暗号資産で台無しにしかけた人生:【元依存症患者インタビュー】

1日に何回ぐらい暗号資産(仮想通貨)の価格をチェックするだろうか?暗号資産についてのツイッター投稿をどれくらい頻繁に読んでいるだろうか?人間関係に影響が出ているだろうか?仕事に身が入らなくなってしまっているだろうか?

率直に聞くならば、あなたは暗号資産依存症にかかっているだろうか?

ギャンブル中毒の一種

ありがたいことに、ほとんどの人にとって、治療や深い内省を必要とするような完全な暗号資産中毒に陥ることはまれだ。しかし時に、深刻な事態に発展することもある。人生が台無しになることもあるのだ。

タイにあるドラッグやアルコール中毒の治療施設「ザ・ダイアモンド・リハブ(The Diamond Rehab)」のテオ・ド・フリース(Theo de Vries)氏は、暗号資産の中毒患者を治療した経験を持つ。

正確に言うと、暗号資産と何か他のものへの依存が組み合わさっていることが多い。「例えば、コカインと暗号資産の中毒だからといって問い合わせが来る」と、ド・フリース氏は語り、「他にも、『アルコール中毒で、暗号資産の問題も抱えている』と言ってくる人もいる」と続けた。

暗号資産中毒とはすなわち、ギャンブル中毒だ。「同じように治療する」と、ド・フリース氏も説明する。ギャンブルを「バカバカしい中毒」と片付ける人もいるが、深刻な場合には、「あらゆる依存症の中でも自殺率は最も高い」と、ド・フリースは指摘する。

一般的な話は、ここまでにしよう。暗号資産中毒が人生にどんな影響を与えるか、そのありのままの厳しい現実を伝えるために、ド・フリース氏の元患者の1人に話を聞いた。彼は38歳で、幼い2児の子供の父親だ。マーケティング会社を経営しており、匿名での取材を希望した。

注:インタビューは要約され、読みやすいように編集されている。

依存症への道のり

──ことの始まりは?

2016年にイーサリアムについて耳にして、大量に買った。今度は友人が、それ以外の多くの暗号資産にごっそりと投資した。私もすごくワクワクしてしまい、アルトコインを買い始めた。気づいた頃には、毎日毎日四六時中、次なる新コインを見つけ出すことに全力を傾けるようになっていた。

──デイトレーディングをしていたのですか?

トレーディングをしたことはない。プロジェクトへの投資といった感じだ。しかし1日中、新規プロジェクトを調査していた。あらゆるフェイスブックグループに参加し、他の人と情報交換をした。私は技術畑の人間ではないので、どんなことでも、学ぶのには多くの時間がかかり、イライラもさせられた。手に負えないと感じたこともあるが、それでもなんとかなっていた。

──どのような感じでしたか?

日々の仕事に支障が出始めていた。しかし、あらゆる暗号資産が値上がりしていたので、かなりの利益も出ていたのだ。恋人には、「パソコンと睨めっこしてばっかりだけど、1日中何をしているの?」と聞かれた。それでも私は、問題はないと感じていた。振り返れば大丈夫ではなかったのだが、その時は大丈夫に感じられたのだ。

──事態が変化していったのはいつ頃ですか?

ハッキングされたんだ。慎重さに欠けていた。(暗号資産ウォレットの)Ledgerを買ったんだが、一度も開けることなく、保有する資産はすべて、オンラインのMyEtherWalletに保管していた。ハッキングされて、ほとんどすべてを失ったんだ。

──被害額はどれくらいだったのですか?

当時、数十万ドル相当だった。

──お気の毒です。聞くことが憚られるのですが、つまり今の価値では、数百万ドル相当ということですか?

その通りだ。

──それは本当に、大いなるダメージですね。

ああ、そうだ。(長い沈黙)しかも、我ながらバカだな、と。人から「オンラインウォレットに全部保管しておくな」と警告されていたんだ。それなのに、面倒くさがってしまって。他の人にとっては、良い教訓となるかもしれない。暗号資産セキュリティに、しっかりと時間をかけるように、と。

──これまで聞いたところでは、暗号資産に多くの時間をとられていたようですが、ハッキング以外では、人生に大きな問題を引き起こしてはいなかったようですが。その後は何が起こったのですか?

本当に、手に負えなくなったんだ。失ったお金を取り戻そうと、次なる大物コインを見つけるのに必死になった。

──100倍になる次なるコインですか?

そうだ。もう夢中だった。数百ドル投資するだけでは済まないのは分かっていた。失ったお金をすべて取り戻すのには、2000倍にでもなる必要があった。もっと多くのお金を注ぎ込む必要があったんだ。

ハッキングの前には、自分で会社を経営していて、かなりの利益を上げていた。可処分所得が大いにあったんだ。暗号資産に投資していたのは、自分のお金だけだった。しかし、ハッキングの後には、もっとお金が必要になった。そこで、より多くの資金を得るために、色々試した。

──どのようなことを?

