イーサリアム「The Merge」はスケーリング問題を解決しない──注目されるレイヤー2の役割

イーサリアムブロックチェーンは4月12日、メインネットで初の「シャドーフォーク」、つまり、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行に向けたストレステストを実施し、PoS移行のための大規模アップデート「The Merge」に一歩近づいた。

The Mergeは当初予定されていた6月ではなく、「数カ月後」になるようだが、PoS移行への期待は高まっている。だが、イーサリアムブロックチェーンが抱える問題が、The Mergeですぐに解決されるわけではない。

この注意点は、この話題に詳しい人には明白なことだが、PoSへの移行ロードマップの変更、複雑な用語などのために、The Mergeの意味を正確に把握することは難しくなっている。

高い取引手数料をどう解決するか

ユーザーにとって、現在のイーサリアムブロックチェーンの最も大きな問題は、高い取引手数料だ。Etherscanによると、NFTマーケットプレイス「OpenSea」でNFTを購入したり、分散型取引所(DEX)「ユニスワップ(Uniswap)」で暗号資産を取引するといった単純な行為でも、現在、取引手数料は30ドル(約3800円)を超えてしまう。

ガス代と呼ばれる取引手数料は、取引を検証するマイナーへの報酬に使用されている。イーサリアムブロックチェーンが混雑すればするほど、取引手数料は高くなる。そしてPoS移行後も、「バリデーター」(PoSでは「ステーカー」と呼ばれることもある)に同じように手数料を支払う必要がある。

覚えている人は少ないかもしれないが、イーサリアムブロックチェーンのPoSへの移行は、当初、別のアップデートとセットになっていた。「シャーディング」だ。シャーディングは、簡単に言うと、ブロックチェーンを分割して取引の処理を同時並列的に行うことで処理能力を高め、取引手数料を削減する。

だが、シャーディングの導入はしばらく後になる。PoSへの移行を優先するため、シャーディングはThe Mergeの後まで延期され、現在は2023年中に予定されている(しかも、予定は延期されがちだ)。

The Merge vs レイヤー2

シャーディングが延期されたことで、イーサリアムコミュニティの焦点は、イーサリアムブロックチェーンそのものから、ロールアップのような「レイヤー2」ソリューションに移った。

取引処理をイーサリアムブロックチェーンではなく、互換性を持った外部のブロックチェーンに移して行い、結果のみをイーサリアムブロックチェーンに戻す手法だ。ベースとなるイーサリアムブロックチェーンに対して、こうしたブロックチェーンを「レイヤー2」と呼ぶ。

Arbitrum、Optimism、Loopringなどの主要レイヤー2は、安価な取引手数料で人気を集めている。その結果、レイヤー2のTVL(Total Value Looked)は数十億ドルにのぼり、「レイヤー2業界」と言えるような状況が生まれている。

Arbitrumは最近、アップデートが注目されたが、Arbitrumの開発元Offchain LabsのCEO、スティーブン・ゴールドフェダー(Steven Goldfeder)氏は、スケーリング(ブロックチェーンの拡張)は1回のアップデートや改善では解決できない「長期的課題」と強調した。

「ほとんど『いたちごっこ』みたいなもの。1億ユーザーの取引を処理できるところまでスケーリングできとしても、すぐに10億ユーザー、20億ユーザー、100億ユーザーの取引をどう処理するかという問題になる。進歩し続けなければならない」

The Mergeはイーサリアムブロックチェーンにとって、環境への影響を劇的に改善する大規模アップデートとなる。だが、ソラナ(Solana)ブロックチェーンのような高速で安価なブロックチェーン、いわゆる「イーサリアム・キラー」に、イーサリアムブロックチェーンからシェアを奪う余地を与えている大きな問題が突然解決するわけではない。

最終的にシャーディングが導入されたとしても、イーサリアムブロックチェーン全体のアップデートには常に時間がかかる。イーサリアムブロックチェーンの持続力を左右するのは、レイヤー2のイノベーションになるだろう。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Unsplash
|原文:Reminder: The Merge Won’t Solve Ethereum’s Scaling Woes by Itself