メタバースによって生まれる変化【専門家たちに聞く】

CoinDeskでは、数多くのエンジニア、企業幹部、専門家たちに、メタバースが現状のインターネットにどのように統合されるか、それが経済的インセンティブをどのように変化させるかについて意見を聞いた。

寄せられた答えは、登場してくる新しいビジネスモデル、これまでの典型的なインターネット広告モデルをより「品のある」ものにするための方法など、多岐にわたった。

さらに、メタバースによって私たちが人々と交流する方法はどう変わるのか、注意すべき技術的問題などについての見解も寄せられた。


オープンメタバースが悪質なビジネスモデルを阻止

イリーナ・カラギャウル(Irina Karagyaur)氏:コンポーザブルNFTのためのブロックチェーンを手がけるユニーク・ネットワーク(Unique Network)のメタバース担当責任者

シンプルな真実を紹介しよう。ウェブ3と呼ばれる分散型ウェブは、これからの10年間で飛躍的に成長するだろう。しかし、実際に影響をもたらすようになるのは、その先の10年になってからのことだ。

ウェブ3は、私たちが知っているようなインターネットのアイデンティティ、有用性、収益化モデルを根本から変えることができる。その時が来たら、インターネットは主に、分散型ノードを通じて運営され、トークンエコノミーの可能性を見せてくれるだろう。

対照的に、古くさい中央集権型インターネット(ウェブ2)は、企業、テックビリオネア、国民国家によって、管理、操作され続けるだろう。現在のテック大手が時間とともに、CBDC(中央銀行デジタル通貨)や簡単に監視できるアイデンティティプロトコルを飲み込んでいくだろう。

テクノロジーがどのように展開するかは、時間が経たなければ分からず、ウェブ2は、人々やプラットフォームがオープンメタバースへと入っていく時のドアの役目を果たすかもしれない。

そのような世界では、現在のテクノロジーによる操作や不公平さは評判を失い、応用することは不可能となっているだろう。メタバース、そしてトークン経済の可能性は究極的に、これまで不可能であった様々な収益化のアプローチを可能にする。学びと開発を続けよう。


品のある広告

ジョシュア・トブキン(Joshua Tobkin)氏:クロスチェーンのオラクルソリューションを手がけるスプラオラクルズ(SupraOracles)のCEO

広告などの伝統的インターネットビジネスモデルの一部は、メタバースでも生き残るだろう。しかし、分散型アイデンティティやゼロ知識証明といったブロックチェーン関連のテクノロジーのおかげで、基盤を適切に築けば、人々のプライバシーはメタバースの中で保存できる。

それでも、プライバシーやアイデンティティ関連のテクノロジー、とりわけゼロ知識証明を活用することには、通信の遅延の悪化という、さらなる問題がついて来るかもしれない。ゼロ知識証明自体が、実行するのに演算能力を多く必要とするからだ。

インターネット上では、レコメンデーションエンジンがリアルタイムで働き、ユーザーと最も関連性の高い広告を、1秒にも満たないスピードでマッチングしている。ゼロ知識証明が数秒から時には数分の遅延をもたらす可能性があるため、企業は賢い解決策を見出す必要がある。

分散型メタバースにおいては、ユーザーは、地理空間的にバーチャル広告の見えないところにいるか、完全にオフラインである間に、レコメンデーションエンジン(ちなみにこれは、広告だけでなく、新しい体験やイベント、人々にユーザーを導く)が、おすすめを演算処理することになる。

この結果、プライバシーの権利を守り、要請があればレコメンデーションエンジンがその広告を選んだ理由と経緯について完全な情報を提供しつつ、個々人に合わせた製品、サービス、体験に関する気の利いたおすすめが提供されるだろう。

このような体験がメタバースで登場してくると、私は考えている。インフラ提供元に対して価値を生み出すために、「過去のインターネット」の実証されたビジネスモデルに頼ることもあるかもしれないが、もっと品のあるやり方ができるはずだ。


メタバースとDeFiの出会い

ライアン・バーカン(Ryan Berkun)氏:分散型流動性プール、テラー・ファイナンス(Teller Finance)の創業者兼CEO

メタバースは、デジタルと実世界でのアイデンティティが交わる多くの場の1つとなっている。ますます多くのソーシャルメディア、ゲーム、金融関連の企業が、メタバースを通じてユーザーとの間に確立できる固有のつながりを認識するに伴って、彼らはメタバースへと移行し、製品やサービスをメタバースへと連れていくだろう。

このことは、経済ツールから仲介業者を排除する分散型金融(DeFi)業界にとっては、ユーザーがメタバース内で暗号資産で取引を行う方法の登場を意味するだろう。友人にトークンを送ったり、ステーキングプールとの取引を行う、といったことが考えられる。ワクワクの大部分は、可能だが、まだ実現していないことの中に眠っている。