まずはローンを借りた。これが金利の高いひどいローンだったんだ。そのうち、ローンについて手紙が届くようになった。そして恋人が心配し始めた。それから、友人にお金を借り始めた。そして両親だ。最後には、盗みに走った。これについては、本当に恥ずかしく思っている。ここでもう、最後の一線を超えてしまった。

──詳しく聞かせてもらえますか?お友達やご両親に、どのようにお金を借りたんですか?

暗号資産についていつも熱心に語っていることを、少し恥ずかしく思っていたから、「銀行口座で問題があって」という風に頼んだ。もしくは、自分で会社を経営していることを知っている人には、「顧客からの入金を待ってるところだ」とか、「請求書の決済を待っていて、ちょっとお金が必要なんだ。1回限りだ」とか言った。そして借りたお金を、暗号資産に使った。

──新しいアルトコインに投資したんですね?

そうだ。嘘をついたんだ。

盗みに発展

──ご両親には?

両親はいつもとても優しかった。本当に良い人たちだ。ちょっと人が良すぎるくらい。親にお金を無心するのはバツが悪かった。母親の銀行口座とキャッシュカードのPINコードを知っていたので、お金を盗んだ。

大した額ではなかったが、とにかく必死だった。あるプロジェクトにどうしても投資したくて、でもお金が足りなかった。だから両親からお金を盗んだんだ。

──お母様は気づいたのですか?

ああ。もちろんひどく落胆していた。自分のことも責めていた。「育て方を間違えたのか?」と。自分のせいだと思っていて、本当に痛ましかった。

──恋人との関係にはどんな影響が?

ひどい時期だった。もし私が彼女だったら、別れていただろう。しかし、関係がひどく悪化しても、彼女はすごく支えてくれた。すべてを知っていたんだ。私がすべてを話した。

──依存症そのものはどんな感じだったのでしょうか?

価格は頻繁にチェックしていたが、それは大きな問題ではなかった。暗号資産にとにかく夢中で、常にユーチューブで動画をチェックして、いつも「次なる大物プロジェクトは何だ?」と考えていた。フェイスブックグループに多くの時間を費やし、「教祖」的な人たちをフォローし、あらゆるものを調べていた。

──仕事にはどんな影響が?

自分で事業を運営していたので、自由が多くあった。もうこの時点では、暗号資産ばかりやっていた。会社を維持するために最小限のことしかしていなかったんだ。会議にも出ないし、まったく関心を払っていなかった。それでひどい状態になったんだ。

そしてある時、恋人が言ったんだ。「助けが必要だ」って。そこでサポートしてくれる場所を見つけて、治療施設に入った。

治療を経て

──施設はどのような感じでしたか?

高額なところで、両親が支払ってくれた。1対1のセッションが多かった。問題の根本原因を探ろうとしてくれたんだ。「なんでそんなにお金が欲しかったのか?」と。「ギャンブル依存症として治療する」と言われた時には、驚いた。

──どのような変化がありましたか?

最初は「この施設を出て、『普通』の暗号資産投資家みたいに振る舞えるかも」と思っていた。夢中になっていた小規模のプロジェクトからは距離を置いて。しかし施設では、「本当に大きな問題を抱えているのだから、完全に暗号資産とは縁を切るべきだ」と言われた。

──縁を切ったのですか?

ああ。お察しの通り、辛かった。特に強気相場の頃は、本当に辛かった。けど今は、もうダメだって分かっているから。もうオンラインで関わり始めちゃダメだと。新しいプロジェクトや戦略を探り始めたら、もう手に負えなくなると、分かっているんだ。

──どうやって自分を律しているのですか?

施設では、自分に喜びを与えてくれる他のことに集中するよう教えてもらった。だから本当に健康的になったんだ。ワークアウトを熱心にしている。健全なもの、正気を保ってくれるもので、依存症を置き換えたんだ。今では小さい子供が2人いるから、彼らのおかげで、暗号資産のことを考えないで済んでいる。

──暗号資産をチェックしてしまわないよう、安全策のようなものをお持ちですか?

Freedomというアプリを使っている。特定のサイトをブロックできるから、暗号資産関連のサイトはすべてブロックしている。あまりコンピューターを使わないようにもしている。スクリーンタイムを制限して、目に触れる可能性を減らしているんだ。ソーシャルメディアもブロックしている。

──誰にとっても健康的なやり方ですね!最後の質問です。昔のあなたのような状況に現在置かれている人に対して、何かアドバイスがありますか?暗号資産中毒かもしれないと感じている人たちに対して?

「大した問題じゃない」と思いがちだ。友人にもそういう人たちがいる。施設に入る必要があるという訳ではないが、値上がりしているかどうかチェックするために、しょっちゅう携帯を見ているのは、健全ではない。問題があると認めること。それが最初の一歩だ。

2つ目は、手持ちの暗号資産を安全に守ること。安全対策のための時間をとること。中毒とは関係ないのは分かっているが、言っておく必要がある大切なことだと思って。

──賢いアドバイスです。お話を聞かせてくださってありがとうございました。ご健勝を祈ります。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:‘I Totally Obsessed Over It.’ How Crypto Addiction Almost Ruined My Life