広い投資の機会をまたいで動き回るようになると考えている。

そのよう投資機会は、ドル建てのものもあれば、そうでないものもあるだろう。アメリカの銀行規制当局は、法律によって、すでに起きている事態を無理矢理なかったことにしようとするべきではない。

むしろ、企業や個人が資産を銀行に預金して得られる金利をあきらめる代わりに、別の方法で支払いをしたり、リスクフリーなリターンをどこか別のところで追及する選択ができる世界に自ら備え、各銀行にもそのような備えを整えさせるべきだ。

格言の通り、銀行が支払い分野を支配し続けるというのは、現実に即さない思い込みだ。だとしたら、ステーブルコインに対する管理権を銀行に与える必要はあるだろうか?

トム・ブラウン(Tom Brown)氏はベンチャーキャピタルNycaパートナーズでパートナーを務める。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ジョー・バイデン米大統領(BiksuTong / Shutterstock.com)
|原文:The Big Miss in the Biden Administration’s Stablecoin Report

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