仲間を見つける

タラ・フン(Tara Fung)氏:NFTエコシステムのためのプロトコル、Co:Createの共同創業者

コミュニティやつながりを求めるのは人間の性質だ。似たような価値観、関心、経験をもとに、私たちはグループを作る。メタバースとは、私たちのアイデンティティの新たな表現に過ぎず、人々が大切に思うことや、関わりたいものを反映するだろう。特定の好みを持つ人たちのために、多くのメタバースが生まれるはずだ。

個人はあるメタバースから他のメタバースに移動し、自らのアイデンティティとアセット(金融資産やデータなど)を一緒に持っていけるようになるだろう。

スポーツファンは、同じような嗜好を持つファンたちと試合をしたり、体験をシェアできる。音楽ファンは、新進気鋭のアーティストを発見したり、やり取りができるようになる。

それは、各地に点在していたために実世界で集まることが困難であったため、これまでには不可能だったような形だ。ファッションブランドはコレクションを先立って公開し、新製品に対するフィードバックを集め、実店舗という制約のないより個人的な方法で製品を販売することができる。

インターネットは多くの点で、私たちそれぞれが、同じ価値観や関心を共有する仲間を見つけることを可能にしてくれた。これが、帰属意識や理解されているという感情を生み、それは人間の自己意識にとって大いに有益となり得る。

しかし同時に、異なるアイディアや在り方を紹介することを完全に排除してしまうと、社会的亀裂や危険なエコーチェンバーにつながることもある。つながりを生みつつ、社会の健全性を確保するための他者との交流も可能にする、考え抜かれたイノベーションがこの先必要となってくる。


公共善

ジョン・ジェフェリーズ(John Jefferies)氏:ブロックチェーンネットワークのインフラ開発を手がけるブロックネイティブ(Blocknative)の最高マーケティング責任者

パンデミックの始まり以来、私たちはある意味で、メタバースの最初のバージョンの中に暮らしてきた。ズーム上で会話をし、それまでに会ったことのない人たちと個人的な関係を築き、オンラインでいることが当たり前になったことは、「真の」メタバースが、私たちの日々の暮らしにどれほど組み込まれたものになるかを示唆している。

フェイスブック(メタ)が謳っていることとは対照的に、メタバースは水道のような公益事業的に機能するので、メタバースはインターネットへのアクセスと同じように、公共善として分類されるだろう。

インターネットの利用と同じように、メリットは膨大だが、留意すべき危険性もある。安全でユーザーな体験のために、ユーザーがプライバシーを守り、セキュリティやレジリエンスを向上させ、古くさいユーザーネームとパスワードでの認証プロセスのハードルを取り除くことに役立つツールを準備しておくことが大切だ。


相互接続され、コンポーザブルで、協調的

Timeshel:互恵的なウェブ3開発を目指すビットダオ(BitDAO)に貢献する主力開発者

「メタバース」という言葉は、ニール・スティーヴンスンが1992年発表の小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』の中で生み出された。この小説では、メタバースはインターネットの没入型の後継版として描かれており、私たちが現在知っているOculusに接続された世界とそれほど異なってはいなかった。米ドルよりも、規制の緩い電子通貨が好まれ、国民国家は分散化されて、民間組織に取って代わられていた。

フェイスブックが昨年10月にメタと社名変更した時、スティーヴンスンのディストピア的な世界を思い起こさずにはいられなかった。メタがメタバースの世界に進出したことは、将来的な計画を明らかに示唆していた。

その計画とは、現行のウェブの没入型で忠実度の高い拡張版を開発することである。つまり、少数の巨大企業が先導、管理し、コンテンツとゲームのために広告収入を基盤としたモデルを採用し、フェイスブックの既存のソーシャルグラフ(人間同士の結びつき)が基盤となるプラットフォームを作ろうとしているのだ。

メタによる中央集権的なメタバースとは対照的に、世界中の開発者たちは協力して、代替的なエコシステム、ハイパーバースの基盤を開発しようとしている。ウェブ3とも呼ばれるこのハイパーバースは、徐々に分散化されるウェブであると同時に、相互接続され、コンポーザブル(構成や組み立てが可能)、そして協調的なインターネットだ。直線的ではないデジタルスペースなのだ。

このようなウェブ3は、マルチメディア、コミュニティ、金融プロトコルが含まれ、永続的で非許可型の共有インフラレイヤーとして機能するブロックチェーンテクノロジーに支えられる。

このような動きは、相互接続されたテクノロジー、メディア、プロトコル全体で所有権が再分配される、オンラインの力関係の再構築を象徴している。その範囲は、オーディオ、ビデオ、ストーリー、アート、ゲームから、トークン化されたインセンティブシステム、プログラム可能な通貨にまで至るのだ。

自律分散型組織(DAO)のような新しい組織モデルが、この進化を支えるために登場してきており、プラットフォームのインセンティブを、共同の価値観の構築へと設定し直している。

そのゴールは、協調的経済を使って、伝統的な組織とDAOを組み合わせ、伝統的インセンティブをトークン化モデルと組み合わせ、伝統的テクノロジーをブロックチェーン基盤のシステムと組み合わせることで、インターネットを再びオープンなものにすることだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The New Ways of Making Money in the Metaverse