イーサリアムの未来は、理想からは乖離しても明るい【コラム】

テクノロジーエコシステムは、そのテクノロジーがユースケースとマッチし、本当に大切な問題を解決するときに、軌道に乗る傾向がある。テクノロジー自体が多少お粗末なものであっても、大丈夫だ。

逆に、プラットフォームが幅広く利用可能な場合、理想的にフィットするものでなくても、新しいユースケースが生まれてくることがある。同じことが、イーサリアムでも見込まれる。

テクノロジーとユースケース

これには、身近な例が存在する。インターネットはデータ送信には素晴らしいネットワークだが、タイムリーに届けるのは苦手である。パケットはあらゆる方向に送られ、めちゃくちゃに届く可能性が高い。システムは効率的だが、必ずしも高速であるように作られてはおらず、タイミングが大切なビデオコンテンツと、文書のみのEメールを区別するようにも作られてはいない。

初期のインターネットユーザーや開発者たちが、ネットワーク上でのリアルタイムでのビデオ会議などというアイディアを聞いたら、ゾッとしていただろう。ネットワークはそのような目的のためには作られていないと言って、その代わりに帯域幅と利用可能性を保証する回線交換方式のシステムを使うよう勧めたはずだ。

ユーザーが突然消えたり現れたり、音声が切れたり、ビデオが停止するなど、インターネットのトラフィックモデルの欠点を、私たちは毎日のように経験している。しかもマーフィーの法則のおかげで、そのような問題が起こるのは、あなたがとりわけ賢い発言をしたり、面白いジョークを言った時なのである。

それなのになぜ私たちは、パンデミックの中で1日に8時間もビデオ通話に時間を費やすこととなったのだろうか?その答えは、インターネットはポケットや家の中に毎日持っているネットワークであり、コンピューターやスマートフォンなどの汎用のプログラム可能なデバイスにつながっているからだ。

最適からはほど遠いが、既存の回線交換式電話ネットワークを修理して、ビデオ通話やメディアのストリーミングに対応してもらうよりははるかに簡単だ。

このパターンが、イーサリアムでも繰り返すと、私は考えている。現在何百万人ものユーザーがブロックチェーンウォレットとアカウントを持っている。彼らはステーブルコインや暗号資産(仮想通貨)を持ち、デジタルコントラクトにアクセスしている。

彼らは、新しいものを試す意欲を示した投資家と買い手の市場を形成している。それは、理想的に分散化されたユースケースにブロックチェーンテクノロジーを活用するよりも、重要になるかもしれない。

中央集権型エコシステムでの方が良く実行されるが、代わりに分散型パブリックブロックチェーンでローンチされることになる新たなユースケースが、かなり生まれてくることになるだろう。私のクライアントと話す中でも、このような話題が上がる。

ある意味では、すでに起こっていることだ。多くの人がNFT(ノン・ファンジブル・トークン)を購入し、NFT以外には何も所有していないと気づいているように。NFTを「保有」することは、著作権を保有することを意味しない。オンラインで「購入」した音楽を「保有」するのではないのと同じこと

2つの予測

ユースケースがどのように進化していくかを予測することはできないが、イーサリアムの将来がどのように変わっていくかについて、2つの予測をすることはできる。

まず、私はかつて、クライアントが提案するユースケースを、それが分散型テクノロジーとどのようにフィットするかで徹底的に評価していた。フィットしない場合には、そのブロックチェーンへと配備することに抵抗があった。どう考えても、分散型アプリケーションよりも中央集権型のものを開発する方が、スピーディーで安価だ。今はもう、そんなことはしていない。価値提案は今や、何千億ドルもの最先端の投資マネーへの市場アクセスだ。

次に、イーサリアムを中核的な機能を超えて引き伸ばすユースケースが進化するに伴って、インターネット同様、そのようなユースケースをサポートするような特別なルールやシステムが進化していくだろう。

コンテンツ配信ネットワーク、広告ネットワーク、MPLS(マルチプロトコルラベルスイッチング)ルーターはすべて、インターネットが膨大な音声やビデオに対応することを助けるために登場したのだ。

同じような事態が、ブロックチェーンエコシステムでも起こるだろう。自律分散型組織(DAO)やNFTエコシステムの開発を助けるために生まれたスタートアップが、すでに膨大に存在している。さらに多くが登場してくるはずだ。

イーサリアムエコシステムに関わっている、私を含めた理想主義者たちにとって、これから伝えることは、耳が痛いかもしれない。インターネットは、歴史上最も成功したネットワークであるが、初期の理想からはほど遠いというのが現実だ。

規制、国境、安全ではないセキュリティシステム、個人情報を流出してしまう「プライバシー」テクノロジーによって、ズタズタになっている。出発点であったグローバルのバリアフリー分散型ネットワークに比べれば、お粗末なものだが、もう後戻りはできない。

ソフトウェアが世界を飲み込んでいる。イーサリアムはグローバル経済を飲み込むだろう。それは私たち全員を、私たちが共有する将来に関して、より大きくより優れたステークホルダーにしてくれるだろう。

しかし、そのような成長の代償は、分散型で完全にオープンな、出発地点での理想からのゆっくりとした乖離となるはずだ。メリットはそのようなデメリットを上回るが、慎重にデザイン上の選択を行えば、そのような乖離から受けるダメージは限定的となるだろう。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Future of Ethereum Sucks, and I Feel Fine